2014年9月25日

『ジェラシー』フィリップ・ガレル

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"砂漠"に天使の笑声が響き渡る、ガレルの新作
上原輝樹

ガレルの映画を見ていると、主人公の男が住む、何の飾り気もない、その白い部屋が"砂漠"のように見えてくることがある。それは、作品に応じて、時に荒い粒子で、時にシルクのような滑らかさで描写されるブラック&ホワイトのフィルムを通じてスクリーンに映し出される。パリの街角や何気ない日常の風景も、多くの場合は光と影の強いコントラストの下、明暗がはっきりと別れ、全ては強い太陽の陽射しのもとで焼き尽されて脱色してしまった"砂漠"のように見える。果たして、人はそんな環境で生き続けることが出来るのだろうか?

思い起こしてみれば、そうしたホワイトキューブに住む主人公を最初に描いたのはゴダールの『勝手にしやがれ』だったのかもしれない(あるいは他にも色々あるかもしれないが)。さらに記憶を時系列に辿ってみると、ブレッソンの『抵抗』の薄汚れた四角いの部屋のイメージが浮かんでくる。もちろんそれは、主人公が囚われている牢獄のことだ。『抵抗』の主人公は最後にはそこから抜け出ることに成功するが、『勝手にしやがれ』の主人公は逃亡の果てに犬死にする。どちらもそこから抜け出ようとしていることに変わりはない。

しかし、ガレルの映画では、人はその"砂漠"の中を永遠に彷徨い続けている。そして、世界には実際に砂漠で生活をする民もいるように、人が住むのは不可能かと思われた、焼き尽された地に、長い年月を経て"家族"のようなものが誕生していることを私たちは目撃してきた。フィリップ・ガレルの最新作『ジェラシー』で、私たちはついに、"砂漠"に響き渡る子どもの笑い声を聴くことになるだろう。これには、如何にして人が心の中に"砂漠"を抱えたまま、年を重ね、子どもを授かり、家族を形成することが出来るのか、その生々しい数十年間の軌跡を一瞬で目撃してしまったかのような、鈍い衝撃を感じずにはいられない。トリュフォーのアントワーヌ・ドワネルの冒険 五部作や、最近ではリンクレイターの12年越しの傑作『6才のボクが、大人になるまで。』と並び称されるべき、ガレルの生涯を通じた映画の冒険は、まだまだ続いている。
 
 
20140925_02.jpg『ジェラシー』
英題:Jealousy

9月27日(土)よりシアターイメージフォーラムにてロードショー!

監督・脚本:フィリップ・ガレル
撮影:ウィリー・クラン
音楽:ジャン゠ルイ・オベール
プロデュース:サイド・ベン・サイド
出演:ルイ・ガレル、アナ・ムグラリス、レベッカ・コンヴナン、オルガ・ミルシュタイン、エステール・ガレル

(C)2013 Guy Ferrandis / SBS Productions

2013年/フランス/77分/デジタル/モノクロ
配給:boid、ビターズ・エンド

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