2013年12月27日

『フォンターナ広場 イタリアの陰謀』マルコ・トゥリオ・ジョルダーナ

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star.gifstar.gifstar.gifstar.gif 上原輝樹

『輝ける青春』(03)の名匠マルコ・トゥリオ・ジョルダーナ監督の最新作『フォンターナ広場 イタリアの陰謀』は、"鉛の時代"前夜に起きた、フォンターナ広場爆破事件の真相を描く、重厚な会話劇にして傑出した人間ドラマに仕上がっている。東西冷戦の中で、モラルを失った国家が如何にして陰謀を巡らせたのか、複雑に錯綜したパズルのピースひとつひとつを丹念に埋めてゆく気の遠くなるような調査に基づいて作られた本作は、フランチェスコ・ロージの『シシリーの黒い霧』(62)や『キリストはエボリで止まった』(79)、マルコ・ベロッキオの『夜よ、こんにちは』(03)や『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』(09)といった、イタリア政治映画の正統に連なる作品であると言って良いだろう。

主演男優ヴァレリオ・マスタンドレアを始め、後に誘拐、暗殺されることになるアルド・モーロを演じるファブリツィオ・ジフーニやネオ・ファシストの弁護士を演じるジョルジョ・マルケージ等の充実した俳優陣とイタリア映画ならではのダンディズム溢れる衣装や"暗い時代"を表現したルックなど、映画的な見所にも事欠かない。"善きもの"が永遠に失われる時にラジオから流れる、ギリシアの軍事クーデターを機に国外脱出したヴァンゲリスが組んだバンド、アフロディテス・チャイルドの楽曲「Rain and Tears」が、郷愁を誘うばかりではなく、"国家"というヴァーチャルなシステムが非人間的に機能する時の残酷さを、21世紀の私たちに向けて知らせている。

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『フォンターナ広場 イタリアの陰謀』
英題:PIAZZA FONTANA, The Italian Conspiracy

12/21(土)、シネマート新宿ほか全国順次公開

監督:マルコ・トゥリオ・ジョルダーナ
製作:リカルド・トッツィ、ジョヴァンニ・スタビリーニ、マルコ・キメンツ
原作:パオロ・クッキアレッリ
脚本:マルコ・トゥリオ・ジョルダーナ、サンドロ・ペトラリア、ステファノ・ルッリ
撮影:ロベルト・フォルツァ
美術:ジャンカルロ・バージリ
衣装:フランチェスカ・サルトーリ
編集:フランチェスカ・カルヴェリ
出演:ヴァレリオ・マスタンドレア、ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ、ミケーラ・チェスコン、ラウラ・キアッティ、ファブリツィオ・ジフーニ、ルイジ・ロ・カーショ、ジョルジョ・コランジェリ、オメロ・アントヌッティ、トマ・トラバッチ、ジョルジョ・ティラバッシ、ファウスト・ルッソ・アレジ、デニス・ファゾーロ、ジョルジョ・マルケージ、アンドレアピエトロ・アンセルミ、セルジョ・ソッリ、アントニオ・ペナレッラ、ステファノ・スカンダレッティ、ベネデッタ・ブチェラト、ブルーノ・トリージ、ディエゴ・リボン、ファブリツィオ・パレンティ、エドアルド・ナトリ、フランチェスコ・シャッカ、マルチェロ・プライエル、ルカ・ジンガレッティ

© 2012 Cattleya S.r.l. - Babe Films S.A.S

2012年/イタリア・フランス/129分/カラー
配給:ムヴィオラ


2013年12月11日

『バックコーラスの歌姫たち』モーガン・ネヴィル

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star.gifstar.gifstar.gifstar.gif 上原輝樹

冒頭から「ワイルドサイドを歩け」を、"素晴らしい歌詞が素晴らしい曲を生むのよ!"とルー・リードの詩を興奮気味に賞賛するバックシンガーが登場して気分が上がる。続いて名コーラスのある曲として紹介されるのが、トーキング・ヘッズの「スリッパリー・ピープル」なのだから、モーガン・ネヴィル監督の趣味の良さは疑いようもない。映画は、60人近いシンガーたちに取材を重ね、その中からダーレン・ラブ、メリー・クレイトン、リサ・フィッシャー、クラウディア・リニア、タタ・ヴェガ、ジュディス・ヒルの6人に焦点を当て、60~90年代のロック/ポップ・ミュージックの魅力を惜しげもなく伝える、第一級の音楽映画に仕上がっている。

ローリング・ストーンズ「ギミー・シェルター」の"Rape, murder!  It's just a shot away, It's just a shot away"のフレーズで一躍名を馳せたメリー・クレイトンの、本作では紹介されない収録時のエピソードが残されてるので、ここで紹介しておきたい。ストーンズの面々は、LAのスタジオで真夜中にこの曲のミキシングをしていたが、どうしても女性コーラスが必要だということになり、プロデューサーのジャック・ニーチェが、もうベッドに入って眠ろうとしていたメリー・クライトンを、凄いチャンスだからと説得してスタジオに呼び寄せた。今、私たちがアルバムで聴く事のできる素晴らしい「ギミー・シェルター」のバック・コーラスは、たった3回のテイクで録音され、ゴスペル仕込みのメリーの歌唱力に、その場にいた誰もが魅了された。メリーはこの曲を契機にソロ・アーティストへのチャンスを掴んで行くことになるが、この時妊娠していた彼女は、この真夜中のレコーディングでの過剰な緊張が災いして流産してしまったのだ。さすがに、ミック・ジャガーが笑顔で登場する本作でこのエピソードが紹介されることはないが、今尚活躍を続けるメリー・クライトンの姿を存分に見ることができる。『バックコーラスの歌姫たち』は、一級品の音楽映画であると同時に、自らの道を歩む女性たちへの讃歌でもある。

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『バックコーラスの歌姫たち』
原題:20 FEET FROM STARDOM

12月14日(土)より、Bunkamuraル・シネマほか、全国順次公開

監督:モーガン・ネヴィル
製作:ギル・フリーゼン、ケイトリン・ロジャーズ
撮影:ニコラ・B・マーシュ、グレアム・ウィロビー
編集:ジェイソン・ゼルデス、ケヴィン・クローバー
出演:ダーレン・ラヴ、メリー・クレイトン、リサ・フィッシャー、タタ・ヴェガ、クラウディア・リニア、ジュディス・ヒル、ブルース・スプリングスティーン、ミック・ジャガー、スティング、スティーヴィー・ワンダー、シェリル・クロウ、ベット・ミドラー、パティ・オースティン、クリス・ボッティ

© 2013 Project B.S. LLC

2013年/アメリカ/90分/カラー/ドルビーデジタル
配給:コムストック・グループ

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