2015年12月22日

『ディーン、君がいた瞬間』アントン・コービン

20151222_01.jpg

上原輝樹

"伝説"になる直前のジェームス・ディーンと野心に満ちた新進写真家デニス・ストック、二人の若者に与えられた限られた出会いの時間を通じて、写真家が、如何にして人の人生(原題:Life)のささやかな瞬間を"特別な瞬間"に凝縮することに腐心しているかということを、ポートレート写真家としての名声を欲しいままにしたアントン・コービンが、自らの体験を投影したかのような親密さで描き出した。

ジェームス・ディーンを演じるデイン・デハーンは、ジェームス・ディーンの体型に似せるべく、体重を増やして役作りをしたという。個人的には、その結果いささか丸顔になった貌つきと、如何にもディーンらしい独特の喋り方の物真似に些か不安感を感じながら映画を見始めたが、そうした表面的な引っかかりは、映画を見ている内に気にならなくなった。それはこの作品が湛えるパーソナルな佇まいに次第に惹き付けられ、"デイン・デハーンが演じるジェームス・ディーン"の演技を楽しむことができたからだと思う。

20151222_02.jpg

一方、『トワイライト』シリーズで一躍名を馳せたロバート・パティソンは、以降、クローネンバーグの『コズモポリス』(12)、『マップ・トゥ・ザ・スターズ』(14)への出演や、『神様なんかくそくらえ』(14)のサフディ兄弟との新作への参加など、『トワイライト』で得た僥倖を映画界へ"お返し"するかのような仕事ぶりに好感が増す一方だが、本作における、新進写真家の役柄も、目立って野心的な役柄というわけでもなく、実直に新進写真家の焦りと苦悩を表現しており、決して悪くない。

もっとも、この映画の見所は、この二人の若い俳優の存在だけではない。本作の舞台となった"1955年のハリウッド"では、ニコラス・レイが新作『理由なき反抗』(55)を撮る準備を進め、エリア・カザンの新作『エデンの東』(55)の試写が行われていた。そして、ワーナー・ブラザースの社長ジャック・ワーナーが辣腕を振るう、それが"1955年のハリウッド"である。試写室のシーンで、煙草を吸いながらスクリーンを見つめる人々の姿が描かれていたのには、新鮮な驚きを感じたが、ニコラス・レイやエリア・カザンといったハリウッド50年代の呪われた巨匠たちを、写真家出身のアントン・コービンがそれに相応しい描き方をしていたかには、大いに疑問が残る。

20151222_03.jpg

とはいえ、ジャック・ワーナーをベン・キングスレーに演じさせ、その怪人ぶりをユーモラスにデフォルメして描いているところは、コービンの"ハリウッド"を見るアングルが明確に示されていて興味深い。このアングルが、当時、"時代の反逆者"として祭り上げられたジェームス・ディーンが、ハリウッドメジャースタジオが展開する広告宣伝を始めとする、演技以外でスター俳優に求められるコミットメント、大人社会の"ルールの規則"への"違和感"に見事に投影されているからだ。それは"反逆"というにはあまりにも、繊細な"違和感"であり、今なら"オルタナティブ"と言った方がしっくりくるはずの"来るべき未来"への萌芽である。イギリスのポスト・パンク/ニュー・ウェイヴシーンの証人となったコービンが、さらにそのルーツを遡り、"1955年のハリウッド"に接続するさまを見るのは、何かとても愉快なことだ。


 
『ディーン、君がいた瞬間』
原題:Life

12月19日(土)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー

監督:アントン・コービン
製作:イアン・カニング、エミール・シャーマン
脚本:ルーク・デイヴィス
プロダクションデザイン:アナスタシア・マサロ
衣装デザイン:ガーシャ・フィリップス
撮影:シャルロッテ・ブルース・クリステンセン
音楽:オーウェン・パレット
出演:デイン・デハーン、ロバート・パティンソン、ジョエル・エドガートン、ベン・キングスレー、アレッサンドラ・マストロナルディ

Photo Credit:Caitlin Cronenberg, (C) See-Saw Films

2015年/カナダ、ドイツ、オーストラリア/112分/カラー/シネマスコープ/5.1chデジタル
配給:ギャガ

Recent Entries

Category

Monthly Archives

印刷