2015年6月 5日

『ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男』テイト・テイラー

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上原輝樹

5歳のときに自分を捨てた"母"(ヴィオラ・デイヴィス)との確執や、少年院で知り合い身元を引き受けてくれた"恩人"ボビー・バード(ネルサン・エリス)との友情にまつわるサイドストーリーを横軸に展開しながら、"ゴッドファーザー・オブ・ソウル"ジェームス・ブラウンの生涯を、アメリカ合衆国の社会背景を要所要所に織り込みながら描いた本作は、生まれた時にすでに死んでいた"神の子"JBの圧倒的な個性とバイタリティ、ブラックコミュニティにおける影響力の大きさを示すエピソードの数々の面白さはもとより、JBのライブステージを再現したパフォーマンスシーンが圧倒的に素晴らしい音楽映画である。

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凝りに凝ったライブ再現映像の数々は、観客を入れた会場で、オリジナル音源に合わせて、出演したミュージシャンたちが実際に演奏するところをキャメラが捉え、編集の段階で画と音の同期が取られた、言わば、緻密に作られた娯楽映画ならではの"大嘘"映像なわけだが、物語の流れの中で、的確に選曲され配置された、チャドウィック・ボーズマンを始めとする俳優陣とミュージシャンたちのパフォーマンスには、"嘘から出たまこと"の迫真力が漲っており、見るものを気持ち良く酔わせてくれる。あのJBのスーパーファンクが、スクリーンから大音量で流れてくる、その波動を全身で受け止めることの身体的な喜びがこの映画にはある。

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そして、トット・テイラー監督の演出による、過去の再現シーンにはあまりにも"映画的"というべきシーンが確かに存在している。それは、少年時代のJBが、お腹に「1」という数字をペンキで書かれ、大小の黒人少年たちと共に四角いリングに集められ、"賭け"ボクシングを白人の酔客たちの前でやらされるシーンでのこと。したたかに打ちのめされてリングで倒れた少年JBが目にするのは、白人の酔客の前でJAZZを演奏する黒人ミュージシャンたちの姿、倒れた少年JBは、アンクル・トムの黒人ミュージシャンたちを凝視し、彼らがやがて立ち上がり、強烈なファンクビートに合わせてソリッドなホーンセクションを鳴らし始める演奏シーンを幻視する。『ブルース・ブラザース』(80)の脚本を監督のジョン・ランディスと共に手掛け、リアルJBとも共演を果たしたダン・エクロイドの出演や、リトル・リチャードのチャーミングな描写など、見所に事欠かない本作だが、自己憐憫の情など微塵もない、見るものに勇気を与えるこのマジカルなシーンの素晴らしさに、本作を見るべき最大の理由が詰まっている。

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『ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男』
原題:Get On Up

5月30日(土)より、シネクイントほか全国公開

監督:テイト・テイラー
プロデューサー:ブライアン・グレイザー、ミック・ジャガー
出演:チャドウィック・ボーズマン、ネルサン・エリス、ダン・エイクロイド、ヴィヴォラ・デイヴィス、オクタヴィア・スペンサー、ティカ・サンプター、ジル・スコット

© Universal Pictures

2014年/アメリカ・イギリス/139分/ビスタ/カラー/デジタル5.1ch
配給:シンカ、パルコ

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