2014年6月23日

『ホドロフスキーのDUNE』フランク・パヴィッチ

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star.gifstar.gifstar.gifstar.gif 上原輝樹

世紀のカルト映画『エル・トポ』(70)と『ホーリー・マウンテン』(73)が立て続けに大ヒットを遂げ、時代を見方につけたアレハンドロ・ホドロフスキーは、プロデューサー ミシェル・セドゥーの「どんな作品でも、君の作りたい作品を作っていい」という殺し文句に応えて、フランク・ハーバートの壮大なSF小説「DUNE」の映画化に向けて"奔走"し始める。インターネットの網の目が世界中に行き渡る21世紀と違って、ホドロフスキーは理想の人材と組む為に、文字通り、世界中を奔走して、共に闘うことのできる<魂の戦士たち>を集めていく。本作は、そのプロセスを、『七人の侍』(54)の如き、見るものを魅了する神憑ったエピソードの数々と共に時系列で紹介していく。

そうして集められた<魂の戦士たち>は、サルバドール・ダリ、ミック・ジャガー、ウド・キア、オーソン・ウエルズ、デヴィッド・キャラダイン、メビウス、H・R・ギーガー、クリス・フォス、ダン・オバノン、ピンク・フロイドといった錚々たる才能が揃ったが、ハリウッドのメジャー・スタジオのトップは、それでもGOサインを出さなかった。メジャー・スタジオは、ホドロフスキーの"監督"としての能力に最大の疑念を抱いていたからだ。

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しかし、今にしてみると「DUNE」映画化の挫折は、映画作家ホドロフスキーの身に起きた最大の試練であったと同時に、最大の恩寵でもあったのかもしれない。ホドロフスキーの未完の「DUNE」プロジェクトは、今や、『スター・ウォーズ』(77)、『エイリアン』(79)、『ブレードランナー』(82)といった誰もがその名を知るSF映画に影響を与えたインスピレーションとして、映画史に名を残しているのだから。

ホドロフスキーへの愛に満ちた本作は、そのことを証言する言葉の数々を余すところなく捉えながら、この類い稀なる映画作家の意外な本性を描き出している。それは、アレハンドロ・ホドロフスキーは"出会いの達人"であるということだ。ホドロフスキーは、自らの名誉挽回を機に、彼を敬愛する若きフラック・パヴィッチの力を借りて、ここでも"出会いの達人"ぶりを発揮した。ホドロフスキーは、本作への出演を機に再会を果たしたプロデューサー ミシェル・セドゥーと、最新作『リアリティのダンス』を作る契機をこの作品によって得たのだ。

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そして、原作とは結末を敢えて変えたのだとホドロフスキーが語る、集団的意識が何世代にも渡って受け継がれていき、やがて世界を変えていくだろうというホドロフスキー版「DUNE」結末は、つい先だって上映された、ボリビア・ウカマウ集団の新作『叛乱者たち』(12)で描かれたトゥパク・カタリ(「われわれは100万人になって戻ってくる!」)の200年越しの革命成就の"実話"を想起させる。ホドロフスキーは、作れなかったひとつの映画を通じて、商業映画とアートフィルムの枠を超えてハリウッド映画史に名の残しつつも、かつて、自らを拒否したハリウッドに、今改めて背を向けて、アートフィルムの不滅性の夢を健やかに生き続けている。
 
 
『ホドロフスキーのDUNE』
原題:Jodorowsky's Dune

6月14日(土)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷アップリンクほかにて全国順次公開

監督:フランク・パヴィッチ
製作:フランク・パヴィッチ、スティーヴン・スカルラータ
製作総指揮:ドナルド・ローゼンフェルト
撮影:デヴィッド・カヴァーロ
出演:アレハンドロ・ホドロフスキー、ミシェル・セドゥー、H.R.ギーガー、クリス・フォス、ニコラス・ウィンディング・レフン

2013年/アメリカ/90分/カラー/16:9
配給:アップリンク、パルコ


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