フィリップ・ガレル、重なり合うときの中で
最新作『ジェラシー』公開記念特集



ヌーヴェルヴァーグ以降のフランスの映画作家で最も重要な映画作家のひとり、フィリップ・ガレルの新作『ジェラシー』の公開を記念して、日本未公開作品も含め、彼の作品を時代、愛した人々を軸に、その魅力の源泉に触れることができる貴重な特集上映が行われる。しかも、「没後30年フランソワ・トリュフォー映画祭」のためにトリュフォー、ゴダール、ガレルの映画=人生を生きた唯一無二の俳優ジャン=ピエール・レオーが来日して、ルー・カステルとレオーが共演した『愛の誕生』上映前に舞台挨拶をするという。その時、ジャン=ピエール・レオーはどんな言葉を発してくれるのか、今からざわつく気持ちを抑えきれない。
(上原輝樹)
2014.9.25 update
おすすめ映画:『ジェラシー』
ジャン=ピエール・レオー舞台挨拶:全文掲載 2014.11.10 update
9月6日(土)~10月19日(日)
会場:アンスティチュ・フランセ東京
料金:一般 1,200円/学生 800円/会員 500円

特別ゲスト:ジャン=ピエール・レオー

公式サイト:http://www.institutfrancais.jp/tokyo/events-manager/cinema1409061019/
上映スケジュール
9月6日(土)
12:00
救いの接吻
(83分)
14:30
自由、夜
(80分)
19:00
ジェラシー
(77分)
9月7日(日)
12:00
秘密の子供
(95分)
14:30
ギターはもう聞こえない
(98分)
16:30
内なる傷痕
(60分)
10月3日(金)
18:30
恋人たちの失われた革命
(182分)
10月10日(金)
19:00
愛の誕生
(94分)
上映前:
ジャン=ピエール・レオーによる舞台挨拶あり
10月12日(日)
14:30
ギターはもう聞こえない
(98分)
14:00
恋人たちの失われた革命
(182分)
18:00
愛の残像
(108分)



10月17日(金)
19:00
救いの接吻
(83分)
10月18日(土)
13:00
愛の残像
(108分)
15:30
ギターはもう聞こえない
(98分)
18:00
孤高
(80分)
上映後:
樋口泰人によるレクチャーあり
10月19日(日)
13:00
救いの接吻
(83分)
15:30
ギターはもう聞こえない
(98分)
18:00
愛の誕生
(94分)



作品ラインナップ

最新作『ジェラシー』先行試写会(La Jalousie)
2013年/77分/デジタル/モノクロ/日本語字幕付

舞台俳優のルイは、クロチルドと娘のシャルロットの住む家を出て、同じ俳優で新しい恋人クローディアとパリの小さな屋根裏部屋で暮らし始める。ルイは次々に舞台の仕事を得るが、クローディアには仕事がない。彼女は彼を愛しているが、彼が去っていくを恐れている。ある晩、彼女はひとりの建築家と出会い、仕事の提案を受ける。ルイはクローディアを愛しているが、今度は彼が彼女を失うことを恐れ始める。そしてふたりの間には、シャルロット、ルイの娘がいる...。

「この作品のテーマ、それは私の息子ルイが祖父を演じるということだ(ルイのいまの年齢である30歳の頃の祖父)。 とはいえこれは現在の映画である。この愛の物語は私の父自身の物語だ(当時父の恋人に好感を抱いていた私は、 知らぬ間に自分の母を嫉妬させていた。母は模範的な女性だったのだが......)。だがやはり私は母に育てられた子 供だった(映画内の物語では、私は娘になっている)。
こうして生まれた物語が現在に移植される。そう、30歳の私の父を演じるのは、私の息子だ。」(フィリップ・ガレル)

9月27日より、シアター・イメージフォーラムにて、ロードショー
公式サイト:http://www.jalousie2014.com
『自由、夜』(Liberté, la nuit)
1983年/80分/35ミリ/モノクロ/日本語字幕付
出演:エマニュエル・リヴァ、モーリス・ガレル、クリスティーヌ・ボワソン、ラズロ・サボ、ブリジット・シイ

アルジェリア独立に反対する極右組織OASがテロを繰り返すパリ。アルジェリア解放戦線を支援する活動家ジャンは娘ソフィーを抱えながらも妻ムーシュとの関係に悩み別居中。彼らを取り巻くのは人形使いのラズロらだ。テロの高まりの中、ジャンはついに離婚を決意する。そして彼の気持ちを理解できずに悲しみに沈むムーシュは一人、アルジェリア人達の手助けをしてOASの標的となり殺されてしまう。 ジャンは傷心の中、アルジェ生まれの女性、ジェミナにジャンは激しく魅かれてゆく。主人公ジャンをガレルの父モーリスは、その立ち居振る舞い、独特の声の抑揚によって圧倒的な魅力で演じている。彼の妻を『ヒロシマ・モナムール』のエマニュエル・リヴァを、ジェミナを『ある女の存在証明』のクリスティーヌ・ボワソンが演じている。ミシンをかける、窓を拭く、そうした彼女たちの日常の仕草が忘れがたい美しさでとどめられている。

モーリス・ガレル Maruice Garrel(1923~2011)
最新作『ジェラシー』は、処女作から彼のほとんどの作品に出演する俳優である父、モーリス・ガレルの30歳の頃の物語である。フィリップ・ガレルは貧しい芸術家の家庭で育ち、彼の両親は『自由、夜』で語られているように、人形劇のおかげで何とか生計を立てていた。5歳の時、舞台俳優だった父、モーリス・ガレルは三人の子供を置いて、家を出る。フィリップ・ガレルは彼を介して、直接人生からインスパイアされた作品を作りはじめ、彼の存在はその後も作品に大きな影響を与え続ける。『ジェラシー』は、『訪問の権利』(モーリス・ガレルを主演に、両親の離婚後、彼の新しい恋人とともに過ごす週末を描いた2作目となる作品)のリメイクとなっている。ここで語られているのは、処女作『調子の狂った子供たち』から始まり、『自由、夜』そして『救助の接吻』で語られているカップルの争いの物語の変奏であり、フィリップ・ガレルが父、モーリスの存在なしに彼を語った最初の作品でもある。
『救いの接吻』(Les Baisers de secours)
1988年/83分/35ミリ/モノクロ/英語字幕付
出演:フィリップ・ガレル、ブリジット・シィ、アネモーヌ、ルイ・ガレル、モーリス・ガレル

映画監督のマチューは、妻のジャンヌとの関係を題材に映画を撮ろうとしている。しかし自分の役を他の女優に演じさせることを裏切りとみなすジャンヌは二人の関係を危機に晒そうとする。
監督のガレル自身、当時の妻、ブリジット・シィ、そして幼いルイ、父親のモーリスがそれぞれ現実の自分自身に近い役を演じている。自伝的な作品、かつ自分の家族とともに演じていながら、そこには普遍的な時間、ストーリーが見えてくる。
『内なる傷痕』(La Cicatrice intérieure)
1972年/57分/35ミリ/カラー/日本語字幕
出演:ニコ、ピエール・クレモンティ、フィリップ・ガレル

殺伐とした風景、白い砂漠の中。女と男はひたすら歩き続ける。女は男に問いかける「どこに連れて行くの」。男はときに寄り添うように、ときに振り払うように黙したまま歩き続ける。ガレルはイメージを、ニコがダイアローグを書き、彼女とともに、彼女のために生み出された初めての作品となる。
「『内なる傷跡』は傑作だ。完全なる傑作であり、それをどう説明していいのか分からないほどだ。突如、あらゆる人間性、あらゆる大地が語り出す。(...)驚くべきことに、そこにすべてがある」(アンリ・ラングロワ)

ニコ Nico(1938~1988)
60年代前半、ヌーヴェルヴァーグ次世代の旗手として注目を浴びた映画作家フィリップ・ガレル。パリの五月革命を機にパリを離れたガレルは、1969年、運命の女ニコと出会うことになる。ニコは、モデルとして活躍後、アンディ・ウォホールに見いだされ、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドにボーカルとして参加していた。運命的に出会ったふたりは公私共にパートナーとなるが、79年に離婚。1969年から70年代末までに続く愛の暮らしのなかで、ふたりは数々の作品を生み出した。そのひとつが『内なる傷痕』である。彼らは子供を作るように、共同で作品を制作した。88年にニコが事故により急逝した後も、ガレルは彼女と過ごした日々の記憶を、自身の監督作品のなかに刻み続けてきた。
『秘密の子供』(L'enfant secret)
1979年/92分/35ミリ/モノクロ/日本語字幕付
出演:アンヌ・ヴィアゼムスキー、アンリ・ド・モブラン、シュワン・リンデンマイアー

映画監督バチストと、エリーは、出会い、そしてすぐさま恋に落ちた。しかし、エリーには、スワンという息子がいた。父親は有名な映画俳優だったが、エリーは彼に二度と子供を合わせることはなかった。ガレルはニコとの別離の後、アルレット・ワドマンの助けをえて、ニコとの物語をもとに、初めて長いシナリオを書き、ふたりの記憶をなぞるように撮られた。「『秘密の子供』でガレルは自分たちの世代の苦悩についてとても適切かつ意識的に語っている。本作は、ほんのすこしの希望も持つことを妨げられ、技術に対する情熱の中でそれを示すしかない彼らの世代の精神的荒廃を再現している。この世代にとって、精神的な砂漠を覆い隠すためには熱狂的なやり方で技術を身につけるしか逃げ道がなかったのだ。そしてガレルはその素晴らしい才能によって映画の技術を身につけた。(...)この精神的な苦悩が『秘密の子供』の重要な主題である」。(ジャン・ドゥーシェ)。
『ギターはもう聞こえない』(J'entends plus la guitare)
1990年/98分/35ミリ/カラー/英語字幕付
出演:ブノワ・レジャン、ヨハンナ・テア・シュテーゲ、ヤン・コレット、ミレイユ・ペリエ、ブリジット・シイ

二組のカップル、ジェラールとマリアンヌ、マルタンとローラは、愛について語らい、肩を寄せ合いながら、ポジターノの海辺で共同生活を送る。パリに戻ったジェラールとマリアンヌは、別れと再会を重ねていく。88年に急逝したニコに捧げられた作品で、彼女との出会い(『処女の寝室』)から別れ(『秘密の子供』)、そして彼女の死が描かれている。1991年ヴェネチア映画祭金獅子賞受賞。撮影はフランスを代表する数多くの映画監督と共に仕事を手がけている女性撮影監督のカロリーヌ・シャンプティエ。音楽は、『秘密の子供』 『自由、夜」でも担当しているキーボード奏者であるファトン・カーンがヴァイ オリニストのディディエ・ロックウッドとイギリスのジャズ・シーンを代表するサックス奏者のエルトン・ディーンとともに手がけている。
『愛の誕生』(La naissance de l'amour)
1993年/94分/35ミリ/モノクロ/日本語字幕付
出演:ジャン=ピエール・レオー、ルー・カステル、ヨハンナ・テア・ステーゲ

愛人ウルリカと別れた俳優ポール。妻の元に戻るが幸せではない。些細な喧嘩と幼い子供たちへの愛情。一方小説家マルキュスはヘレーヌが去ってしまった後、 執筆がはかどらない。彼女に会うために友人ポールをつれてローマへと向かう。ポールはそこで若き女性に出会う。ポールは新しい愛を見つけることができるの だろうか。女性への愛情、家庭、社会生活、戦争、そして芸術に捧げられた人生のすべてに引き裂かれていくような、悲痛でかけがえのない時間が展開される。ラウル・クタールによって捉えられた詩的なモノクロの映像、そしてジョン・ケイルのピアノが冬のパリの風景に溶け込んだ、痛々しくも美しい作品。
『孤高』(Les hautes solitudes)
1974年/80分/35ミリ/モノクロ/日本語字幕付
出演:ジーン・セバーグ、ニコ、ティナ・オーモン

ニコとジーン・セバーグ。音のないスクリーンの中で、ジーン・セバーグが、ニコが、話し、笑い、泣き、怒り、抱擁し、そして見つめ返す。カメラはただひたすらガレルが愛した二人の女性を見つめ続ける......。「僕はジーンと、自分の部屋や彼女の家、あるいはカフェで待ち合わせた。窓から中庭に落ちていく雪を見ていた。僕はジーンと映画を作った。彼女の顔を撮った。時々、ジーンは泣いていた。僕はキャメラの後ろにいた。ジーンはアクターズ・スタジオの女優で、心理劇を即興で演じていた。僕は撮影している状況を明かさないまま、ただ彼女の顔だけを撮り、そのポートレートを撮り終えると、ジーンに最初の編集を見てもらった。ジーンはとても気に入ってくれた。ジーンはたくさんの映画に出ていたが、完全に彼女のために撮られた映画に喜びを感じていた。この映画には、彼女の魂、とても美しい魂を見ることができた。」(フィリップ・ガレル)

ジーン・セバーグ Jean Seberg(1938~1979)
「僕はアーティストだった。まだ30歳にもなっていなかった。ちらかった部屋で、ほとんどの時間を孤独に過ごしていた。作った映画はうまくいかなかった。何もない中で映画を作るためにシナリオを書き続けていた。そんな時、ジ-ンに会った。映画女優だが、もう映画に出ていなかった。彼女は自ら命を絶ってしまった。ジーンの顔をした女性が夢の中に現れた(部屋はがらんとしていて、扉は開いていた。その隙間から教会の壁が見えた。亡霊の顔は青白く光っていた。亡霊はこう言った「私は今、いかなければならない。あそこに、あの教会の後ろに。あなたはそこでいつでも私を見つけられるわ。」)テオフィル・ゴティエの『精霊』の中のように、自殺は若い男の前の鏡の中に現れ、彼を死へと誘う。ジーンは別の世界から僕を呼んでいた。だが、どうすればこの物語を現実の生で繰り広げられるというのか。」(フィリップ・ガレル)
フィリップ・ガレルにとって『孤高』(1974)は、ロバート・ロッセン『リリス』(1964) のリメイクでもあった。10年後、『フォンテーヌ通り』(1984)(新パリところどころの一編)に、『自由、夜』に主演したクリスティーナ・ボワソナとともに、ジャン=ピエール・レオーを迎え、ジーン・セバーグとの出会い、彼女の死を焼き付ける。そして、彼女との物語はローラ・スメットの身体を介して、再び『愛の残像』(2008)で語られることになる。
『愛の残像』(La frontière de l'aube)
2008年/108分/デジタル/モノクロ/日本語字幕付
出演:ルイ・ガレル、ローラ・スメット、クレマンティーヌ・ポワダツ

パリ。若い写真家フランソワと人妻で女優のキャロルは激しい恋に落ちるが、すぐに関係は終わりを迎える。その後、キャロルは狂気にとらわれ、自ら命を絶ってしまう。1年後、フランソワは新しい恋人と幸せな日々を過ごしていたが、 突然キャロルの姿が見えるようになり......。モノクロがあまりにも美しい本作は、名キャメラマン ウィリアム・ルプシャンスキーの遺作となる。
「(...)この作品はしっかりと信じている。映画がときに死ぬことを妨げ、より大きな時間の広がりを与えることができることを。そこでは現在と永遠が混ざり合っている。夜明け(原題は『暁のはざまで』)、それは決してそれでしかない、つまり現在形で演じるひとりの女優である。それはかつてあった物語の、より遠いところで生まれた登場人物である(『孤高』)。しかしこの別の物語は、私たちの女優は知ることはない。幸運なことに、それを知らずに、ローラ・スメットは永遠がすべての希望を完結させることを知りながら演じている。」(フィリップ・アズーリ)
『恋人たちの失われた革命』(Les Amants Réguliers)
2005年/182分/35ミリ/モノクロ/日本語字幕付
出演:ルイ・ガレル、クロティルド・エスム、ジュリアン・リュカ、キャロリーヌ・ドゥリュアス=ガレル、モーリス・ガレル

1968年5月、パリ。20歳になったばかりのフランソワは、兵役を拒否し、街に出て行く。そこには、彼と同じく、失うものはない若者達が大勢いた。それから1年後、彼らは再び集い、アヘンを吸ったり、音楽を聴いたりしながら、無為な時間を過ごす。ある日、フランソワは、彫刻家を目指す美しい女性リリーと出会い、恋に落ちる。彼らの関係は、永遠に続くかと思われたが......。
2005年ヴェネチア映画祭 銀獅子賞受賞(監督賞)・オゼッラ賞(技術貢献賞)
「この作品は、久しぶりに(おそらく『水晶の揺かご』のウォーホルのファクトリー的な作風以来)、ガレルにとって、集団が描かれた映画、共犯関係にある仲間たちの映画なのではないだろうか。この作品に出演しているのは、彼が教鞭を執る国立演劇学校の学生たちであり、彼らはこの作品の肉体を構成し、ガレルは、彼らによって、最も広がりのある波長、つまり偉大なるフォルムに到達している」。フィリップ・アズーリ

68年5月 Mai 68
「68年、パリでは3週間5月革命が続きバークレイでもローマでも同じような学生運動が起きていたので、5月革命についての「アクチュア1」というニュース映画を作り、ゴダールに見てもらいました。その後、ネガを現像所が なくし、ポジは私の家の火事で焼けてしまいましたが、その映画を撮ったことは役に立ちました。本作の68年の武装した状態の機動隊とトラックが橋のところ にいるショット、それは私が当時に撮ったショットと全く同じです。石が積まれ、舗道の敷石をはがしたところも、「アクチュア1」と同じショットです。そし て、この映像のショットを思い出すことの方が、事件そのものを思い出すよりも私にとっては簡単でした。その残りの部分は記憶をもとに作りました。そして、 その周りにラブストーリーを書いたのです。2時間半分のラブストーリーを書き、5月革命の部分につなげました。」(フィリップ・ガレル)


フィリップ・ガレル、重なり合うときの中で
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