2012年5月24日

『メン・イン・ブラック3』バリー・ソネンフェルド


敏腕エージェント<K>ことトミー・リー・ジョーンズと、<J>ことウィル・スミス共演の人気シリーズ第3弾は、今までのコンビに加えて、ジョシュ・ブローリンが若かりし日の<K>役として参戦、寡黙な<K>のキャラクタ造形に新たなレイヤーを加えている。エマ・トンプソンのコメディエンヌぶりも嬉しいまずまず充実したキャスト、奇怪ながら可愛げのあるアウタープラネットからのクリーチャーたちが観るものを楽しませてくれる。意外にもと言っては失礼だが、最近の娯楽大作としては珍しく脚本がしっかりと練られていて、最後には少しホロリとさせられる。1960年代のNYへのタイムスリップでは、あの"ウォホールのファクトリー"が登場、もちろんその描写自体は、"忠実"と"でたらめ"のハリウッド的リミックスなわけだけれども、ヴェルヴェッツの曲が1曲だけとはいえ流れるのだから"善し"としたい。なお、高いお金を払って3Dで見る理由を探すのはちょっと難しい、2Dで充分楽しめる。
(上原輝樹)



5月25日(金)より日米同時公開


監督:バリー・ソネンフェルド
製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:デヴィッド・コープ
出演:ウィル・スミス、トミー・リー・ジョーンズ、ジョシュ・ブローリン、エマ・トンプソン、アリス・イヴ、マイケル・スタールバーグ、ビル・ヘイダー、ジェマイン・クレメント、レニー・ヴェニート

Photo by WILSON WEBB - (C) 2011 Columbia Pictures Industries, Inc. All rights reserved.

2012年/アメリカ/105分/カラー
配給:東宝東和

2012年5月15日

『さあ帰ろう、ペダルをこいで』ステファン・コマンダレフ


ブルガリア映画といえば、カメン・カレフの『ソフィアの夜明け』(09)がすぐに想起されるが、クレジットを見ると、本作は『ソフィアの夜明け』の1年前、2008年に製作されている。『ソフィアの夜明け』は、若者を覆う閉塞感と絶望を首都ソフィアの"郊外"という空間の中に閉じ込めることで純化し、行き場を失った"善良な魂"の崩壊と一瞬の光明を繊細に描いたが、本作は、政治状況から生まれた抑圧を背景に、バックギャモンの名手にして元活動家の祖父バイ・ダン、社会主義体制を嫌い亡命した父ヴァスコ、子サシコ/アレックスの3世代に渡る親子の姿を時間的、空間的(ブルガリア〜イタリア〜ドイツ)拡がりの中で描いている。原題「The World is Big and Salvation Lurks around the Corner/世界は広いー救いは何処にでもある」が意味する通りの、大らかさに満ちた映画である。

しかし、その"大らかさ"は、『ソフィアの夜明け』に充満していた"閉塞感"や、あるいは、つい先日の日仏学院60周年記念上映で観ることができたバルカン映画、ファニー・アルダンの初監督作品『灰と血』の基調を成していた"宿命論的ペシミズム"と呼びたくなるような悲劇性を、その背後に感じとることができるが故に、荒唐無稽なエンディングにすら大喝采を贈りたくなってしまう、重層的な厚みを備えている。クストリッツア映画と地続きであるかのようなミキ・マノイロヴィッチは、本作の真の主役バイ・ダイという魅力溢れる人物の人生そのものを鮮烈に生きているように見えるし、「僕の人生は、バルカン半島のとある場所で始まった。そこで、ヨーロッパは終わり、そこから始まることは決してない」と語った若い主人公サシコは、祖父バイ・ダンとのタンデム自転車の"旅"を通じて人生を生き直す機会を得るだろう。そんな中、しかめっ面で頑張り通すしかなかった父ヴァスコの生涯があまりに哀しく、報われないのだが、"映画"とは、しばしばそうした人生の残酷な真実をそのまま描き出す。しかめっ面を余儀なくされる状況に追い込まれてもなお、大らかであれ!そうすれば、「世界は広いー救いは何処にでもある」のあるのだから!と"太陽と対話をする国"(※)ブルガリアから届けられた本作は言っているようである。
(上原輝樹)



5月12日(土)よりシネマート新宿、5月19日(土)よりシネマート心斎橋にてロードショー!


監督:ステファン・コマンダレフ
原作:イリヤ・トロヤノフ 脚本:ステファン・コマンダレフ、イリヤ・トロヤノフ、デュシャン・ミリチ、ユーリ・ダッチェフ
出演:ミキ・マノイロヴィッチ、カルロ・リューベック、フリスト・ムタフチェフ、アナ・パパドプル、ドルカ・グリルシュ

© RFF INTERNATIONAL, PALLAS FILM, INFORG STUDIO, VERTIGO / EMOTIONFILM and DAKAR, 2008 All rights Reserved

2008年/ブルガリア、ドイツ、ハンガリー、スロベニア、セルビア/105分/カラー/1:1.85/ドルビーSRD
配給:エスピーオー

2012年5月11日

『すべての若き野郎ども モット・ザ・フープル』


近い将来、ザ・クラッシュを結成することになる若き日のミック・ジョーンズが足繁くギグに通い、クイーンが前座を務めたブリティッシュ・ロック史上最高のロックンロール ・ライブ・バンド、"モット・ザ・フープル"。イアン・ハンターが加入するバンドの成り立ちから、ローカル・クラブを熱狂させた伝説的なライブ・パフォーマンス、その圧倒的な実力を評価されながらもアルバム・セールス不振が招いた不遇時代、解散の危機を救った救世主デヴィッド・ボウイが提供した「すべての若き野郎ども」が大ヒットを記録しながらも、グラムとパンクという2大ムーブメントの微妙な中間地帯に位置したがために、時代と寝損ねた最高のロックンロールバンド!あまりにも人間らしい不完全さに満ちたバンドの栄枯盛衰を描く秀作ドキュメンタリー『すべての若き野郎ども モット・ザ・フープル』は、バンドの歴史が醸し出す切なさを遺憾なく捉えていることにおいて紛れもない"映画"たりえている。「Roll Away The Stone」に涙する、ブリティッシュ・ロックファン必見の一作。
(上原輝樹)



5月12日(土)〜6月8日(金)シアターN渋谷にて、4週間限定モーニング&レイトショー!


監督・製作:クリス・ホール、マイク・ケリー
音楽:モット・ザ・フープル
編集:キム・ガスター
撮影:サイモン・ロビンソン、ダン・バーン、ダニー・スペンサー、エイモス・クラーク、アミール、シゼル・クリステンセン
出演:イアン・ハンター、ミック・ラルフス、オヴァレンド・ワッツ、ヴァーデン・アレン、デイル・グリフィン、ルーサー・グロヴナー、モーガン・フィッシャー、ミック・ロンソン、ロジャー・テイラー、ミック・ジョーンズ、アンディ・ジョンズ、ミック・ロック、クリス・ニーズ

© Start Productions © Constance Van Beek

2011年/イギリス/101分/カラー/16:9/デジタル
配給:boid

2012年5月 2日

『王朝の陰謀 -判事ディーと人体発火怪奇事件-』


紀元前7世紀の唐では、中国史上初の女帝、則天武后(カリーナ・ラウ)の権威を誇示する巨大な仏塔<通天仏>の建立が進んでいたが、塔の完成を目前に控えたある日、人体が突然発火し焼き尽くされるという事件が起きる。事態を憂慮した武后は、反逆の罪で投獄していた文武両道の名判事ディー・レンチェ(アンディー・ラウ)を呼び寄せ事件の解決を命じるのだが、、。陰謀渦巻く<唐>の都で、シャーロック・ホームズ的作劇と軽やかなアクションが炸裂、男装の麗人リー・ビンビンがしなやかに跳ね、観るものを軽やかに解き放つ名匠ツイ・ハーク復活劇!

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