2010年6月21日

『闇の列車、光の旅』


中米のホンジュラスからメキシコを超えてアメリカへの越境を目指す主人公の少女が、メキシカン・マフィアの少年と列車の屋根で出会う命がけの逃避行。実際の移民やマフィアへの取材から得た実話とボーイ・ミーツ・ガールの物語の定型を見事なフィクションに再構築した、本作が初長編監督作品となる日系人キャリー・ジョージ・フクナガは、移民問題に一石を投じるとともに、生命力そのものの少女と過酷な現実を生きるしかない少年の絶望を濃密に描いた。少女の強い目と少年の遠くを見つめる視線、そして中米の鬱蒼と茂る緑がいつまでも印象に残る。
2010年6月21日

『ローラーガールズ』


公開から早一ヶ月が過ぎてしまったので、今更ではありますが、、、。ハリウッドの俳優一家に育ち、4歳でスクリーン・デヴュー、女優として華々しいキャリアを築きながらも、私生活で様々なトラブルを経験してきたサバイバー、ドリュー・バリモアの処女監督作品『ローラーガールズ』(エレン・ペイジ主演)は、バリモアらしい毒を発しながらも、なかなかフレッシュな出来映えの青春エンターテイメント。テキサスな彼らのミュージックビデオが本作のイメージソースのひとつになっているに違いない、キングス・オブ・レオンの曲から始まる冒頭からして、バリモアのカルチャー的バックグラウンドを率直に告白する骨太な作家性を感じさせる。巷で言われている"イーストウッドの後継者"というよりは、いつまでもバイオレンス&ガーリーなやんちゃ映画人で居続けてほしい。まだ未見の方は是非。
2010年6月 4日

『春との旅』


今まで親族との付き合いを疎んで我が儘に暮らしてきた老人忠男(仲代達矢)が、ある日突然、家を捨て、疎遠にしていた親族を巡る旅に出る、小林政広版ロード・ムービー。北海道から東北・宮城へと物語の流れに沿って撮影された各地の風情が映画に生々しい潤いを与えている。忠男を支える孫娘の春(徳永えり)の独特の存在感も良いが、何と言っても、大滝修治、菅井きんの老夫婦、旅館を切り盛りするしっかりものの姉を演じる淡島千景といった日本映画史を彩ってきた素晴らしい俳優陣へのオマージュそのものであるかのような映画の佇まいが素晴らしい。"家族"を冷静な視点で見つめる『東京物語』的テーマの変奏は、孤児院で育てられたトリュフォーが、血の繋がった家族ではなく、"映画"の世界に家族を発見せざるをえなかったという、有名な映画史の一コマとも重なって見え、感動を禁じ得ない。

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