2012年3月22日

『僕達急行 A列車で行こう』


森田芳光監督の遺作となってしまった『僕達急行 A列車で行こう』は、出演している役者たちが皆輝いている。松山ケンイチ、瑛太はもとより、他の俳優陣も皆良い。中でも、菅原大吉、村川絵梨、松平千里の3人が目立って良い。そんな"役者の映画"でありながら、森田監督独特の撮り方が貫かれていて、イオセリアーニ監督が批判しているところの、イマジナリーラインを構成する肩越しの切り返しショットはひとつもない。しかも、テーマ的にはルュミエール直系、"列車"の映画である。もちろん、タイトルに入っている"A列車で行こう"は、デューク・エリントンの有名なジャズ・スタンダードにも掛けられていて、松山ケンイチが演じる主人公は鉄道オタクの上に、ジャズマニアでもあるという、マニア系男子の心をくすぐる設定。そうしたディテールを盛り込みながら、『わたし出すわ』(09)同様、経済不況や地方の疲弊といった、リアルなテーマを主題に据え、嫌みのない軽妙なコメディに仕上げている。これからまだまだ成熟して、素晴らしい映画を作ってくれることが期待できた森田芳光監督が逝去してしまったのは本当に残念だ。
2012年3月12日

『ヒューゴの不思議な発明』


マーティン・スコッセシ監督、念願の初3D映画は、職人的映画監督の父というべきジョルジュ・メリエスへの豊かなオマージュに満ちた、映画技法を知り尽くしたスコセッシ監督ならではの感動作である。映画への"欲望"という意味では、アミール・ナデリ監督の『CUT』も負けていないが、この対象に対する過剰な"欲望"は、彼らが活動のベースを置いているニューヨークという街の過剰さに起因しているに違いなく、その最も近い起源は、"アメリカン・インディーズ映画の父"ジョン・カサヴェテスに求めることができるだろう。いずれにしても、『ミーン・ストリート』(73)や『タクシー・ドライバー』(76)、『レイジング・ブル』(80)といった荒ぶるフィルモグラフィでのし上がってきたこの監督が、自分の幼い娘が観るような映画を作るようになったという時の流れに感慨を覚える。
2012年3月 6日

トーマス・アルスラン監督特集


ヴェンダースやファスビンダーらニュージャーマンシネマ世代のインパクトを引き受けた、インディペンデント映画の旗手のひとりとして注目されるトーマス・アルスアラン監督特集がアテネ・フランセ文化センターで行なわれる。アルスランの代表作、トルコ系移民第二世代の若者を描いた三部作『兄弟』『売人』『晴れた日』に加え、トルコを横断し、監督の故郷に対する想いを伝える『彼方より』、アルスラン監督初めてのジャンル映画『イン・ザ・シャドウズ』などが上映される。最終日にはアルスラン監督を迎えてのトークショーも予定されている。

3月6日(火)〜10日(土)@アテネ・フランセ文化センター

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