2014年1月17日

『ドラッグ・ウォー 毒戦』ジョニー・トー

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star.gifstar.gifstar.gifstar.gifstar.gif 上原輝樹

巨匠ジョニー・トーによる、またしても快心の作!かと思いきや、プレス資料の監督談では、中国大陸で撮った映画なので、検閲が煩くて思う通りに撮れなかった、申し訳ない、と語っているではないか。どこを切ってもいつものジョニー・トー節になっているのにも関わらず、、。『ドラッグ・ウォー 毒戦』は、中国公安と麻薬密売人との血みどろの抗争を知的な駆け引きと胸熱の人情をいつも通り盛り込んだ傑作である。ざっくりと、2カ所大掛かりな銃撃戦シーンがあるが、若干冗長で重々しい終盤のそれよりも、中盤の聾唖兄弟( グオ・タオ、リー・チン)が人情味豊かに絡む大銃撃戦があまりにも素晴らしい。西部劇的な広野や、港に停泊する船を一斉に動かすシーンなど、大陸的スケール感も随所に感じさせる。ヒールな主役テンミンを演じるルイス・クーの一本気な感じが良いのか悪いのか微妙な案配だが、スン・ホンレイの芸達者ぶりが大いに楽しめるジャン警部、凛とした魅力のクリスタル・ホアンが切れ味鋭く演じるベイ刑事、劇画調に楽しいハハ兄貴(ハオ・ピン)といったそれぞれのキャラクター造形が秀逸で、3Dなど使わなくても、それぞれの人物が立体的な体積をもってスクリーンから浮き上がってくる。

昨年のTIFF東京国際映画祭で上映された『オルドス警察日記』も中国の公安を描いた秀作だったが、来日したニン・イン監督は記者会見の場で「この映画が撮れる程度には中国の検閲も緩くなってきています」と語った。そうした変化の背景には、人々が映画を作る、映画を求めるエネルギーが、検閲する体制側の権力が持つエネルギーを凌駕し始めているのではないかという考えがふと頭をよぎる。『ドラッグ・ウォー 毒戦』の終盤では、そんなエネルギーが行き場を失ってカオスとなって渦巻いている、その混沌としたさまは『天国の門』すら彷彿させるが、さすがに熱量は及ばない。そこが、ジョニー・トー監督が不満に思っているところなのだとしたら、まだまだこれから、とんでもない作品を撮って私たちを驚かせてくれるに違いない。

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『ドラッグ・ウォー 毒戦』
英題:DRUG WAR

1月11日(土)より、新宿シネマカリテにてロードショー

監督:ジョニー・トー
製作:ジョニー・トー、ワイ・カーファイ
脚本:ワイ・カーファイ、ヤウ・ナイホイ、チャン・ワイバン、ユー・シー
撮影:チェン・チュウキョン
音楽:ザヴィエル・ジャモー
出演:スン・ホンレイ、ルイス・クー、ホァン・イー、ウォレス・チョン、ラム・シュー、ラム・カートン、ミシェル・イェ、ロー・ホイパン、チョン・シウファイ、バーグ・ン、パトリック・クン、ガオ・ユンシャン、ハオ・ピン

© 2012 Beijing Hairun Pictures Co., Ltd. All Rights Reserved.

2012年/香港・中国/106分/カラー
配給:アルシネテラン


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