2013年12月11日

『バックコーラスの歌姫たち』モーガン・ネヴィル

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star.gifstar.gifstar.gifstar.gif 上原輝樹

冒頭から「ワイルドサイドを歩け」を、"素晴らしい歌詞が素晴らしい曲を生むのよ!"とルー・リードの詩を興奮気味に賞賛するバックシンガーが登場して気分が上がる。続いて名コーラスのある曲として紹介されるのが、トーキング・ヘッズの「スリッパリー・ピープル」なのだから、モーガン・ネヴィル監督の趣味の良さは疑いようもない。映画は、60人近いシンガーたちに取材を重ね、その中からダーレン・ラブ、メリー・クレイトン、リサ・フィッシャー、クラウディア・リニア、タタ・ヴェガ、ジュディス・ヒルの6人に焦点を当て、60~90年代のロック/ポップ・ミュージックの魅力を惜しげもなく伝える、第一級の音楽映画に仕上がっている。

ローリング・ストーンズ「ギミー・シェルター」の"Rape, murder!  It's just a shot away, It's just a shot away"のフレーズで一躍名を馳せたメリー・クレイトンの、本作では紹介されない収録時のエピソードが残されてるので、ここで紹介しておきたい。ストーンズの面々は、LAのスタジオで真夜中にこの曲のミキシングをしていたが、どうしても女性コーラスが必要だということになり、プロデューサーのジャック・ニーチェが、もうベッドに入って眠ろうとしていたメリー・クライトンを、凄いチャンスだからと説得してスタジオに呼び寄せた。今、私たちがアルバムで聴く事のできる素晴らしい「ギミー・シェルター」のバック・コーラスは、たった3回のテイクで録音され、ゴスペル仕込みのメリーの歌唱力に、その場にいた誰もが魅了された。メリーはこの曲を契機にソロ・アーティストへのチャンスを掴んで行くことになるが、この時妊娠していた彼女は、この真夜中のレコーディングでの過剰な緊張が災いして流産してしまったのだ。さすがに、ミック・ジャガーが笑顔で登場する本作でこのエピソードが紹介されることはないが、今尚活躍を続けるメリー・クライトンの姿を存分に見ることができる。『バックコーラスの歌姫たち』は、一級品の音楽映画であると同時に、自らの道を歩む女性たちへの讃歌でもある。

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『バックコーラスの歌姫たち』
原題:20 FEET FROM STARDOM

12月14日(土)より、Bunkamuraル・シネマほか、全国順次公開

監督:モーガン・ネヴィル
製作:ギル・フリーゼン、ケイトリン・ロジャーズ
撮影:ニコラ・B・マーシュ、グレアム・ウィロビー
編集:ジェイソン・ゼルデス、ケヴィン・クローバー
出演:ダーレン・ラヴ、メリー・クレイトン、リサ・フィッシャー、タタ・ヴェガ、クラウディア・リニア、ジュディス・ヒル、ブルース・スプリングスティーン、ミック・ジャガー、スティング、スティーヴィー・ワンダー、シェリル・クロウ、ベット・ミドラー、パティ・オースティン、クリス・ボッティ

© 2013 Project B.S. LLC

2013年/アメリカ/90分/カラー/ドルビーデジタル
配給:コムストック・グループ

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