『朝食、昼食、そして夕食』は、エミリオ・エステヴェス『星の旅人たち』(10)の巡礼の最終地点でもあったサンティアゴ・デ・コンポステラを舞台に、朝食、昼食、夕食という一日18食の"食の時間"を通じて、人々の人生を描いてしまう群像劇、なかなかの意欲作だ。
朝、ストリート・ミュージシャンのエドゥ(ルイス・トサル)が歌うシーンから映画は始まる。彼が歌うのは、"ソル(太陽)"が人々の人生を明るく照らす、という希望に満ちた歌。6歳の子どもがいる夫婦の家庭は、朝陽が降り注ぐキッチンで母親のソル(エスペランサ・ペドレーニョ)と子どもが話している。「ぼく、きのうとってもこわい夢を見たんだ。ぼくが恐竜に食べられちゃうんだよ。」母親は幸せそうな笑顔で応え、しばらくして表れた父親は、子どもに抱き着いてキスの雨を降らせる。どこから見ても幸せそうに見える家族の食卓を、太陽の光が明るく照らしている。
カフェでは「朝食は一日の内で一番重要だからな、しっかり摂らないといけない」と語る小太りの男とその友人が四方山話に時間を費やし、赤ワインの注がれたグラスを傾けている。朝から呑んでいるらしき、この男たちは、J・F・ケネディの有名なスピーチをわざと間違えて引用したりして、怪気炎を挙げた後、友人である俳優の家を訪ねてゆく。若く、売れない俳優であるこの男は、愛する女優志望の女性と朝食の約束を取り付けていて、その準備に喜々として勤しんでいる最中だった。とんだお邪魔虫の闖入だったが、女性から来れなくなったとの連絡が入り、結局、その朝食は男どもの胃袋へと消えてゆく。街角では、肉屋を騙してチョリソをせしめた、マケドニアから来たという若者が、ストリート・ミュージシャンのエドゥと知り合っている。
キャメラは、連綿と続くコンポステラに住む人々の顔の表情と料理をする手つき、食材を画面に収めてゆく。朝、昼、夕と時間が経過するに従って、登場人物たちは息詰まる状況を経験してゆくことになるが、ホルヘ・コイラ監督はカットを短く割ることで、高まる緊張感を上手く裁断して、映画の呼吸を整えている。その確信犯的な手法は、映画作家としてのセンスを感じさせる。カサヴェテスの『フェイシズ』(68)が明らかにしたように、人の顔ほど多くを語り、観るものを圧する被写体も少ない。その事に意識的な映画作家は、緊張を切断しリズムを作ることで、コンポステラの一日の群像劇を100分間で語り切ることに成功している。人生の悲喜こもごもが詰まった、それぞれのエピソードが、全て印象深いということも稀有なことだ。
配給:Action Inc.