2012年8月 9日

『セブン・デイズ・イン・ハバナ』ベニチオ・デル・トロ、パブロ・トラペロ 他

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ソダーバークの『チェ』2部作(08)でゲバラを演じ、この国と遠からぬ縁を感じさせるアメリカの俳優、ベニチオ・デル・トロ(国籍はプエルトリコ)が初めてメガホンを取った「月曜日:ユマ」で始まる『セブン・デイズ・イン・ハバナ』は、オムニバスならではの多彩さと緩さ、そして隙の多さ、それ自体がキューバ的であるような独自の魅力を放つ珠玉の小品である。

ハバナ到着初日に外国人"ユマ"(ジョシュ・ハッチャーソン)の視点で魅惑の夜の街に誘われた観客は、二日目の「火曜日:ジャム・セッション」でエミール・クストリッツァが自分自身、すなわち酔いどれの映画監督を演じるエピソードをスクリーンで観るにつけ、このキューバへの小旅行に参加した自分の直観の正しさに拍手を贈りたくなるに違いない。クストリッツァのタクシー運転手を務めるアレクサンダー・アブレウが興じるジャム・セッションは、早くも本作の白眉を成すが、語られるエピソードの切なさは、"魅惑の国"キューバが抱える黄昏に徐々に切り込んで行く。このエピソードを監督したパブロ・トラペロは、近年注目を集めるニュー・アルゼンチン・シネマの担い手としても知られる。

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ジャム・セッションで素晴らしいトランペットの音を響かせ、島国の哀愁を漂わせた二日目に続く「水曜日:セシリアの誘惑」は、その政治体制故に幾多の優秀な人材がこの国を離れた現実を、二人の男と一人の女セシリア(メルヴィス・エステベス)の恋と欲望への葛藤をテーマに、艶っぽい物語に託して描く。観光客として訪れた観客は、今や、よりディープなキューバ、それは結構リアルなソープオペラだったりするわけだが!、を垣間みることになるだろう。

そこから、エリア・スレイマンの「木曜日:初心者の日記」、ギャスパー・ノエの「金曜日:儀式」、フアン・カルロス・タビオの「土曜日:甘くて苦い」、ローラン・カンテの「日曜日:泉」まで、スレイマン自らが呆然自失のジャーナリストを演じる木曜日とSEXの気配が充満するギャスパー・ノエのフライデー・ナイトを除いて、全てのエピソードが緩やかにオーガニックに関連する七日間の旅は、観客に、キューバ音楽という人類史上最高の遺産が今なお健在であることを、『ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ』(99)以来、久々に想起させてくれると同時に、"泉"が生み出すあまりにも人間的な"奇跡"を私たちの日常生活にも召還したいという、ささやかな憧憬を抱かせてくれる。

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そんな幸せな気分にさせてくれる、全編キューバで撮影された本作が、ハリウッドで活躍するベニチオ・デル・トロとジョシュ・ハッチャーソンが絡んでいるからといって、"アメリカ映画"ではないということは確認しておきたい。1961年に断絶したアメリカとキューバの国交は未だ回復していないのだから。

(上原輝樹)



8月4日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー


監督:ベニチオ・デル・トロ、パブロ・トラペロ、エリア・スレイマン、フリオ・メデム、ギャスパー・ノエ、フアン・カルロス・タビオ、ローラン・カンテ
スクリプト・コーディネーター:レオナルド・パドゥーラ・フエンテス、ルチア・ロペス・コル
製作総指揮:クリスティーナ・スマラガ
制作:ディダー・ドメリ、ガエル・ヌアイユ、アルバロ・ロンゴリア、ファビアン・ピザーニ
撮影:ダニエル・アラーニョ、ディエゴ・デュッセル
編集:トーマス・フェルナンデス、ヴェロニク・ランジュ、アレックス・ロドリゲス、ザック・ストフ
出演:ジョシュ・ハッチャーソン、エミール・クストリッツァ、アレクサンダー・アブレウ、ダニエル・ブリュール

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2012年/フランス、スペイン/129分/カラー/アメリカンビスタサイズ/ドルビーデジタル/デジタル上映
配給:コムストック・グループ、アルシネテラン


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