ジャム・セッションで素晴らしいトランペットの音を響かせ、島国の哀愁を漂わせた二日目に続く「水曜日:セシリアの誘惑」は、その政治体制故に幾多の優秀な人材がこの国を離れた現実を、二人の男と一人の女セシリア(メルヴィス・エステベス)の恋と欲望への葛藤をテーマに、艶っぽい物語に託して描く。観光客として訪れた観客は、今や、よりディープなキューバ、それは結構リアルなソープオペラだったりするわけだが!、を垣間みることになるだろう。
そこから、エリア・スレイマンの「木曜日:初心者の日記」、ギャスパー・ノエの「金曜日:儀式」、フアン・カルロス・タビオの「土曜日:甘くて苦い」、ローラン・カンテの「日曜日:泉」まで、スレイマン自らが呆然自失のジャーナリストを演じる木曜日とSEXの気配が充満するギャスパー・ノエのフライデー・ナイトを除いて、全てのエピソードが緩やかにオーガニックに関連する七日間の旅は、観客に、キューバ音楽という人類史上最高の遺産が今なお健在であることを、『ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ』(99)以来、久々に想起させてくれると同時に、"泉"が生み出すあまりにも人間的な"奇跡"を私たちの日常生活にも召還したいという、ささやかな憧憬を抱かせてくれる。
そんな幸せな気分にさせてくれる、全編キューバで撮影された本作が、ハリウッドで活躍するベニチオ・デル・トロとジョシュ・ハッチャーソンが絡んでいるからといって、"アメリカ映画"ではないということは確認しておきたい。1961年に断絶したアメリカとキューバの国交は未だ回復していないのだから。
(上原輝樹)
8月4日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー
監督:ベニチオ・デル・トロ、パブロ・トラペロ、エリア・スレイマン、フリオ・メデム、ギャスパー・ノエ、フアン・カルロス・タビオ、ローラン・カンテ
スクリプト・コーディネーター:レオナルド・パドゥーラ・フエンテス、ルチア・ロペス・コル
製作総指揮:クリスティーナ・スマラガ
制作:ディダー・ドメリ、ガエル・ヌアイユ、アルバロ・ロンゴリア、ファビアン・ピザーニ
撮影:ダニエル・アラーニョ、ディエゴ・デュッセル
編集:トーマス・フェルナンデス、ヴェロニク・ランジュ、アレックス・ロドリゲス、ザック・ストフ
出演:ジョシュ・ハッチャーソン、エミール・クストリッツァ、アレクサンダー・アブレウ、ダニエル・ブリュール
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2012年/フランス、スペイン/129分/カラー/アメリカンビスタサイズ/ドルビーデジタル/デジタル上映
配給:コムストック・グループ、アルシネテラン