2012年7月20日

『ジョルダーニ家の人々』ジャンルカ・マリア・タヴァレッリ


6時間半の長丁場ながらも、TV用4エピソードの一気上映ゆえ、大作感は薄い。去年のイタリア映画祭で上映された3時間の歴史物『われわれは信じていた』(マリオ・ マルトーネ監督/名匠レナート・ベルタが撮影監督)の方がガッツリ長尺の映画を観たという感じが強かったが、こちらは現代的意匠を纏ったメロドラマの趣き。

映画は、マリオ・モニチェッリやヴェンダース、ビリー・ワイルダーの書籍を書店に並べたりすることで、シネフィルへの目配せらしきものは感じさせるが、全般的に映画的興奮を呼び寄せる瞬間は少なく、むしろポール・ハギス的現代アメリカ映画の心理描写を重視した脚本の影響が強く見られる。

例えば、主要な登場人物のひとりである末っ子のロレンッオ(アレッサンドロ・スペルドゥッティ)は何の前触れもなく唐突に事故で死んでしまう。残された家族はその喪失の重みに長い時間を掛けて耐えていくしかなく、観客もまた、彼らと共に非スペクタクルな時空間を共有していくしかない。そんな6時間半というメロドラマ的時間の中で、等身大の登場人物たちが私たちの中にじわじわと浸透してくる。


観始めて4時間半くらいたった辺りだろうか、長男アンドレア(クラウディオ・サンタマリア)の恋人ミシェル(ティエリー・ヌーヴィック)の境遇が、自分の全く個人的な記憶、若くして死んだ友人の記憶と繋がってしまい、突発的に涙腺が決壊してしまったことは、ここにわざわざ書くようなことではないのかもしれない。しかし、こういことが突然起こるから映画というものは恐ろしい。

その点をあまりに個人的な体験として差し引いたとしても、観客は、この作品の浸透力が思いのほか長続きすることを映画を見終わった後になって知ることになるだろう。次男のニーノ(ロレンツォ・バルドゥッチ)が醸し出していた、世間や親に対する違和感の表現、所作振る舞いは、自分の中に、現代的な若者の新しいひとつのポートレートを付け加えていった。ジョゼッペ・トルナトーレ監督の『シチリア!シチリア!』(09)でダンディズム溢れる主役を演じたフランチェスカ・シャンナの好演が観れるのも嬉しい。派手さはないが、キャラクター造形に秀でた滋味溢れる佳作である。
(上原輝樹)



7月21日(土)〜9月14日(金)まで岩波ホールにて特別ロードショー


監督:ジャンルカ・マリア・タヴァレッリ
脚本:サンドロ・ペトラリア、ステファノ・ルッリ
プロデューサー:アンジェロ・バルバガッロ
撮影監督:ロベルト・フォルツァ
出演:クラウディオ・サンタマリア、パオラ・コルテッレージ、ロレンツォ・バルドゥッチ、エンニオ・ファンタスティキーニ、ダニエラ・ジョルダーノ、ファリダ・ラウアッジ、レイラ・ベクチ、ティエリー・ヌーヴィック、フランチェスコ・シャンナ

2010年/イタリア、フランス/399分/カラー/ステレオ
配給:チャイルド・フィルム、ツイン

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