2012年6月 1日
『星の旅人たち』エミリオ・エステヴェス
日本で"巡礼"と聞くと、"袈裟"を着用して山道を往く苦行めいたイメージを思い浮かべてしまうが、本作で描かれるヨーロッパの巡礼はもう少しカジュアルなもののようだ。あるものはダイエットの為に、またあるものは禁煙のために、あるいは、仕事のスランプを脱出するために、と参加する目的は人それぞれ。しかし、本作の主人公トム(マーティン・シーン)は、巡礼の道中で嵐に巻き込まれ不慮の死を遂げた息子ダニエル(エミリオ・エステヴェス)のために参加した。既に妻を亡くしており、息子とも疎遠になっていたトムはどんな思いで800キロにも及ぶサンティアゴ・デ・コンポステーラ(星の平原)の巡礼に臨んだのか?
アレックス・コックス『レポ・マン』(84)の青年エミリオ・エステヴェスは、俳優のキャリアと平行して『The War / 戦場の記憶』(96)、『キング・オブ・ポルノ』(00)、『ボビー』(06)と、監督としてのキャリアを着実に積み上げてきた。そのエミリオの四作目の監督作品となる本作は、巡礼の道筋で出会う様々な国籍や人種の人々や未知の風土との出会いを通して、一度失ってしまった息子の魂を、二度失うことを拒否して我が胸に取り戻すべく、歩き続ける男の姿を描いたロードムービーである。
アメリカで俳優としてやっていくためには出自であるプエルトリコ系の姓名を"マーティーン・シーン"に変えるしかなかった父親の無念を晴らしてきたエステェベス家の長男エミリオは、サンティアゴの巡礼路を歩くのが長年の夢だったという父親の願いまで本作で叶えてしまった。なんとも"出来過ぎ"な長男ではあるが、どうもこの一家がやることは応援したくなる、そんな良い意味でアメリカ的な"何か"が彼らにはあるのだ。もちろん、胸に風穴を空けて歩き続ける父親の姿には、傍若無人に振る舞って多くのものを失ってきた"アメリカ合衆国"の姿が投影されていることは言うまでもない。
(上原輝樹)
6月2日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか公開
監督・脚本・製作:エミリオ・エステヴェス
製作:フリオ・フェルナンデス、デヴィッド・アレクザニアン
撮影:ファン・ミゲル・アスピロス
編集:ラウル・ダバロス
音楽:タイラー・ベイツ
美術:ヴィクトル・モレノ
衣装:タティアナ・エルナンデス
出演:マーティン・シーン、デボラ・カーラ・アンガー、ジェームズ・ネスビット、ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲン
© The Way Productions LLC 2010
2010年/アメリカ、スペイン/128分/カラー/ビスタサイズ/ドルビーSRD
配給:アルバトロス・フィルム