2012年3月22日
『僕達急行 A列車で行こう』
森田芳光監督の遺作となってしまった『僕達急行 A列車で行こう』は、出演している役者たちが皆輝いている。松山ケンイチ、瑛太はもとより、他の俳優陣も皆良い。中でも、菅原大吉、村川絵梨、松平千里の3人が目立って良い。そんな"役者の映画"でありながら、森田監督独特の撮り方が貫かれていて、イオセリアーニ監督が批判しているところの、イマジナリーラインを構成する肩越しの切り返しショットはひとつもない。しかも、テーマ的にはルュミエール直系、"列車"の映画である。もちろん、タイトルに入っている"A列車で行こう"は、デューク・エリントンの有名なジャズ・スタンダードにも掛けられていて、松山ケンイチが演じる主人公は鉄道オタクの上に、ジャズマニアでもあるという、マニア系男子の心をくすぐる設定。そうしたディテールを盛り込みながら、『わたし出すわ』(09)同様、経済不況や地方の疲弊といった、リアルなテーマを主題に据え、嫌みのない軽妙なコメディに仕上げている。これからまだまだ成熟して、素晴らしい映画を作ってくれることが期待できた森田芳光監督が逝去してしまったのは本当に残念だ。