2010年6月 4日

『春との旅』


今まで親族との付き合いを疎んで我が儘に暮らしてきた老人忠男(仲代達矢)が、ある日突然、家を捨て、疎遠にしていた親族を巡る旅に出る、小林政広版ロード・ムービー。北海道から東北・宮城へと物語の流れに沿って撮影された各地の風情が映画に生々しい潤いを与えている。忠男を支える孫娘の春(徳永えり)の独特の存在感も良いが、何と言っても、大滝修治、菅井きんの老夫婦、旅館を切り盛りするしっかりものの姉を演じる淡島千景といった日本映画史を彩ってきた素晴らしい俳優陣へのオマージュそのものであるかのような映画の佇まいが素晴らしい。"家族"を冷静な視点で見つめる『東京物語』的テーマの変奏は、孤児院で育てられたトリュフォーが、血の繋がった家族ではなく、"映画"の世界に家族を発見せざるをえなかったという、有名な映画史の一コマとも重なって見え、感動を禁じ得ない。

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