フランス映画祭2011

上原輝樹
いよいよ明日、23日(木)から始まる(〜26日(月)まで)「フランス映画祭2011」、ランナップ発表当初は、少し地味だな、という感想もチラホラ聞こえて来たが、実際にふたを開けてみると、そんなことはない。以下に試写で観ることが出来た作品を中心に簡単にご紹介する。

『Chantrapas』
監督:オタール・イオセリアーニ
出演:ダト・タリエラシュヴィリ、ビュル・オジェ、ピエール・エテ
人生は何て気楽で楽しいのだろう!と悪戯心が弾ける子供時代、人生何をやっても思い通りいかないものだな〜と悲嘆に暮れる青年時代、監督が自らの半生を振り返った自伝的作品の、瑞々しくも重々しいこと!溢れ出る恨み節まで詩情豊かなイオセリアーニ監督最新作!!日本公開は、2012年春予定とのことで、一足早く、本映画祭で観ておきたい作品。

レクチャー:オタール・イオセリアーニ監督マスタークラス

0622_01.jpg『消えたシモン・ヴェルネール』
監督:ファブリス・ゴベール
出演:ジュール・ペリシエ、アナ・ジラルド、イヴァン・タッサン
ガス・ヴァン・サントの『エレファント』『ラスト・デイズ』的手法でデプレシャンの『二十歳の死』的青春群像を描いたミステリー。撮影をクレール・ドゥニやカトリーヌ・コルシニの作品で知られるアニエス・ゴダールが手掛けており、新人監督であるゴベールが、彼女の能力を最大限に活用しようという貪欲さが垣間見えるところが微笑ましい。ソニック・ユースが手掛けるサウンドトラックは、映画とは独立して彼らの新作として聴ける出来映えだが、むしろ、劇中で一番効果的に使われているのはキリング・ジョークの名曲「Love Like Blood」だったりするところもご愛嬌。『ユキとニナ』で諏訪監督と共同監督を務めた名優イポリット・ジラルドの娘アナ・ジラルドが演じるヒロインが美しく魅力的です。

0622_02.jpg『美しき棘』
監督:レベッカ・ズロトヴスキ
出演:レア・セドゥ、アナイス・ドゥムスティエ
2010年ルイ・デリック賞新人賞を受賞した女性監督レベッカ・ズロトヴスキの長編処女作。主人公プリューデンスを演じる、フランス映画の新しいミューズ、レア・セドゥが実に魅力的、本映画祭、随一の注目作品。道端で拾った少女の日記から着想を得たという本作は、海外勤務で父が不在、姉は家にほとんど寄り付かないという状態で、母親を亡くしてしまった17歳の少女が受けた衝撃を、"映画"という時間芸術のアートフォームを駆使して描いた、注目すべきデビュー作である。

0622_03.jpg 『消えたシモン・ヴェルネール』、『美しき棘』ともに、ティーンエイジャー特有のひりひりと鬱屈した感覚を、新人監督ならではの瑞々しさで描いているが、映画の中の時間の組み立て方と音の使い方にそれぞれの監督の特徴が出ている。『消えたシモン・ヴェルネール』のゴベールは、シークエンスの積み上げ方がとても構造的、かつ重層的で、1990年代初頭という物語設定の中で当時の音楽を効果的に使う。それぞれの視線が交わらない、この映画のスチル写真に、本作の構造主義的特徴がよく顕われている。一方、『美しき棘』のズロトヴスキは、登場人物のエモーションにフォーカスし、シーンは生のリアルな断片で構成される。ナラティブが構築的に組上げられるというよりは、映画の時間も時に唐突に推移する。エッジの効いたエモーショナルなシークエンスの数々は、ある時点で飽和状態に達し、観客の感情に迫る強度を獲得していくだろう。主人公プリューデンスが音楽を聴くシーンは、母親を失った喪失感、その遅れてやってくる衝撃を見事に感覚的にフィルムに焼き付けることに成功している。処女作にして、独自の美的センスを感じさせる二人の新人監督の今後の活躍が大いに楽しみだ。

レベッカ・ズロトヴスキ『美しき棘』インタヴュー



25日土曜日からスタートする「クロード・シャブロル特集 〜映画監督とその亡霊たち〜」も、本映画祭の関連企画であるという。個人的には、過去に観たものも含めて、全作品観たい!くらいの意気込みでいます。


また、本映画祭とは全く無関係ながらも、森美術館で現在開催中の「フレンチ・ウインドウ展」は、「マルセル・デュシャン賞」受賞作品を通じてフランス現代美術の最前線を探る試みであるというから、フランス映画の現在を伝える本映画祭とフランス現代美術の作品群を同時期に体験することで見えてくる、新しい風景もあるかもしれない。

森美術館HP
http://www.mori.art.museum

Recent Entries

Category

Monthly Archives

印刷