『赤い靴』<デジタルリマスター・エディション>

上原輝樹
akaikutsu.jpg「<ネガの65パーセントに問題があり、176の場面で現像ムラ、斑点、フォーカス微動が、70のシークエンスで傷による何千というシミが見られ、全リールにカビ、無数のひびや亀裂が残されていた>フィルムのネガから直接スキャンし映画全体をデジタル信号化、一場面ごとに色ズレを調整し、シミや傷、カビなどの問題を解決、最後に全編を再びフィルムに戻し、適切な色を得るために、オリジナルと、ネガから直接作成したテストフィルムの両方と比較。最終のデジタル版は念入りに調整され、現代カラー映画の最高品質と、古いテクニカラー・プリントの持つ特質(色の際立ち、深い黒、穏やかなコントラスト、魅力的な人物の顔色)を結びつける(公式サイトの文章を編集)」べく、2年半の歳月をかけて修復された名作映画『赤い靴』が今、スクリーンで上映されている。

akaikutsu2.jpg多くの観客は、本作の美麗プリント上映の陰に、そんな気が遠くなるような修復作業が施されたことなど知る由もないかもしれない。しかし、フィルムの保存・管理の問題は「映画」にとって実に現実的な問題として、これからより重要度を増していくのだろう。100年後には、本当に素晴らしい作品1000本だけが、フィルムで観ることが出来る「映画」として保存されている、なんていう事態もありうのかもしれないが、まあ、100年後の映画の心配をしているほど、余裕のある時代ではないことも事実なのだが。

私にしても、そんなことを考えながら本作を観たわけではなく、大きなスクリーンで60年前に作られた名作映画を観て、ただただ圧倒された。こうした大名作を改めてスクリーンで観る機会が出来るわけだから、それだけでも、デジタルリマスター版製作は意義が大きい。『ブラック・スワン』に戦慄した観客の皆さんにも、是非、本家本元の豊穣に触れて頂き、『赤い靴』が表現し尽くしているアーティストの禍々しくも聖なる欲望の業の深さ、そして、おとぎ話ならではの、あの奇妙なエンディングに驚愕して頂きたい。



akaikutsu3.jpg『赤い靴』<デジタルリマスター・エディション>
原題:The Red Shoes
http://www.red-shoes.jpn.com/

7月2日(土)より、渋谷ユーロスペース上映中
 
製作・脚本・監督:マイケル・パウエル、 エメリック・プレスバーガー
撮影:ジャック・カーディフ
音楽:ブライアン・イースデル
指揮:サー・トーマス・ビーチャム
演奏:ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
編集:レジナルド・ミルス
美術監督:ハイン・ヘックロス
録音:ゴードン・K・マッカラム、チャールズ・プルトン
テクニカラー撮影:ジョージ・ガン、E・ホーグ
振付:ロバート・ヘルプマン、レオニード・マシーン
出演:モイラ・シアラー、アントン・ウォルブルック、マリウス・ゴーリング、ロバート・ヘルプマン、レオニード・マシーン
1948年イギリス映画/カラー/136分/スタンダード/モノラル ※デジタル上映
配給:デイライト、コミュニティシネマセンター
© 1948 Carlton Film Distributors Limited. All Rights Reserved. Licensed by ITV Studios Global Entertainment Ltd. and Distributed by Park Circus Limited.

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