『ミヒャエル』 TIFF2011 WORLD CINEMA

浅井 学
20111101_01.jpg
家の地下に誘拐した男の子を監禁する小児性愛者が主人公の映画と聞けば、サイコスリラー映画にあるような嫌悪感を催す暴力描写や、絶望的で仰天の結末などを想起するが、この映画にはほぼ皆無だ。緊張感を高める過度な演出やサイコパスを強調する描写を意図的に排し、友人とのスキー休暇、監禁中の男の子とのクリスマスの準備、そして夕食時の会話など、まるでホームドラマやとぼけたコメディタッチのエピソードの中に、どこかこの主人公の欠落した人間性と破綻への予感を潜ませる。監禁されている男の子への眼差しもどこか客観的で不必要に感情移入をさせない。客席から笑い声がこぼれるどこかのどかなサイコサスペンス、この"違和感"はとても新鮮だった。そんな極めて技巧的なシナリオと演出、カメラワークにグイグイと次の展開へと引き込まれていく。監督第1作にしてカンヌ映画祭コンペティション部門に選出された作品であるというのもうなずける。キャスティング・ディレクターとして60本以上の映画プロジェクトに参加したというキャリアが、この独自の演出方法のベースにあるのは間違いない。直近でミヒャエル・ハネケ監督の『白いリボン』への参加を聞いて多いに合点がいった。マルクス・シュラインツァー監督とこのスタッフによる次作品への期待が高まる。

2011年10月25日
★★★★

Recent Entries

Category

Monthly Archives

印刷