『アルバート・ノッブス』 TIFF2011 コンペティション

上原輝樹
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ロドリゴ・ガルシア監督得意の"女性映画"の変奏ではあるのだが、話のセットアップが少し遅い。アーロン・ジョンソンとミア・ワシコウスカのカップルが成立した辺りから映画は色めき立ち始め、ジャネット・マクティアの夫婦が登場するに及んで物語は興味深い展開を見せはするものの、主演のグレン・クローズが、劇中では"男性"に見えている設定ながら、個人的には中々そのように見えずに苦労した。とはいえ、日頃"男装"のふたり(アルバートとヒューバート)が、フェミニンな衣装を身に纏い、浜辺へ散歩するシークエンスが本作の物語の核心を表現していて素晴らしい。この海辺のシーンで、アルバート(グレン・クローズ)が自らの"女性性"を解き放つのとは対照的に、"女装"男性にしか見えないヒューバート(ジャネット・マクティア)の居たたまれなさとのコントラストが強烈だが、この短いシークエンスは、それぞれの日常における"生きずらさ"の反転として描かれている。置かれた境遇から男性として生きることを余儀なくされたアルバートの内面はあくまで女性のままであり、自らの意思で男性として生きることを選んだヒューバートは、内面も男性化している。自らの生き方を選択出来なかった前者よりも後者の人生の方がより幸福であるはずだが、抑圧された"女性性"の解放を短いシークエンスで夢のように美しく描いた監督の手腕はさすが。そんなジェンダーの問題に加えて、二人とも"女性"を愛する、という複雑さが本作の面白さでもあるが、纏うコスチュームのチャーミングさも含めて、グレン・クローズ以上に本作の魅力を担っていると言って良いミア・ワシコウスカの、エンディングシーンのクローズアップショットが、スクリーンの大写しに耐えうる美しさで捉えられていなかったのが残念。

2011年10月27日
★★★

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