『オールド・ドッグ』フィルメックス2011 コンペティション
チベットの広く閑散とした土地に平たく軒を並べる建築物が、さながら失われゆく映画のセットのような哀愁を帯びた佇まいで人気の薄い街中に辛うじて立ち並び、近代化の波をその"音"で伝える建築現場から発せられるまばらな騒音が、街を不穏な気配でみたしている。その街中をオートバイに引かれて走る"老犬"の荒くなっていく息を捉えるオープニング・シークエンスのサウンドは、ラストシーンで気高い誇りを示した後の老人の荒い息を同価のものとして的確に並置することで、今や希少価値となってしまった"老犬"と近代化の中で危機にさらされているチベット民族の"誇り"を観客の脳裏で二重写しのイメージとして構成させることに成功にしている。
物語の伏線を構成する"音"作りはもとより、羊の放牧を生業とする誇り高き老人の一家が住まう、丘陵地帯を覆う曇天の空と雲、西部劇のゴーストタウンのような田舎の町並みを端正な映画的構図に収める画作りが素晴らしく、せっかくなら、この画をフィルムの質感で観たかったという欲求に駆られることを否定し得ないものの、どうやら、この映画は、綿密に計画された部分以外にも幾つかの偶然(群れから離れてしまった迷える羊が図らずも見せてしまった名演技や、演出しようのない"雲"の見事な佇まい)をも味方につけた強運に恵まれているようだ。本作が長編映画3作目で、チベット語、中国語による小説が幾つもの文学賞を受賞しているというペマツェッテン監督の今後の更なる活躍を楽しみにしたい。
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