『ホーム』 TIFF2011 コンペティション

上原輝樹
20111019_02.jpg
コンペ作品というよりは、natural TIFFの方がしっくりくる趣きの作品。自分が生まれ育った周囲の環境が変わってしまったという"故郷(ホーム)"の喪失感は、きっと多くの現代人が経験していることにちがいない。本作の主人公である"鬱"を患う建築家は、医者の勧めもあって、5歳の頃まで育った"山"に戻り、昔の感覚を呼び覚まそうとするが、その"山"は、もはや昔のままではなかった。地球環境を破壊し続ける現代文明への深い懐疑と怒りを滲ませながらも、トルコの雄大な山々の奥地へと分け入っていくキャメラは、それでも、充分に神秘的で美しい"山"の自然やそこに暮らす人々との出会いを捉え、観るものを魅了する。去年TIFFで上映された『ゼフィール』の卵焼きのシーンにしてもそうなのだが、本作のシンプルな魚料理のシーンといい、"グルメの国"トルコの映画は、簡素な料理でも大変美味しそうに写し、食欲をそそる。現代文明社会の行く末を憂慮しつつも、失いかけている"ホーム"への郷愁を誘い、近年の登山ブームとも呼応しそうな"自然"への渇望感を刺激する作品。

2011年10月18日(内覧試写)
★★★

Recent Entries

Category

Monthly Archives

印刷