『一枚のハガキ』新藤兼人
日本人現役最高齢監督(99歳)新藤兼人が自ら最後の作品と宣言して撮り上げた『一枚のハガキ』は、"クジ引き"の運に左右され生き残ったのだという自らの戦争体験に基づき、戦争の理不尽に対する納得不可能な怒りを爆発させながら"生"への執着を描きながらも、例によって、時折訪れる完璧さからほど遠い、呆気にとられる新藤兼人的瞬間を偏在させ、豊川悦司、大竹しのぶ、大杉蓮、六平直政といった俳優陣の佇まいには、曰く名状し難いユーモアすら漂う。
日本の自主独立系映画の先鞭をつけることになった1960年の無言映画『裸の島』を本作の終盤でセルフリメイクし、自らのフィルモグラフィを円環で閉じるという完璧な最期への欲望を露にした巨匠の"意思の力"が漲る作品である。それにしても、乙羽信子と殿山泰司の夫婦を支配していた不穏さは、大竹しのぶと豊川悦司の夫婦には存在せず、よもや、豊川が大竹を殴るような事態は未来永劫訪れまいと思わせる優しさが本作の終盤を支配しているのは、50年前を今やり直せば、自分はこれほど優しくなれるのに、という取り返しのつかない過去への、巨匠の郷愁の現れだろうか。
テアトル新宿、広島・八丁座にて大ヒット上映中、8月13日より全国ロードショー!
監督・脚本・原作:新藤兼人
製作:新藤次郎、渡辺利三、宮永大輔
プロデューサー:新藤次郎
制作プロダクション:近代映画協会
撮影:林雅彦
編集:渡辺行夫
証明:山下博、永田英則
美術:金勝浩一
録音:尾崎聡
音楽:林光
ラインプロデューサー:岩谷浩
助成:文化芸術振興費補助金
出演:豊川悦司、大竹しのぶ、六平直政、柄本明、倍賞美津子、大杉蓮、津川雅彦、川上麻衣子、絵沢萠子、大地泰仁、渡辺大、麿赤兒
2011年/日本/114分/カラー
配給:東京テアトル
© 2011「一枚のハガキ」近代映画協会/渡辺商事/プランダス
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