山本政志監督の新作『スリー★ポイント』を観て

上原輝樹
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山本政志監督は大好きな監督である。バブル華やかりし80年代末、大学生だった私は、一見バブル経済と関係なさそうで、今にして思えば、バブルと表裏一体の関係にあった、いわゆるインディー系ロックのライブやクラブに入り浸っていた。だから、『ロビンソンの庭』(87)を観たのも、毎週のようにライブに通っていたJAGATARAが音楽を手掛けているのがきっかけだったのだが、この映画を観て、邦画にもこんなぶっ飛んだ映画があるのか!とショックを受けたのだった。シネフィルでも何でもなかった私は、石井輝男も神代辰巳も若松孝二も知らずに勝手にショックを受けていたわけだからいい気なものだが、当時の私にしてみれば、これ程"自由"という感覚を味あわせてくれる邦画はなかった。今のようにネットもなく、情報は自ら貪欲に収集するものだったから、ひとつひとつの作品との出会いは今よりも濃密なものだった。それ以来、山本政志という名前は私にとって特別なものとなった。

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しかし、その直後に3年程NYに渡米したこともあって、邦画を観る機会はますます減少し、帰国後も山本監督の作品に触れる機会を逸し続けて来た。話では、熊楠についての映画を撮ろうとしているが資金難に陥っているという噂がどこからともなく伝わってきて、とても残念に思っていた。中上健次や中沢新一といった、当時よく読んでいた作家や思想家の文章でごく頻繁に目にしていた"熊楠"を、『ロビンソンの庭』で藤子不二雄の短篇SF漫画的に繁茂する"緑"で東京の廃屋一体を覆い尽くした山本政志が映画化するなんて、これほどゾクゾクするアイディアはない!と思ったし、今でもそう思っている。そんな思いを内に秘めたまま、現在に至り、ついに、約20年振りに山本監督の新作と向き合う時が来た。

新作『スリー★ポイント』の試写は、3.11の震災の余波が覚めやらず、原発の状態も今よりも更に不透明な事態の最中に行われ、試写の上映前に挨拶に立った山本政志監督は、「黒い雨の降る中、命をかけて試写に来てくださってありがとうございます」というブラックな冗談交じりの謝意を表し、場の空気を和らげた。確かに、その時分の"雨"にはそんな緊張感があった。

yamamoto_06.jpg『スリー★ポイント』は、『NN-891102』『おそいひと』『堀川中立売』と独自の拡散的進化を続ける柴田剛とのコラボレーションが凶暴な効果を挙げて暴走する街「京都」、繁茂する緑をピローショットに収め、ボケとツッコミを兼ねる監督自らが画面に登場し、キャメラに親しげな表情を見せる基地の街の人々の懐に入り込む、そんな南国の日常の中から自ずと立ち上がってくる"笑い"と"問題"が交錯する「沖縄」編、村上淳という俳優の魅力を再認識させ、青山真治が"本当の"友情がなければ恐らく出演しなかったに違いないと思われる"嫌な野郎"を演じて見せる、ささくれ立った人々の精神に不穏なパラノイアを生み出す街を予見する「東京」編、の3編で構成されるが、その3編がそれぞれあまり関係していないように見えて、その実、全く関係していないという構成がそもそも"自由"だ。しかし、そんなカオスこそが現実であり、自然であるという意味では、その3地点に濃厚に凝縮された現代日本の曼荼羅が本作では鮮やかにキャプチャーされている。

ただ、20年前に『ロビンソンの庭』に惚れたものとして、正直に言わせて頂くと、緻密に構成された「東京」編やユーモアに満ちた「沖縄」編よりも、凶暴さが画面を震わせる「京都」編が一番痺れた。怒りを静かに内に秘め、抑制された禍々しさに満ちた男たち、そして、荒れ狂う女、リサを演じる平島美香の野蛮な身のこなしに、『ロビンソンの庭』の主人公クミを演じた太田久美子を彷彿させる、山本政志的凶暴な女の系譜を見る思いがし、ザワザワと胸が騒いだ。



渋谷ユーロスペースにてトークショー
5月28日(土) 松江哲明(映画監督)×横浜聡子(映画監督)×山本政志
上映終了後23:00開始 23:25終了

『スリー★ポイント』
http://www.three-points.com/

5月14日(土)より、渋谷ユーロスペースレイトショー絶賛上映中
 
監督・脚本・制作:山本政志
ラインプロデューサー:柴田剛、山本和生
出演:村上淳、蒼井そら、渡辺大知、小田敬、BETTY、KO-YOTE、SEVEN、SNIPE、青山真治、他
2011年/日本/117分/カラー
配給:レイライン
© スリー☆ポイント シンジケート

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