OUTSIDE IN TOKYO
HIGUCHI YASUHITO & SUGITA KYOSHI INTERVIEW
【PART2】

杉田協士&boid樋口泰人『ひとつの歌』インタヴュー【PART1】

『ひとつの歌』を見始めて最初に感じたのは、スタンダードサイズの魅力を再発見させてくれる、そのフレーミングの的確さだった。撮影を手掛けた飯岡幸子のフレームが切り取る世界は、主人公の剛(金子岳憲)が持ち歩くポラロイドカメラのサイズと共鳴して、映画自体が、一枚のポラロイド写真の集積のように見えてくる。そうして見ていると、音響の黄永昌が集めた、バイクや電車の音、雨風、ノコギリや鳥、蝉の鳴き声といった豊かな音像が空気を振動させていることに気付かせられる。

しかし、何かが”見えたり”、”聞こえたり”だけしているうちは、『ひとつの歌』は朧げな像しか結ばないかもしれない。『ひとつの歌』が鮮やかに鳴り響きだすのは、観客自らが”見ること”、”聞くこと”に加担し始めた時である。ほとんど一切、物語上の説明を排した『ひとつの歌』は、それでも、”見るもの”、”聞くもの”に対しては多くのヒントを与え、複数の物語を観客自身が紡ぎながら見る、新しい映画体験への可能性を開いている。

同時に、”見ること”、”聞くこと”への積極的な加担は、折しも、先日来日したホセ・ルイス・ゲリンも言及したように、”古典映画”の再認識と再評価への意識をも促している。それは、「見ること聞くことが映画を作ることに転化していく、その触媒として監督が存在している(樋口泰人)」boid new cinemaのラインナップ『ひとつの歌』『5 windows』『Rocks Off』に共通する”超古典映画”の姿勢と不思議と矛盾しない。

ここに、『ひとつの歌』の杉田協士監督と本作の配給・宣伝を手掛けるboid樋口泰人さんのインタヴューをお届けする。1時間半に渡った取材の一部始終を【PART1】と【PART2】して掲載、【PART1】は主に杉田監督に、いささか唐突ながらトニー・スコットについて、そして『ひとつの歌』についてお話を伺い、【PART2】では主に樋口泰人さんにboid new cinemaについてのお話を伺った。

1. トニー・スコットの映画に支えられた(杉田)

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OUTSIDE IN TOYO(以降OIT):たまたま僕が『ひとつの歌』を試写で観たのが、トニー・スコットの訃報に触れた翌日ということもあって、頭の中がトニー・スコットのことでもやもやした状態で観てしまったんですけど、そうしたら移動につぐ移動の映画で乗り物がいっぱい出てきて独特のテンションがある、ハリウッド映画的なフィクションへの意思というか、志しの高さというか、張りつめた緊張感みたいなものが伝わってきたんですよね。それで、そういう風に感じていたら、その日の夜中、杉田さんがツイッターで『ひとつの歌』を作る時にトニー・スコットのことを考えていた、ということをつぶやいていた。
杉田:あ、つぶやいてすぐ消したやつだ(笑)。やっぱ恥ずかしいと思って消したやつを読んでたんですね。
OIT:えーっと思ったんですよね。そういうこともあるのかと。
杉田:あの日、いわきに行ってホテル着いて、変なテンションになってて書いちゃったんですよ。ちょっと冷静になって消した。
樋口:でも事実は事実?
杉田:あー、そうですね、ずっと心の支えというか、支えって言ったらあれですけど。『エネミー・オブ・アメリカ』(98)からなんですよ。二十歳くらいの時に彼女とニューヨークに遊びに行ったんですけど、ちょっと喧嘩して(笑)、マンハッタンで離ればなれになった。彼女は部屋に残って、僕はちょっと映画でも観るかと思ってぶらぶら出て、たまたまやってたのが『エネミー・オブ・アメリカ』、入ったらお客さんが1人くらいしかいない。それが凄く良くて喧嘩してたのも忘れちゃった。その後、日本公開された時ももちろん観に行って、当時VHSを買って部屋でいつも観てて、あんたまた観てんのかと(笑)怒られていたんです。
OIT:その頃のトニー・スコットって、トニー・スコットの映画だから観るというよりは、気づけばトニー・スコットだったみたいな。
杉田:そうですね、『トゥルー・ロマンス』(93)は観てたと思うんですけど、もちろん『トップガン』(86)とか。映画を観る時に監督が誰とか、まだそういう見方をあまりしていない頃だったので。
OIT:でもその頃からトニー・スコットは特別な存在になってたんですか?
杉田:特別っていうか好き(笑)。でもあんまり人に言えなかった。特にその後、映画美学校とか入ってトニー・スコットの『エネミー・オブ・アメリカ』好きとかあんまり言えなかった(笑)。そこは黙ってるっていう。青山(真治)さんが言い出してから、言いやすくなってきたという。

『ひとつの歌』

10月13日(土)から渋谷・ユーロスペースにて3週間限定レイトショー!

監督・脚本:杉田協士
音楽:柳下美恵
撮影:飯岡幸子
音響:黄永昌
編集・助監督:大川景子
制作:高橋幸
出演:金子岳憲、石坂友里、枡野浩一、天光眞弓、塩見三省

©2012年『ひとつの歌』製作委員会

2011年/日本/100分/カラー/HDCAM/スタンダード/モノラル
配給:boid

『ひとつの歌』
オフィシャルサイト
http://www.boid-newcinema.com/
hitotsunouta/



インタヴュー【PART2】
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