OUTSIDE IN TOKYO
HIGUCHI YASUHITO & SUGITA KYOSHI INTERVIEW
【PART2】

杉田協士&boid樋口泰人『ひとつの歌』インタヴュー【PART1】

2. ゆったりした幕開けから急に何かが動き始める、
 時間の緩急をつけていくトニー・スコット、独特の広がり(樋口)

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OIT:爆音で上映されたのは『アンストッパブル』(10)だけでしたか?
樋口:そう、あのね、結構ソニー(ピクチャーズ)の作品でやりたいのとかもあったんだけど、権利料の問題とかがあって出来なかったですね。『エネミー・オブ・アメリカ』の前のやつって何だっけ?あの野球の開幕…。
杉田:『ザ・ファン』(96)です。
樋口:『ザ・ファン』か。あれくらいから、カイエ周辺が評価し始めた。蓮實さんもそうだったし、稲川さんも。
杉田:あ、そうなんですね。
樋口:そうそう。で、やっぱりいいよねって話になってたんだよね。でも『エネミー・オブ・アメリカ』最高だよねってことではあったんだけど、そういうのってなかなか読者とか若い人にはまだまだ伝わってなかったっていう。
OIT:『トゥルー・ロマンス』は結構ヒットしましたけど、そういう評価ではなかったんですね。
樋口:まだね、やっぱりほら当時だとタランティーノ脚本みたいなのが強くて、そっちに引きずられて観ちゃってたっていうのがあったんで。あんまりトニー・スコットがどうのこうのっていう意識も、自分自身がしてなかったし、それに脚本が割と独特なんで、まだ『ザ・ファン』の始まりみたいに、あるゆったりした幕開けから急に何かが動き始めるみたいな、時間の緩急をつけていく独特のトニー・スコットの広がりみたいなものを『トゥルー・ロマンス』で観るようなことはなかったです。だから逆に、今観るとそんな風に見えてくるはずなんだけど。やっぱりリアルタイムとかろくなもんじゃないなっていつも思ってるんだけど(笑)、その時の余計な要素ばっかりが入ってくるんで、そっちに引きずられてフィルターかかりまくりで見てるんですよ、きっと。
杉田:最近『トゥルー・ロマンス』見返したら、こんなに面白かったかと思ったんですよ。
樋口:そういうことだと思うんだよね。だからある程度時間が立ってから観るっていうのは、凄く大切なことだなって思うんですよね。ところで、そのトニー・スコットと『ひとつの歌』がどう繋がっていくのか(笑)、繋がってないんじゃないですか(笑)。
杉田:彼女話になってしまって(笑)。トニー・スコットで一番思い出すカットは、カットの繋がりなんです。『デジャヴ』(06)のデンゼル・ワシントンが最初変な施設に連れて行かれて訳も分からずスクリーンを見て彼女(ポーラ・パットン)に出会いますよね、その後ちょっと一回静まってみんなも作業してる中、彼女がふっとあるはずのないカメラ目線で、あのウィンドウを見る時があるんですよね。擬似的にデンゼル・ワシントンと彼女が目を合わせて、合ってないんだけど合ってるっていう、なんか普通に見てたらすぐ見逃しちゃうというか、あんまり気にも止めずに見るような瞬間なんですけど、なんかあれが好きで、自分にとって映画ってあの瞬間なんですよね。もちろんストーリーとか色んな流れとか積み重ねとかあるんですけれども、説明出来ない目線のやり取り、今なんか目が合ったと思うっていう瞬間、なんかそれだけで自分は幸せになれちゃうところがあって、トニー・スコットの映画を観てると、そういう場面によく出会う。デンゼル・ワシントンとヴァル・キルマーが話してる時に紙コップで歯磨きしながら話してるとか、どうでもいい瞬間。そういう自分がこれいいなって思うやり取り、誰かと誰かが交わす時間みたいなものを見ていくだけでもいいんじゃないかって、ある意味開き直って台本書いたのが『ひとつの歌』なんですよね。前に撮った『河の恋人』(06)の時は、映画ってこういうことしなきゃいけないんじゃないかっていうか、ちゃんとドラマ積み上げて物語的にカタルシスを作って盛り上げなきゃいけないっていう意識がどうしてもあったと思うんですけど、それこそ3年くらいたって自分が作った映画を見直した時に、ドラマを積み上げていくのと全然関係なくなんでこんなシーン撮っちゃったのみたいな、特に何も起きてないシーンが一番見てて心地いいんですよね。そんな時に『ひとつの歌』では誰かがただ歩いていたり、誰かが何かを見ていたり、たまに誰かと目が合っちゃったりっていうのが軸になる映画をやってみようと。
OIT:そうすると、トニー・スコットの映画の中でデンゼル・ワシントンが歩いてる姿は、『ひとつの歌』の主人公の姿とも重なってきますね、実際はただ歩いてるだけじゃなくて、ストーキング的に追っているシーンが多いわけですけど。
杉田:そうですね、『デジャヴ』で普通だったらやらないだろうなっていう場面があって、デンゼル・ワシントンが路面電車に乗るところなんですけど。シーンが変わって電話を受けてる太っちょの人が誰かにデンゼルがいないかどうか聞かれて、なんで路面電車乗ってるんだ、なんであんなの使うんだって言われるんだけど、あれに乗ってると考えが深まるらしいよって答える。ドラマとはほぼ関係ないんですけど、それを見ただけで、彼がどういう風に生きてきたのか、彼が過ごしてる時間が一発で分かる。
OIT:『デジャヴ』はそういうシーンが豊かにあって、『アンストッパブル』もそうなんですけど、もう一つ前の、『サブウェイ・パニック』(74)のリメイク『サブウェイ123 激突』(09)はそういうシーンって少なかったような気がするのですが。
樋口:まあ、牛乳買ってくるところとか。
杉田:それラストですね(笑)。ワンガロン買って来いみたいな、ハーフガロンでいいかみたいなやり取りしてんですよね。
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