OUTSIDE IN TOKYO ENGLISH
2018 BEST 10 FILMS

2019.1.17 update
翁 煌德(映画批評家)

M.K(映画ライター)

上原輝樹(OUTSIDE IN TOKYO 主宰)

新作映画ベスト10
翁 煌德(ワンダー・オング)
1.『象は静かに座っている』フー・ボー
『象は静かに座っている』は中国映画史に残る古典となるだろう。この映画は、現在中国政府が奨励している”映画”が依って立つ価値観に抗って逆を行くものであり、撮影も音も素晴らしく、創造的だ。今の時代が生んだ傑作であると同時に、どの時代にも属することのない作品である。

2.『Won't You Be My Neighbor?』モーガン・ネヴィル
ひとりの偉大な男フレッド・ロジャース(TV番組ホスト)についてのドキュメンタリーだが、作品としても極めて秀でている。監督のモーガン・ネヴィルは、それぞれのエピソードに隠された意味を探求し、ロジャース氏の思想を浮き彫りにする。

3.『アッシュ・イズ・ピュアレスト・ホワイト』ジャ・ジャンクー
ジャ・ジャンクーは、今なお、彼独自の芸術的スタイルとヴィジョンを保っている。ジャ・ジャンクーの映画では、歴史的事象(『長江哀歌』における三峡ダム建設のときのように)が起きる前にUFOが出現する。今回、UFOは新疆ウイグル自治区を選んで出現している。これは単なる偶然だろうか?

4.『寝ても覚めても』濱口竜介
『Asako I & II』という英語題が、この映画の真の目的を示している。この物語には同じ外見をした二人の男性が出てくるが、実際、濱口竜介が語りたいのは朝子の二面性についてである。非常に奇妙な映画だが、濱口監督は観客を挑発し続け、最後まで椅子に縛り付ける。この映画で描かれる人々の関係性は、人間の本性がとても複雑なものであるということを見るものに理解させてくれる。素晴らしい映画だ。

5.『Dogman』マッテオ・ガローネ
マッテオ・ガローネは、人間の本性の中に動物の本性を見出す術を心得ている。この映画では、残念ながら環境こそが全てを決定しているのだということが語られる。事実、人々も犬も皆、見えない檻の中に暮らしており、私たちはそのことに気付かない。

6.『スパイダーマン: スパイダーバース』ボブ・パーシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン
この映画は単なる”裏バージョン”ではなく、シリーズ中最もゴージャスなクリエイションである。

7.『The Realm』ロドリゴ・ソロゴジェン
ドラマテッィクかつスタイリッシュな政治スリラー、とても魅了される映画だ。

8.『Arctic』ジョー・ペンナ
2018年のベスト・サヴァイバル映画。ほとんど会話のない映画だが、サスペンスに満ちている。この映画は、人間の忍耐力の強さを描くだけではなく、自然の峻厳な姿を見事に描き出している。

9.『バーニング 劇場版』イ・チャンドン
イ・チャンドンはとても空虚は映画を作ったので、見るものには充分に考え、感じるための余地が残されている。

10.『Our Youth in Taiwan』傅榆(フー・ユー)
監督の傅榆(フー・ユー)は、彼女のビジョンが幻滅に終わるまでのプロセスを率直に描いている。台湾における社会活動グループと自由民主主義のシステムについて、個人の内面を映し出した、真の意味において内省的な映画である。とても残酷で真摯な、成長についての映画だ。


翁 煌德(ワンダー・オング)
台湾映画批評家協会(Taiwan Film Critics Association)メンバー
桃園光影電影館(Taoyuan Arts Cinema)キュレーター
https://www.facebook.com/nofilmnome/
http://wongwonder.pixnet.net/blog

新作映画ベスト10
M.K
例年ほど新作を見られませんでしたが、順位はそれほど関係ありません。リバイバルで初めて見たファスビンダー『13回の新月のある年に』は生涯繰り返し見たい作品のひとつになりました。2018年は邦画の良作が豊作だったので『君の鳥はうたえる』もベスト10に入れたかったです。今回選んだ作品は音楽も素晴らしく印象的なものが多かったです。『ファントム・スレッド』のジョニー・グリーンウッド、そして『シェイプ・オブ・ウォーター』のアレクサンドル・デスプラのスコア、あのシーンでLa javanaiseを使うセンスにはやられました。
『アンダー・ザ・シルバーレイク』デビッド・ロバート・ミッチェル
おそらく大きな努力もせず、何者かになりたくてもなれなかった虚ろな青年が初めて本気になったのは、ヤレそうでヤレなかった(下品ですみません)近所の美女の捜索。そしてあのラスト。この世界で生き続けなければならないミレニアル世代、平凡な私たちの人生を見るようなエモーショナルな1本だった。

『スリー・ビルボード』マーティン・マクドナー
『ファントム・スレッド』ポール・トーマス・アンダーソン
純度の高いある種のカリスマたちは一目で同士を嗅ぎ分けるし、常人ならほとほとお手上げ、彼らの共依存≒純愛という方程式が『ザ・マスター』のふたりにも通じる。

『シェイプ・オブ・ウォーター』ギレルモ・デル・トロ
『顔たち、ところどころ』アニエス・ヴァルダ
歳を重ねても変わらぬヴァルダのきらめく感性と、ゴダールの不在、JRのサングラスの演出に涙。

『菊とギロチン』瀬々敬久
理想に燃えるが何にもできず蝉のように死んでいくアナキスト青年たちと、傷ついてもたくましく生きていく相撲女子。老いを知らぬ彼らのエネルギーと、それを讃えながら見果てぬユートピアを期待させる南方風のリズムに、己の生き様を軌道修正させられるようだった。

『港町』想田和弘
彷徨う観察者を虚実皮膜の世界に誘う幼女のような謎の老女は牛窓のナジャ。

『愛しのアイリーン』吉田恵輔
フランスのウエルベック氏にも原作漫画と共に紹介したい、極東の地方在住非モテ中年男性のセンチメンタルな一瞬の生の輝きを描いた快作。

『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』ショーン・ベイカー
カラフルなケン・ローチ、 ショーン・ベイカーの前作『タンジェリン』も素晴らしかったが、今作はインスタで発掘したというバッドガールなシングルマザーを演じたブリア・ヴィネイトが最高。

『万引き家族』是枝裕和

映画ライターM.K
某大手映画サイトで新作ニュースを担当

新作映画ベスト10
上原輝樹
1.『君の名前で僕を呼んで』ルカ・グァダニーノ
全てが美しくリアルで革命的に優しい、現実もこうあってほしいと願いたくなる奇跡の映画。2018年のベスト・サウンドトラック映画でもある。
2.『バルバラ セーヌの黒いバラ』マチュー・アマルリック
人の人生には実際には起こりえないと思っていたようなことが起きてしまう。『バルバラ セーヌの黒いバラ』は、若い頃に憧れていた”スター”バルバラの伝記映画を撮ることになってしまった映画監督が体験する、人生に起きる奇跡についての実存的恐怖を描いた映画である。バルバラを演じるジャンヌ・バリバールは、この映画で<天上の世界>と<荒ぶる地上の世界>を往来している。
3.『川沿いのホテル』ホン・サンス
子どもが幼い頃に家を出た詩人の父と二人の息子が川沿いのホテルで再会する。ある晩、酒の席で父親は、映画監督になった次男の名にある”並”の字の意味を明かす。「天と地のバランスを取らなければ、人は死ぬか、殺されるかしかない」。ホン・サンスの祝祭的生産性の響宴状態が継続していることを証明する傑作である。

4.『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』スティーブン・スピルバーグ
アメリカの映画作家たちのドナルド・トランプとの闘いは現在進行形で継続している。その最新形が見られるのが、”ウォーター・ゲート事件”の約10年後に起きた、大統領選挙の有力候補を失脚に追い込んだ歴史的報道の是非を描いたジェイソン・ライトマンの傑作『フロントランナー』である。
5.『バスターのバラード』コーエン兄弟
人は自らの”死”を経験することが出来ないが、この映画の6つのエピソードでは、いずれも主人公が様々な形で”死”を経験する。コーエン兄弟は、今はなき失われた世界”ワイルド・ウエスト”を舞台に、不可知の題材を、心に沁みる珠玉のバラードに仕立て上げてしまった。コーエン兄弟ならではの離れ業。

6.『ア・ゴースト・ストーリー』デヴィッド・ロウリー
人は同様に、自らの”死後”を経験することも出来ないが、この映画は主人公の死後の世界を描いている。主人公は”ゴースト”となり家に留まり、最愛の妻の日常を眺め、気が遠くなるほどの時間の経過を経験する。この映画は、映画史上初めて、幽霊の時間スケールを描いた作品なのではないだろうか?これぞ、フィクションの面目躍如というものだ。

7.『寝ても覚めても』濱口竜介
3.11以降、日本列島各地で露わになった亀裂に、暖かい血流を注ぎ、分断ではなく、突き抜けるような”愛”を今一度呼び覚ます壮大な試みは、世界に届いた。濱口竜介の快進撃は始まったばかりである。
8.『悲しみに、こんにちは』カルラ・シモン
母を喪い、都会バルセロナから、カタルーニャの田舎に引っ越した少女の視点で映画は描かれる。素晴らしい音響で鳴り響く音楽と夏山の環境音が瑞々しい映像を包み込んでいる。 スペインの新鋭カルラ・シモン監督は、彼女にしか撮ることのできない自伝的内容を主題として扱い、見るものを惹き込むナラティブで観客を虜にする。
9.『私はあなたのニグロではない』ラウル・ペック
母国ハイチの革命の歴史が西洋列強によって奪われた、その非人間性の根源を、ジェームズ・ボールドウィンが綴った米国の差別の歴史を通じて探求する魂のシネマ・エッセイ。社会変革に情熱を燃やす若き日のマルクスとエンゲルスを描いた『マルクス・エンゲルス』も素晴らしい。

10.『沖縄スパイ戦史』三上智恵、大矢英代
10代少年たちが動員された少年ゲリラ兵部隊、マラリア禍の地に強制移住させられた波照間島民の悲劇、スパイリストに基づいて行われたスパイ虐殺、3つの知られざる沖縄戦史の探求を通じて、現在まで連綿と連なる国体護持の為に住民に犠牲を強いる為政者たちの狂気の歴史を炙り出す、必見のドキュメンタリー。沖縄の歴史は日本の歴史である。歴史を知らなければ、私たちは前へ進むことができない。


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