OUTSIDE IN TOKYO ENGLISH
2013 BEST 10 FILMS

2014.1.30 update
小倉聖子(VALERIA/映画宣伝パブリシスト)

浅井学(OUTSIDE IN TOKYO)

上原輝樹(OUTSIDE IN TOKYO)

日本公開新作映画ベスト10
小倉聖子

2013年は宣伝に関わった「天国の門 デジタル完全修復版」がシネマート新宿で上映された。樋口さんは相変わらず凄いことをするなと思ったが、初日にあの大スクリーンでイザベル・ユペールとクリス・クリストファーソンがダンスするシーンを見て突然涙が溢れ出た。何かすごい映画を観たという感動だった。これこそ映画館体験!というべきものだった。
1.『海と大陸』エマヌエーレ・クリアレーゼ
イタリアの小さな島に続々やってくるアフリカ大陸からの移民。そしてその小さな島から出ることが出来ない若い青年。青年の葛藤と移民の苦しみが深く交差した傑作。エンディングが圧巻。
2.『東ベルリンから来た女』クリスティアン・ペッツォルト
オープニングから引き込まれた。バスを降りたニーナ・ホスが近くのベンチでタバコを吸う、それから病院の中に入っていく。この瞬間に彼女がどういう人なのかを理解できた。セリフも少なく説明もないが、彼女の表情や行動だけで最後まで魅せてしまう傑作だった。
3.『ライフ・フィールズ・グッド』マチェイ・ピェプシツァ
今年のポーランド映画祭の枠で上映した新作。知的障がい者の青年の軌跡を追った話だが、よくある感動ものに仕上げていないところに芸術性を感じた。主人公の青年期を演じたポーランド若き俳優ダヴィト・オドロドニクは、間違いなくこれから注目される俳優だ。
4.『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』デレク・シアンフランス
ライアン・ゴスリングの背中からオープニングが始まった時には、こんな終わり方をするとは想像もつかず、震撼した。小さな話だが、最後の最後まで観客の心を掴んで離さない3部構成に痺れた。
5.『シュガーマン 奇跡に愛された男』マリク・ベンジェルール
ロドリゲスが本当に音楽を愛していたことが伝わる、誠実なドキュメンタリーだった。ロドリゲスがどういう曲を作っていたかを聞いていくだけで人柄が浮かび、いずれ、その通りの人柄の人物だったことがわかった瞬間に涙が出た。
6.『The Great Beauty(英題)』パオロ・ソレンティーノ
フェリーニの『甘い生活』を見ているような作品。ローマの夜を、トニ・セルヴィッロと一緒に旅をしている気分になれる。オープニングのコロッシアムをバックにダンスするシーンには衝撃を受けた。
7.『ペーパーボーイ 真夏の引力』リー・ダニエルズ
監督、脚本、役者、音楽、編集、撮影、すべてにおいてアメリカ映画の“本気”を久しぶりに感じた作品メイシー・グレイの使い方やちょっと流れる楽曲にも監督のセンスの良さを感じた。マシュー・マコノヒーの好演も印象的。
8.『マイ・マザー』グザヴィエ・ドラン
ドランの最高傑作だと思う。母親がいかに自分にとってアグリーな存在に見えるか、表現の仕方がすでにドラン流で確立されていた。原題の“僕は母を殺した”というタイトルが頭の中でずっと聞こえてくる映画だった。セックスシーンの撮り方に感動。
9.『ジンジャーの朝 さよならわたしが愛した世界』サリー・ポッター
女の子同士の友情が崩れる時がある。それは世界の哀しい出来事が理由なのか、単純に男の問題なのか。同じような経験を文化系女子ならしたことがあるかと思う。あまりにも感情移入してしまい、サリーの話に衝撃をうけた。
10.『孤独な天使たち』ベルナルド・ベルトルッチ
エンディングのデヴィッド・ボウイ「スペイス・オディティ」のイタリア語バージョン「ロンリー・ボーイ、ロンリー・ガール」をバックに二人がダンスするシーンを見ただけでもう良かったと思えた作品。

小倉聖子
映画宣伝パブリシスト。2013年は、「フレンチ・フィーメイル・ニューウェーブ」、『コックファイター』、「第6回爆音映画祭」、『ロマン・ポランスキー初めての告白』、「スクリーン・ビューティーズVol.1オードリー・ヘプバーン」、「スクリーン・ビューティーズ Vol.2カトリーヌ・ドヌーヴ」、『ハンナ・アーレント』、「ポーランド映画祭2013」、『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』などの宣伝を担当。

日本公開新作映画ベスト10
浅井学
1.『地獄でなぜ悪い』園子温
久しぶりに満員の観客一体で笑って仰け反って前のめりになって映画館で見る映画を堪能。クライマックスシーンはマキノ&バンツマの活劇『高田馬場の決闘』を彷彿とさせ楽しい。アナーキーなパフォーマンスや自主映画出身の園監督の映画への青臭いような初期衝動を自ら写し取った原点回帰的作品なのかもしれない。
2.『共喰い』青山真治
淀んだ河口、魚の内臓、鰻、ミミズ、釣り竿など、スクリーンには核となるメタファーにあふれ、悲劇的あるいは喜劇的な結末を予感させる。冒頭からぞくぞくする。この空気感、“北九州サーガ3部作”をまた見直したくなった。
3.『三姉妹~雲南の子』ワン・ビン
中国で最も貧しいとされる地方の寒村に暮らす幼い3姉妹を追ったドキュメンタリーだが、ワン・ビンが撮った映像を見ると、例によって哀れみや不平等への憤りの感情などではなく、今そこで生きる少女のたくましさやいじらしさ、一瞬かいま見せた意地っぱりの表情に時として笑わされてさえしまうのだ。
4.『ザ・マスター』ポール・トーマス・アンダーソン
5.『愛、アムール』ミヒャエル・ハネケ
6.『凶悪』白石和彌
7.『ホーリー・モーターズ』レオス・カラックス
8.『ジャンゴ 繋がれざる者』クエンティン・タランティーノ
9.『スプリング・ブレイカーズ』ハーモニー・コリン
10.『ジンジャーの朝 さよなら、わたしが愛した世界』サリー・ポッター

日本公開新作映画ベスト10
上原輝樹

「映画はかつて真に娯楽であり、芸術であった」とは、アミール・ナデリの『CUT』(11)で叫ばれる台詞だが、この台詞ほど、21世紀における「映画」とは何かということを単刀直入に自問している言葉もないと思う。
1.『ザ・マスター』ポール・トーマス・アンダーソン
ホアキン・フェニックス、10年に一度の名演技。最高の映画は、俳優の演技によって齎されることを堂々と証明した傑作。娯楽ばかりが蔓延る世界において、謎に満ちたディテイルを堂々と投げかけるふてぶてしいまでの芸術性が素晴らしい。
2.『ムーンライズ・キングダム』ウェス・アンダーソン
頭の中にあることを、映画セットの中で完璧に実現する特権を何の躊躇もなく実行した、現代における”エデンの園”。娯楽的感性が豊かに息づく、傑作アートフィルム。
3.『ペコロスの母に会いに行く』森崎東
”記憶することが愛である”という真理を全身全霊で開陳する、愛と笑いと涙が横溢する全人類必見の傑作。これ見よがしにではなく、自然な体を装ってなされた時制の実験的処理も秀逸。
4.『ホーリー・モーターズ』レオス・カラックス
カラックスの”人生=過去”と映画の”未来”が現在で衝突した、メランコリーな”事故”としての映画の最右翼。一方通行のアートフィルムかと見紛わせながら、圧倒的にポップな意匠と体を揺さぶる音楽が爆発するところが、カラックス映画の所以。
5.『眠れる美女』マルコ・ベロッキオ
一瞬の内に決定的瞬間を描く巨匠の演出が冴え渡る。現実への怒りをフィクションに昇華し、見るものに覚醒を促す、重厚にして繊細な人間ドラマ。
6.『孤独な天使たち』ベルナルド・ベルトルッチ
ロレンツォとオリヴィアによる映画史に残るダンスシーン、恐らくはここでの出会いが最初で最後のものになるであろう、テア・ファルコとの出会い、あまりに映画的としか言いようのない儚さと瑞々しさに満ちた巨匠50年目の傑作。
7.『グッバイ・ファーストラブ』ミア・ハンセン=ラブ
ミア・ハンセン=ラブ自身の体験を、主人公カミーユ(ローラ・クレトン)に託して描いた珠玉の名作。初恋の記憶が、大きな時間の流れの中で弧を描きながら光と影のコントラストを成し、素晴らしいロケーションの数々とともにスクリーンに溢れ出す。本編で2回流れるジョニー・フリンの「water」が収録されているアルバム「Been Listening」は、2013年に、最もよく聴いたアルバムだった。
8.『アントニオ・カルロス・ジョビン』ネルソン・ペレイラ・ドス・サントス
今年、最も泣いた一作。編集マンとして映画のキャリアをスタートさせたシネマ・ノーヴォの巨匠ネルソン・ペレイラ・ドス・サントスによるアントニオ・カルロス・ジョビン歌曲集は、ナレーションを一切排した、ライブ・フッテージ映像の連なりのみで構成されたマッシヴな音楽映画。
9.『三姉妹~雲南の子』ワン・ビン
中国最貧困と言われる雲南地方の農村で、働き手として期待される男性ではなく、女性として生を授かった”三姉妹”の過酷な日常をキャメラ2台で”観察”しただけの映画が、これほどまでに生命の豊かな活力に溢れ、少女の神々しいまでの表情を捉えた傑作に仕上がっているとは誰が想像しただろう。
10.『ゼロ・ダーク・サーティ』キャスリン・ビグロー
合衆国自らが囚われている血なまぐさい入れ子構造の複雑さ、そのものの中へ突き進んで行くキャスリン・ビグローは、ジェシカ・チャステインの涙に勝利の苦々しさを託しながら、"ゼロ・ダーク・サーティ=深夜0:30"のロックンロールな漆喰の闇で観客を魅了する。


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