OUTSIDE IN TOKYO
RYUSUKE HAMAGUCHI INTERVIEW

8mmで撮影された最初期作品『何食わぬ顔』(03)から、東京藝大修了作品『PASSION』(08)、日韓共同製作作品『THE DEPTHS』(10)、4時間超えの巨編『親密さ』(12)、東北三部作『なみのおと』(11)、『なみのこえ』(13)、『うたうひと』(13)を経て、記念碑的な5時間超えの傑作『ハッピーアワー』(15)まで、濱口竜介ほど、日本のシネフィルに支持され、愛されてきた映画作家も少ない。

その濱口竜介の作品を、母国日本を別として、世界で最初に認めたのは、2008年のサン・セバスチャン国際映画祭だった(『PASSION』)。その後も、濱口の作品は、パリ国際映画祭、東京フィルメックス、ロカルノ国際映画際、山形国際ドキュメンタリー映画祭、PFFぴあフィルムフェスティバルといった大小の映画祭で上映される機会を得、日本国内では大作『親密さ』の完成に併せて、レトロスペクティブ上映が2012年に開催されたが、これはいわゆる”劇場公開”された商業映画が一本もない映画監督としては異例の事態だったと言うべきなのだろう。それほど、濱口竜介という存在は、日本のシネフィルの間で特別な存在だったということだ。

そうしたコアなスモール・サークルの間で圧倒的な評価を得ていた濱口竜介の名を、一挙に世界のシネフィルの間に知らしめたのが、ワークショップに参加した演技経験のない4人の女性を主演に起用した5時間17分の巨編『ハッピーアワー』だった。『ハッピーアワー』は、ロカルノ、ナント、シンガポールほか幾つもの国際映画祭で、主演女優賞をはじめとする主要映画賞を受賞し高い評価を得るに留まらず、元祖シネフィルの国フランスで3部作として劇場公開、2018年9月時点で尚ロングラン上映を続けており、14万人を超える観客動員数を記録している。

そしてついに、柴崎友香の小説を原作として日仏共同製作で作られた商業映画『寝ても覚めても』(18)が第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で上映され、この9月に日本国内で劇場公開されるに至った。喜ばしいことには、東出昌大を主演に迎えた『寝ても覚めても』は都心部を中心にヒットを記録しているという。蓮實重彦の異例のコメント「濱口監督の新作とともに、日本映画はその第三の黄金期へと孤独に、だが確実に足を踏み入れる。」の中に”孤独に”という言葉があるのが意味深長だが、”日本映画の第三の黄金期”という記念碑的文言が認められていることも、現代日本映画を見続けてきた者にとっては決して唐突とは思われないはずだ。

3.11以降、日本列島各地で露わになった亀裂に、暖かい血流を注ぎ、分断ではなく、突き抜けるような”愛”を今一度呼び覚ます傑作を作り上げた、濱口竜介監督のインタヴューをここに掲載する。

1. まずその言葉に対しては、そんな定まった方法というのは
 まずないということを言いたいです(笑)

1  |  2  |  3  |  4  |  5  |  6  |  7



OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):濱口さんは、2011年の3.11の後、せんだいメディアテークの東日本大震災記録映画事業に参加されて、このプロジェクトには、『息の跡』の小森はるかさんも参加されているわけですが、そこで『なみのおと』『なみのこえ』『うたうひと』(いずれも2013年)というドキュメンタリーの東北三部作を撮られ、その後、『ハッピーアワー』(15)というモニュメンタムな作品を作られるわけですが、その時に、ドキュメンタリー映画を作る経験とワークショップから映画を作る経験をされて、おそらくそうした流れの中から、いわゆる“濱口メソッド”という演出法がどうも生まれたらしい、それをそう言い切って良いものか分からないのですが、そういう言葉を聞くようになりました。

濱口竜介:まずその言葉に対しては、そんな定まった方法というのはまずないということを言いたいです(笑)。試行錯誤でやっていることの延長線上でしかないので「メソッド」と言われるとなんか本当にむず痒いっていうのが大前提としてあります。多分「メソッド」と取り沙汰されているのは本読みのことですよね、きっと。ニュアンスを抜いて何度も本読みをすると、それがニュアンスを抜いた状態でその役者さんに染み込んでくる。でも、これは別に僕の方法っていう訳ではなくて、『ジャン・ルノワールの演技指導』という短編ドキュメンタリーの中に、それが入っていて、それが非常に単純に効果てきめんで驚いたんです。ジゼル・ブロンベルジェっていうピエール・ブロンベルジェの娘がその短編ドキュメンタリーを監督してるのですが、その人は女優ではないんですが実際に本読みをした演技が最初にやった演技とはまるで違っていたっていうのを見て、それに衝撃を受けてやっているだけなんです。ただ自分なりに日本語を使う際に、これはなかなかヨーロッパの言語でやるほど上手くいかないなって思うところはアレンジしているっていう感じですかね。

『寝ても覚めても』

9月1日(土)より、テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国公開

監督:濱口竜介
エグゼクティブプロデューサー:福嶋更一郎
プロデューサー:定井勇二、山本晃久、服部保彦
アソシエイトプロデューサー:新村裕
原作:柴崎友香
脚本:田中幸子、濱口竜介
音楽:tofubeats
撮影:佐々木靖之
美術:布部雅人
衣装:清水寿美子
編集:山崎梓
VFXスーパーバイザー:小坂一順
VFXディレクター:白石哲也
スタイリスト:宮本まさ江
ヘアメイク:橋本申二
装飾:加賀本麻末
録音:島津未来介
助監督:是安祐
制作担当:中川聡子
スーパーバイジングサウンドエディター:浅梨なおこ
スーパーバイジングプロデューサー:久保田修
リレコーディングミキサー:野村みき
出演:東出昌大、唐田えりか、瀬戸康史、山下リオ、伊藤沙莉、渡辺大知、仲本工事、田中美佐子

©2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会

2018年/日本/119分
配給:ビターズ・エンド、エレファントハウス

『寝ても覚めても』
オフィシャルサイト
http://netemosametemo.jp

『濱口竜介アーリーワークス』 http://netemosametemo.jp/
hamaguchi/



『THE DEPTH』(2010)レヴュー

『濱口竜介レトロスペクティブ』
 (2012)


『不気味なものの肌に触れる』
 (2013)レヴュー
1  |  2  |  3  |  4  |  5  |  6  |  7    次ページ→