ミア・ハンセン=ラブの長編第三作『グッバイ・ファーストラブ』は、初恋の切なさが、主人公カミーユ(ローラ・クレトン)の人生に深い影を落とし、やがて、時間の経過と共に深まるその影は彼女の人生の光の部分を照らし出す、光と影のコントラストが織り成す、大きな弧を描くような運動の中で、まさに”人生”と呼ぶしかない時間と場所、記憶された感情が瑞々しくスクリーンに溢れ出す、珠玉の名作である。
そんな珠玉の作品を撮り上げたミア・ハンセン=ラブが、東京日仏学院で行なわれた「フランス女性監督特集」のために来日したのは、2012年3月のことだった。エスパス・イマージュで行なわれた、ドミニク・パイーニ氏とミア・ハンセン=ラブのトークショーは、満員の観客で溢れかえり、個人的な体験が投影された『グッバイ・ファーストラブ』について語るミアのトークは、とても親密なものだった。映画作家とこれほど親密な時間を共有することはそう多くはないのではないか、と多くの観客が思ったに違いない。そうして、その翌日に私が行なったミアへのインタヴューは、自然と、前日のトークショーでの発言に触れることも多くなった。
トークショーで交わされた発言の幾つかを当時のメモから記しておく。
- ミアの映画は、”家族小説”のようだ。もちろん、その”家族”とは、必ずしも血の繋がりによる必要はなく、共に長い時間を過ごすことになる”偶然の家族”である(パイーニ)
- 私は自分の映画では、”善い人たち”を見せたい。映画の本質的な役割は”道徳とその実践”であると思う(ミア)
- ミアの映画では、事件は起こらず、シナリオ主義に反している。しかし、危険を匂わせるシーンはたくさんある(パイーニ)
- 私の映画では”人物を優先する”、”カメラはアクションを先取りしない”、”出来事に対して少し遅れて行く必要がある”、”自分が何をしたいかを優先する”、”観客を信頼している”、”フレームの外にある事に興味がある”(ミア)
- 映画において”歩く”シーンは決定的に重要です。私はハイヒールを履いている女性をどのように撮ればいいのかわかりません(ミア)
- 俳優について求めることは、演技がシンプルであること、表現に湿ったところがあること、裸であること(ミア)
このトークショーと、上映されたミア・ハンセン=ラブの映画からエネルギーを受けて行なった、ミアへのインタヴューは、自然と熱の籠ったものになった。是非、この機会に『グッバイ・ファーストラブ』をスクリーンでご覧になり、自らの人生について誠実に語ってくれた、勇気ある映画作家のインタヴューをご一読頂きたい。
1. フランスでは”カミーユ”は女の子の名前でありながらも男の子の名前でもあります |
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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):本作『グッバイ・ファーストラブ』の主人公、”カミーユ”と”シュリヴァン”という役名に何か特別な意味はあるのでしょうか?”カミーユ”はカミーユ・クローデルを連想したり、”シュリヴァン”はプレストン・スタージェスの『サリヴァンの旅』(41)という映画を連想しましたが。 ミア・ハンセン=ラブ(以降MHL):今回はそういう理由で選んではいないですね。まずは、やはりとても主観的な感情で選んでしまうんです。なんの比喩とかメタファーとかを考えずに選ぶのですが、後になって、何処から影響が来たのか、何処からインスピレーションが来たのか、考えられるようになるという感じなんです。カミーユの名前については、フランスではカミーユは女の子の名前でありながらも男の子の名前でもあるんですね、それが私はとっても好きで、だからといってカミーユという人物が男っぽいとかそういうことではなくて、カミーユの人物像に共感するところもありながら、他方では男性の登場人物にも共感するところもあるんです。それが何処なのか、はっきりとは言えないんですが、そういう曖昧さ、そしてその曖昧さがカミーユという名前にあるということが凄く好きだったんです。シュリヴァンという名前に関しては、やはり『サリヴァンの旅』が連想させる旅、映画の中のシュリヴァンもなかなか落ち着きがないのでとても似合うと思ったのと、あとはシュリヴァンという名前は事実、私の経験の中にいた人の名前にも似ているのです。
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『グッバイ・ファーストラブ』 英題:GOODBYE FIRST LOVE 3月30日(土)より、渋谷シアター・イメージフォーラムにて限定ロードショー! 後、全国順次公開 監督・脚本:ミア・ハンセン=ラブ 撮影:ステファーヌ・フォンテーヌ 録音:ヴァンサン・ヴァトゥ、オリヴィエ・ゴワナール 編集:マリオン・モニエ 製作:フィリップ・マルタン、ダヴィド・ティオン キャスティング:アントワネット・ブラ、エルザ・ファラオン 美術:マチュー・ムニュ、シャルロット・ドゥ・カドゥヴィル 衣装:ベトサベ・ドレフュス 出演:ローラ・クレトン、セバスティアン・ウルゼンドルフスキー、マーニュ・ハーバード・ブレック、ヴァレリー・ボヌトン、セルジュ・レンコ、オゼイ・フィヒト 2011年/110分/カラー/35mm 配給:マーメイドフィルム フレンチ・フィーメイル・ニューウェーブ オフィシャルサイト http://mermaidfilms.co.jp/ffnw/ フレンチ・フィーメイル・ニューウェーブ 『あの夏の子供たち』インタヴュー |
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