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Press conference

レオス・カラックス『ホーリー・モーターズ』来日記者会見全文掲載


採録・テキスト・写真:上原輝樹
2013年2月28日 ユーロスペースにて
2013.4.5 update

ついに公開される!レオス・カラックス、13年振りの長編映画『ホーリー・モーターズ』のジャパン・プレミアで実現した”カラックス来日”は、やはり、ただ事では済まなかった。ジャパン・プレミアの会場となった渋谷のユーロスペースには、夕方からの上映であるにも関わらず、早朝から長蛇の列が出来、10時から発売されたチケットはあっという間に売切れ、列に並んだにも関わらずチケットを買えなかった人たちの声がツィッターを賑わせた。そして、『ホーリー・モーターズ』上映後に行なわれた、カラックスと佐々木敦氏、岡田利規氏(チェルフィッチュ)とのトークショーは、必ずしも、『ホーリー・モーターズ』を観終わった直後の、半ば呆然としている満場の観客の期待に充分に応えるものであったかどうかは疑わしい。しかし、少なくともカラックスは語るべき事を語っていた。ここに採録して掲載するのは、その翌日に行なわれた記者会見の全文だが、トークショーで語られ、この記者会見で語られなかったことも幾つかあった。ここに一つだけ特に重要と思われるカラックスの発言を残しておく。

「ドゥニ・ラヴァンは、特殊な身体を作り出していきました。それは素晴らしい身体でいつも私はそれを撮影をしたいと思います。だからこそ、この映画の冒頭に19世紀のモノクロのエティエンヌ=ジュール・マレーという人が撮った連続写真をいれたのです。『ホーリー・モーターズ』は人間の身体とも関係があります。即ち映画作家は画家と同じように人間の身体や顔を観ることを好みます。もちろん風景や建物、人間が作り出したもの、煙草やピストルやその他の色々なものを観るのが好きですが、何よりも人間の身体を観るのが好きです。走っている人間の身体、泣いている身体、SEXをしている身体、そこで冒頭の部分に19世紀の映画の祖先とも言える連続写真を出したのです。父と子が走っていき、ボールを投げて、そして何かを壊すのです。これこそが『ホーリー・モーターズ』、映画の神聖な原動力です。」レオス・カラックス

1. ドゥニ・ラヴァンであれば自分の空想力を全く制限する必要がないのです

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Q:『ホーリー・モーターズ』では、主人公のオスカー氏が色々な人物に変身するわけですが、この「変身」というテーマはどこから来たのでしょうか?また、それを脚本にする段階でどのような苦労がありましたか?
レオス・カラックス:映画のプロジェクトを始める時、最初にあるのは思想ではありません。いくつかのイメージと感情が出発点になります。どこから変身というテーマが来たかというご質問だと思いますけれど、すぐにそういう形で頭の中に浮かんだわけではないのです。この映画の出発点にあったのは、相反する二つの感情です。よく、そうした相反する二つの感情が私の映画のプロジェクトの出発点になることがあるのですが、今回の場合、第一の感情は自分自身でいることの疲労、自分自身であり続けることの疲れという感情です。それとは別に、もう一つの逆の感情があり、それは新たに自分を作り出す必要という感情です。これは全ての人が感じる感情だと思います。ただ自分を新しく作り替えることは難しいことですし、勇気が必要なことです。しかし、このような必要を感じずに人は生きていくことは出来ない、一生同じ一人の自分だけでいることは出来ないのです。ある人は自分自身であり続けるために戦い、そして自分自身であることに疲れていきます。その一方で自分を新たに作り替えていく必要を感じているのです。そこから俳優のメタファーが生まれてきたのだと思います。
Q:主演のドゥニ・ラヴァンさんとは、最初の三部作ではご自身の分身のように考えられていた時期があったと思うんですけれども、久しぶりにラヴァンさんと共同作業をなされて、どのような感じを持たれましたか?
レオス・カラックス:ドゥニ・ラヴァンと私が出会ったのは、お互いが二十歳くらいの時でした。私達は同じ年ですし、ついでに言いますとほとんど背丈も同じです。ドゥニ・ラヴァンを使って三部の作品を作りました。それから20年程経って、再びこの映画でドゥニ・ラヴァンと仕事をすることになったわけです。実は私はフランス以外の所で、外国語で、別の言語で、別の所で映画を作りたいと思っていました。しかし、それが出来ませんでした。そこで、素早く、すぐに撮影をしなければならない、そうしないと自分の頭がおかしくなってしまうという気持ちを持ったのです。そして、どのように早く撮影をするか、そして、どうすれば映画が出来上がる確信が持てるかということを考えました。そこでいくつかの条件が浮かび上がってきました。まず、パリで撮影すること、低予算であること、ビデオで撮影をすること、そしてラッシュを撮影中には見ないこと、そして最後に必要だと思われた要素が、ドゥニ・ラヴァンを主演に据えることでした。なぜなら、ドゥニ・ラヴァンは私が一番よく知っている俳優であり、彼に対してであれば全ての要求をすることが出来ると分かっています。即ち脚本を書く時に、ドゥニ・ラヴァンであれば自分の空想力を全く制限する必要がないのです。彼と再び仕事をしたわけですが、彼は以前よりも偉大な俳優になっていました。以前も彼を撮影することはとても好きでしたけれども、まだ彼には限界がありました。今や彼には限界が全くなくなっている、偉大な俳優になっていると気が付きました。しかし実人生では、私はドゥニ・ラヴァンのことを全く知りません、友人ではありません。30年前からお付き合いをしている仕事の関係はあるけれども、一度しか夕食を一緒にしたことがありません。それは『TOKYO!』(08)の撮影中、東京の街で雨が降っている夜に、偶然ドゥニ・ラヴァンと出会ったから食事をした、その一回だけです。ですから本当の意味で彼と話し合ったことがない。30年間こうして知っている人と本当に話し合ったことがないというのはとても不思議なことですけれども、彼と私の関係に似つかわしいことだと思います。

『ホーリー・モーターズ』
英題:HOLY MOTORS

4月6日(土)より、渋谷・ユーロスペースにてロードショー 他全国順次公開

監督・脚本:レオス・カラックス
撮影:キャロリーヌ・シャンプティエ、イヴ・カープ
編集:ネリー・ケティエ
音響:エルヴァン・ケルザネット、カティア・ブタン、ジョセフィーナ・ロドリゲス、エマニュエル・クロゼ
メイク・ヘアデザイン:ベルナール・フロック
SFXメイク:ジャン=クリストフ・スパダッチーニ、ドニ・ガストー
美術:フロリアン・サンソン
衣裳:アナイス・ロマン
監督補:ジュリー・グエ
制作担当:ディディエ・アボ
スクリプト:マチルド・プロフィ
ポスト・プロダクションマネージャー:ウジェニー・ドプリュ
サイバーモンスター・デザイン:ディアン・ソラン
データモッシング:ジャック・ペルコント
視覚効果ディレクター:ティエリー・ドロベル
VFX監修:アレクサンドル・ボン
VFXプロデューサー:ベレンジェール・ドミンゲス
3D監修:オリヴィエ・マルシ
プロデューサー:マリティーヌ・マリニャック、モーリス・タンシャン、アルベール・プレヴォ
出演:ドニ・ラヴァン、エディット・スコブ、エヴァ・メンデス、カイリー・ミノーグ、ミシェル・ピコリ、エリーズ・ロモー

©Pierre Grise Productions

2012年/フランス/115分/DCP/ドルビーSRD
配給:ユーロスペース

『ホーリー・モーターズ』
オフィシャルサイト
http://www.holymotors.jp/


祝『ホーリー・モーターズ』公開記念、レオス・カラックス監督特集

第16回カイエ・デュ・シネマ週間

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