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Press conference

レオス・カラックス『ホーリー・モーターズ』来日記者会見全文掲載

3. エディット・スコブを使ってもう一本映画を撮らなければいけないと思っていた

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Q:冒頭で劇場のシーンが出てきましたが、監督自身は映画を観る観客というものをどういうように捉えてらっしゃるんでしょうか?
レオス・カラックス:私は映画を作る時、観客のことは全く考えていません。映画を作っている時、観客のことよりもむしろ私自身のことを考えていると思います。今おっしゃった最初のショットですが、まさに今、私がここで見ているのと同じような光景です。2〜3人眠りこんでいる方がいらっしゃいますけど、あの映画館のシーンでは全員が眠っているのか死んでいるのか分からない状態になっています。それは一つのイメージでした。映画のプロジェクトが始まる時、いくつかの感情といくつかのイメージがあって映画を私は考え始めます。その最初に出てきたイメージの一つが死んでいるのか眠っているのか分からない観客を正面から見るというイメージでした。普段は絶対に見ることが出来ないようなイメージです。もう一つ最初にあったイメージは、私がパリのセーヌ川に架かった橋の傍らで何年も前からよくすれ違っていた物乞いの老女です。それも最初にあったイメージの一つでした。観客について言えば、私は観客が何なのかよく分かりません。かなり多くの人数のグループであって、間もなく全員が死んでいくだろうということしか私は分かっていません。このように私は観客が何なのか全く理解していません。
Q:本作は主人公がオスカーということですが、そのオスカーを導く役としてセリーヌ(エディット・スコブ)が出てきます。セリーヌはタイトルにある通り、車を運転する役割だと思うのですが、とても重要な役だと思います。そのセリーヌの役割、物語の中での役割、存在についてお伺いできればと思います。もしくはセリーヌが監督ご自身であるという風に捉えることが出来るのでしょうか?
レオス・カラックス:このプロジェクトにセリーヌがどのようにして到来したのかは、自分でもよく分かりません。最初にリムジンは思いつきました。あの長いストレッチリムジンを、よく私はパリで見かけます。私はパリの中華街の近くに住んでいて、パリにいる中国人は結婚式によくあのリムジンを使います。ですから日曜日などに、花やリボンで飾られたリムジンをよく見かけるのです。私はそのリムジンにとても驚かされました。なぜならばそうした結婚式の乗り物というよりも、大きな棺桶のように見えて、不吉であると同時にエロティックなところがあると思っていました。人の目を引くためのことを全てしているのに、決して中が見えることはない。これで少しバーチャルな世界とも繋がるような感じがあります。リムジンをフィクションの中心に置いた時、私は中にいる人々を想像しました。普通、リムジンは自家用車として買うものではなく、時間決めでレンタルをするものです。ですからその中で人々はリムジンをレンタルし、リムジンを借りている時間の間だけ、なんらかの役を演じています。即ち、自分を普通よりもお金持ちに見せるとか、あるいはより有名人に見せるとか、あるいは自分を隠すため、自分を見せびらかすためといった形でリムジンは使われています。そこで思いついたのは、そうしたある程度の時間の間だけではなく、リムジンの中で乗っていて様々な実像を絶えず変えてゆく役、人生を通じて様々な役を演じている人物というのを思いついたわけなのです。そうすると今度は誰がリムジンを運転をするのかという問題になってきます。それでどのようにしてセリーヌを思いついたのかよく分からないのですけれども、その段階に至った時、プロジェクトがかなり進行していて、そして私は古いフランスの幻想的な映画を思い出しました。これは知られていますけれども、今では誰も観なくなってしまったような映画であります。例えばルイ・フイヤードの映画、そしてジョルジュ・フランジュの映画です。特にジュルジュ・フランジュの『顔のない眼』(59)という作品があります、その映画にエディット・スコブは二十歳の時に主演をしていました。実はエディット・スコブには、『ポンヌフの恋人』(91)の時も出演をしてもらい、撮影をしました。しかし、編集の段階でそのショットが切られてしまって、『ポンヌフの恋人』の中でエディット・スコブは僅かに髪の毛が見えるだけです。ですからいずれにしろ、彼女を使ってもう一本映画を撮らなければいけないと思っていたのです。そこで彼女を運転手に起用することを考えたのです。こうして運転手は、年配ではあるけれど、とても美しい女性エディット・スコブということになりました。けれどもセリーヌの役割が何なのかは私にとっても謎です。運転手であるけれども秘書のようでもある。そして物語が展開するにつれ、彼女が段々に意味を持つ存在になっていきます。彼女はキーを持っていて、そしてまたお金も彼女が持っています。どうしてそういう風になっていったのかは自分でも説明がつきません。


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