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KALTRINA KRASNIQI INTERVIEW

越川道夫『水いらずの星』インタヴュー

4. 1テイクで終わるのが一番いいんです。3テイク以上はやりたくない。
 これは自分の神経質さとの戰いなんですよね

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OIT:シーンの途中で結構カットを割っていますが、今回の作品では、コンテは作られたのですか?
河野知美:ほとんどがそうです。シーン的には男が海を渡ってくる場面と滝沢涼子さんにご出演いただいたスナックのシーンだけが映画用に足されたシーンです。セリフが載っている場面という意味では戯曲ほぼそのままです。監督が松田正隆さんに映画化の相談をされた際に「この戯曲をこのままやります」とお伝えしたと伺っています。

OIT:それはそれで、珍しいやり方ですね。
越川道夫:今、思い出しましたけど、カサヴェテス的なアプローチを自分達として、どのようにしていくか、がいつも頭にあります。カサヴェテスのある時期、『こわれゆく女』(1974)の頃だと思いますけど、先に演劇があるわけですよね。ジーナ・ローランズ達も出ていて、その中の1本である『こわれゆく女』を映画にしていくという、僕はそのプロセスを詳しく知っているわけではありませんが、それって映画を作る上での幸福な形だなあという思いがあるんです。とにかく、『水いらずの星』を舞台にそのままかけても行けるような形で稽古をして、撮るのは映画として撮るというアプローチを試してみたいというのはあったと思います。コンテというか絵ではありませんがいつもクランクイン前に、全部割ってはいます。プランとしては。ただ、僕の場合は、『アレノ』の頃からそうなんですけど、結局、僕は現場で台本を見ないんです。役者を台本の奴隷にしたいわけではないし、台本を見ながら芝居を見ていたら、芝居を見落とすわけです。だから、現場でよく台本を失くします。『海辺の生と死』(2017)でトエが家から隊長に会うために出ていく、という台本で2行位のシーンがあるんですが、満島ひかりさんと二人で芝居を作っていくと、たった2行の脚本が5分位のシーンになったりする(笑)。もちろん台本から出発したことをやっているわけですが、台本は見ないで役者と芝居を作ることに夢中になっているんですね。そこから最終的なカット割りをカメラマンとやりますから、机上で考えたことは残ってるとは思うんですけど、結局、できたものは違うんですよね。動きも違うし、現場で役者と芝居を作るっていうことをしますから、カット割りも違ってくる。(撮影期間中に)ホテルとかに帰って、次の日のための勉強をするわけですけど、違うから意味ないんで、机上で考えたことは全部消してしまう。消しながらその日にみんなでやったことを思い出す。それから次の日のプランを考えるわけです。それで、次の日も割れてはいるわけですけど、撮影が終わるとそれも消して、もう一回考えて、ということを撮影中は繰り返します。

OIT:頭の中に残っているものだけでやると。
越川道夫:芝居作って、カット割り作って、撮って、また帰ると、違うわけですよ、当たり前ですけど。だから、また消しちゃうんです。だから、一本映画を撮り終えると、僕の台本には何も書かれてないですね。書いた痕跡が残されているだけ。僕は、青写真に合わせていくことに興味がないんです。『水いらずの星』で梅田君に言っていたのは、ある戯曲の部分があって、ここの芝居を、僕が10通り、梅田君が10通り想像したとして、20通りやり方がある、現場でやるっていうことは、ここにある20通りにはない、21通り目が出てこなければ一緒にやってる意味がないってことなんです。現場で、その21通り目を見つけよう、と。そのような作りの方が、僕にとってはスリリングで面白い。自分が考えた青写真に合わせるっていうのは、人を、カメラマンも役者も青写真の奴隷にすることに過ぎないと思ってしまうのです。有機的な現場に思えない。

OIT:カメラは一台だったんですか?
越川道夫:一台です。

OIT:複数台で撮って、編集で繋ぐようなことはしていないんですね。
越川道夫:基本は普通の映画の撮り方と一緒で、ここからここまでって言って、そのシーンを演じてもらって、芝居を作って、カメラマンと割りをやって、ちょっとダブらせながら撮っています。だから、男向けと女向けのカットバックがあれば、一連でそれを撮ったりはするのですが、至って普通の撮り方ですね。

OIT:撮影期間が1週間程度だったと聞いていますが、この濃厚な内容ですから驚いたんですけど。テイクは何回か撮ったりしているんですか?
越川道夫:いや、基本的には、1テイクで終わるのが一番いいんです。3テイク以上はやりたくないんですね。3テイク以上やると、30テイク以上やらないといい芝居が出てこないと思います、多分。これは自分の神経質さとの戰いなんですよね。要するに、何か気になっても、1テイク目の驚きみたいなものを肯定出来るかどうかという話です。基本は1テイクです。時間もないですしね。フィリップ・ガレルもそうだと思うんですけど、リハーサルは凄く時間をかけるけれど現場は基本1テイクなんです。ジャック・ドワイヨンは30テイク位やるわけでしょ。僕たちの現場にそんな時間的な余裕はないわけです。半年位前から月に2回集まって、稽古して演出するわけです。それを繰り返しして現場に入るわけだから、何を自分がやらなくちゃいけなくて、何が問題かというのを役者たちは大体わかっている。であれば、基本的に現場での撮影は1テイクで終わった方がいい。だけど、そうはいかないんで、僕がグタグタ言い始めて、俳優が悩んで、みたいなこともあります。最初に芝居を見て、これはダメだな、から始まって、ちょっと時間が掛かるよって助監督に言って、10時くらいまで(カメラが)回らないです。あのさ、これをちょっとやってみて、って始まって、俳優が悩んで、10分休憩して、1カット目から撮る、これを毎日です。

OIT:夜は遅くまでやるわけですか?
越川道夫:9時半には終わりたい。完徹みたいなことしたくないし、夜中まではやりたくない。いい結果にならないと思います。ただでさえスタッフはハードですから、少しでも休む時間があったほうがいい。どうしてもという場合は覚悟しますが。

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