OUTSIDE IN TOKYO
SHIMADA RYUICHI INTERVIEW

島田隆一『春を告げる町』インタヴュー

2. “帰れない”ことを軸に原発事故を語ることが多くあった中で、もう帰った人がいて
 生活が始まっているという状況を表現に変えていかなければいけないと思った

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OIT:教育の現場に携わりながら、最初から撮るつもりでしたか?
島田隆一:そうではありませんでした。当初は、子供が記録する10分の短編を6本作ったんです。その時期というのは、町がとにかく移り変わっている時で、駅の東側は津波の被害が酷いのですが、そこにどんどん新しい建物が建っていく頃でした。そういった風景を残しておきたいというお話を加賀さんから頂いたんです。私としては本音を言うと、被災地で映画を撮るという事は出来ないと考えていました。理由は2つあって、1つはそれこそ先ほどおっしゃったように瀬尾さん、小森さんとか、我妻和樹監督とか、そういった方達が震災前とか震災後すぐに入られて継続的にやられてきたお仕事があって、そういった方達を前にして自分が映画を作るっていうのはあまりにも難しいと考えました。それから私はあまり多くの被災地についての映画を観ていないのですが、記録性ということでは非常に優れた作品が当時も多くあったと思うんです。それでも私がもし映画を作るなら、自分なりの視点みたいなものを見つけられない限り、映画を作るとことは出来ないと思いました。

OIT:その意識が途中から変わってきたわけですね。
島田隆一:そうですね、1年目でお断りしていて、2年目になってもう一回加賀さんから頼まれた時、端的に言うと被災地の在りようが変わってきているなっていう感覚がありました。それは当初、被災地で撮られていた映像は、記録として撮られていたもので、始まりの本当に始まりでした。まだこの先が見えない中で、視点とか解釈ということではなく、目の前に起こっている大きな出来事をとにかく記録しておかなくてはならないということだったと思うんです。しかし時が経つにつれ、帰町が始まり、人々が日常を取り戻しつつありました。インフラの整備も進み、一見すると震災前と変わらない日々が戻ってきたような雰囲気があったのです。しかし、実際はまだまだ様々な問題が山積みで、新たな問題も出てきていました。町自体が抱える問題が次の段階に徐々に移行していくタイミングだなということを感じていました。例えば、私が1年目に関わった中学生の女の子が話していたことが印象的でした。2015年の3月に仮設住宅を引き払って広野町に戻ってきた女の子なのですが、どこに撮影に行きたい?って聞いたら、仮設に行きたいと。何で?って聞いたら、私は仮設が凄く楽しかった、だけど私が見たTVのニュースでは仮設はすごく大変でとか、ネガティブなイメージしかないと、私はあそこが凄く楽しくてみんなにそれを伝えたいって言われたんです。そういう話を聞いて、自分なりに今まで紋切型に切り取られていた被災地の状況とは違う何か別の姿が見えるのかなっていう期待がありました。あとはやっぱりその当時、7割の住民、大体3000~4000人くらいは町に帰っていて、それとほぼ同数の作業員の方達が暮らしているという町で、当初の町の町民の倍近い人達が今その町に暮らしているっていう現状を見ていた時に、何かこう今までとは違う自分の視点が持てるのかなということを思ったんです。
OIT:それが2016年の9月くらいのことですか?
島田隆一:2016年9月に2年目が終わったあたりで、もう一度プロデューサーの加賀さんと話した時に、そういう視点であれば自分なりに描けるものがあるかもしれないとおもっていました。原発事故で一番被害が大きいのは双葉、大熊っていう町であったり、その周辺の富岡であったりするわけですが、広野町はもう震災から一年後には避難指示が解除されて、とにかくもう町民が戻って来ているっていう状況がありました。それでも多分東京の人は広野ってあまり知らないんだろうな、この現状はニュース性に乏しいし。やっぱり、あの当時も今でもそうですけど、帰れないっていうことを一つの軸に原発事故を語るということが多くあった中で、もう帰った人がいて生活が始まっていて、しかも子供達ももう帰り始めていて学校も再開しているっていう状況は、自分がたまたま出会ったことですけれども、それを表現に変えていかなきゃいけないんじゃないかなと思っていました。
OIT:渡邉克幸さん一家のような若い人も帰って来ていて、数値の検査を受けながら生活してるっていう話が最初の方にありましたが、あれは何年何月くらいのことですか?
島田隆一:2017年の前半に撮影しているので多分4月とか5月、インタヴュー自体はそれぐらいの時期ですね、春先でした。
OIT:その生活は今もそういう風に続いてるんですよね?
島田隆一:そうですね、食べ物に関しては全て直売所の物もまだ検査していますし、お米も全袋検査しています。もちろん食べ物に関しては渡邉さんがするというよりも、販売する方達が検査しています。渡邉さんご自身は消防士ということもあって知識もあって研修も受けていますので、子供たちを遊ばせる時にはご自身で数値を測っています。

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