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OLIVIER ASSAYAS INTERVIEW
オリヴィエ・アサイヤス オン 夏時間の庭

『イルマ・ヴェップ』(96年)、『デーモンラヴァー』(02年)、そしてカンヌ国際映画祭でマギー・チャンに最優秀主演女優賞をもたらした『クリーン』(04年)で知れられるフランス人映画監督、オリヴィエ・アサイヤスは、パリのオルセー美術館が主導するプロジェクトを引き受けた(プロジェクトの1号目はホウ・シャオシェンの『ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン』だった)。その作品『夏時間の庭』(08年)は、日本で公開され、彼のこれまでの実験的でミニシアター寄りの作品群から、より普通なストーリーテリングへの出発のようにも見受けられる。 ジュリエット・ビノシュ、シャルル・ベルリング、ジェレミー・レニエが、母親の誕生日に、産まれ育った実家に集まる2人の兄弟と妹を演じている。母親は敬愛するアーティストであった義兄の作品やその他のアールヌーボーのオブジェや家具のコレクションを管理し、彼の回顧展と本の出版に力を尽くしている。上の兄はパリに住む経済学者で、次男は中国でスポーツアパレルの工場を管理し、下の妹はサンフランシスコでプロダクト・デザイナーとして忙しい生活を送っている。母親は集まった彼らに、自分が死んだ後に家や作品をどうすべきか伝えたかったようだ。 物語は、テクノロジーやグローバリゼーションの影響で変革していく家族の価値観の移行を見せてくれる。その映画の様相は比較的、古典的だが、アサイヤスは、我々が体験している社会の変化を教えてくれている。これから夏にかけて、『夏時間の庭』『ノイズ』『クリーン』が続けて日本で公開されるにあたって、彼がフランス的な映画作りに立ち返るという発言のもとに完成させたこの映画について聞いてみたいと思った。

1. 『夏時間の庭』は、謙虚な意味で、偉大なジャン・ルノワールへのオマージュなんだ

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これまでの家族の概念が崩壊しつつある現在、3世代に亘るひとつの家族を描くというこのアイデアに、そもそもどうして興味を持たれたのですか?
それはおそらく、母親の死後、失意の感覚、時が過ぎゆく感覚、そしてそれ以上引き延ばすことができず、人が一生の間に避けて過ごしてきた問題に対処しなければならないという感覚だと思う。そう、家族という概念は崩壊しつつあるよね。そして世界経済が大きく変化し、特定の文化、伝統、家族の価値観から自らを切り離そうとする中、現代社会がグローバライザーションとどう対面するかということを表していると思う。

あなたのこれまでの映画は、現代的な問題を扱いながら、言語、文化、人の精神などにおいて、逆転した視点を見せてきました。この映画はそうした流れの中でどう捉えればいいですか?
僕の映画は、全て同じ世界で起きているものだ。それは僕らがみんな住んでいる世界だ。ただ、僕は映画によって、ある特定のアングルでカメラを据えることを選んでいるのかもしれない。『夏時間の庭』は、前世紀前半から受け継いだ環境を扱っている。(アーシア・アルジェント主演でロンドン・香港を舞台に撮影した)『ボーディング・ゲート』(07)はラディカルな現代性の過剰さを扱ったものと言えると思います。でも、それは全て同時に起きていることで、一方を捉えることなく、完全に他方を理解することはできないのかもしれません。

最初の段階で、オルセー美術館との仕事に懸念を覚えたことはありますか?可能かこと、可能でないことなど、制限があるかもしれないと。
もし何らかの理由でこの映画を作る上での、完全にアーティスティックな自由が与えられないと思ったなら、単純に作ろうと思わなかったでしょう。

家はどのように選んだのですか?また、美術作品はどのように選んだのでしょう?脚本と照らし合わせてあなたが選んだのですか?それとも、どんな作品が使われるかを気にしなかったということもあるのでしょうか?
まず、脚本の初稿を何のオブジェもない状態で書き、自分が求めるもののガイドラインを示唆する程度にとどめました。それから、書き進めていくならば、オブジェを“キャスティング”しなければならないことに気付きました。それでアールヌーボーの装飾芸術、つまり、使い様のある芸術作品に焦点を当ててリサーチを行いました。作品の基準は、自然、植物の形、芸術と人間との関係を持つものです。それはもちろん、印象派絵画が内包していたものです。

フランス映画の伝統に還りたいと話した時、どのような映画が頭にあったのでしょうか?この映画を形成する上で大切な映画はありましたか?フランス人の監督である以外にフランス映画の系譜の一部である気はしますか?それが自分の映画作りの中に見出すことはできますか?
僕は、フランスの映画作りの伝統に還りたいと言ったことはない。グローバリゼーション化された文化とそれが生み出す新しい語りを扱う映画を3本撮った後、再び“フランス映画”を作りたいと思ったんだ。最終的に、僕が作った映画は、他の最近の映画よりもテーマ的にはそんなに遠くないものだと思う…。映画作りの何たるかは、ロベール・ブレッソンを崇拝するところから始まりました。ヌーヴェル・ヴァーグや、トリュフォー、ゴダール、ロメールの映画がなければ、僕は今、映画を作っていないと思う。『夏時間の庭』は、謙虚な意味で、偉大なジャン・ルノワールへのオマージュなんだ。そういう意味で、確かに、自分はフランス映画の特定の系譜の一部であるという気がする。

『夏時間の庭』
L'Heure d'été

フランス映画祭2009オープニング上映作品
5月、銀座テアトルシネマ他にてロードショー

監督・脚本:オリヴィエ・アサイヤス
プロデューサー:マラン・カルミッツ、ナタネール・カルミ、シャルル・ジリベール
撮影:エリック・ゴーティエ
録音:ニコラ・カンタン、オリヴィエ・ゴワナール
美術:フランソワ=ルノー・ラバルト
衣装:アナイス・ロマン、ヨルゲン・ドゥーリング
出演:ジュリエット・ビノシュ、シャルル・ベルリング、ジェレミー・レニエ、エディット・スコブ、ドミニク・レイモン、ヴァレリー・ボヌトン、アリス・ド・ランクザン、カイル・イーストウッド(※1)他

2008年/フランス/102分/カラー/ドルビー/1:2.35
製作:MK2プロダックション
共同製作:フランス3シネマ
参加:オルセー美術館、カナル+、TPSスター
配給:クレストインターナショナル

写真:© 2008 MK2 SA - France 3 Cinéma

『夏時間の庭』
オフィシャルサイト
http://natsujikan.net

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