OUTSIDE IN TOKYO
KOMORI HARUKA & SEO NATSUMI INTERVIEW

『二重のまち/交代地のうたを編む』(2019)を最初に見たのは、2019年10月に開催された山形国際ドキュメンタリー映画祭でのことだった。台風で新幹線が止まってしまい深夜バスで山形へ行ったので、寝不足気味の映画祭参加となってしまったが、『二重のまち/交代地のうたを編む』は、ネルソン・ペレイラ・ドス・サントス『ジョビンの光』(2013)、小田香『セノーテ』(2019)とともに、どうしても見たいと思っていた作品の一つだった。

『二重のまち/交代地のうたを編む』のベースとなった瀬尾夏美の『二重のまち〜2031年、どこかで誰かが見るかもしれない風景〜』(以降、『二重のまち』と記す)には、春夏秋冬4つの物語がある。それぞれの物語にはひとりずつ語り手がいて、生き残った者の視点で書かれたものと死者の視点で書かれたものがある、と言ってしまっては嘘になる。生者も死者も『二重のまち』の中では平等に物語ることが許されているからだ。それぞれの物語は平易な文体で書かれているが、その源泉には豊かな情感が息づいている。映画を見た後、この物語を読んだ私は、文章と絵画、いずれの筆致にも魅了され、瀬尾夏美が描く近未来の日常描写の現実感と、しなやかな想像力に驚かされた。

『二重のまち/交代地のうたを編む』は、『二重のまち』の物語を起点として、単純とは言えない有機的な経緯で実現した「交代地プロジェクト」を可視化、映像化した作品であり、そこには<継承のはじまりの場>をつくるという作者の明確な意図が働いている。2011年3月11日に起きた東日本大震災の被災地である陸前高田を訪れた4人の旅人たちには、その地の人々に聞いた話を、自らの言葉で“語り直す”という使命が課されている。旅人たちは見たもの、聞いたものを、遜色なく伝えること、表現することの困難を身を持って体験していく。小森はるかのキャメラはその様を捉え、あたかも何の苦労もなかったような聡明な手捌きで、4人の旅人たちが表現に向き合う生々しい姿を、見事に構成された僅か80分足らずの映画に収めている。

エピローグでは、旅人のひとりが大阪の街に戻っていき、彼女が自らの身体を通じて、このプロジェクトで体験したことを語っていく未来への希望が仄めかされている。私は、その一連のシークエンスにリュミエール兄弟のことを想起した。19世紀末、リュミエール社は何人ものキャメラマンを世界中に派遣して映像を撮った。そこには、その映像を見た者たちが、まだ見ぬ他者へと、自らが見たものを伝えていくことへの期待があったに違いない。小森はるかと瀬尾夏美のふたりは、旅人たちを見出だし、彼らと15日間の活動を共にし、旅人たちはまた生活の場所へと戻っていく。そこに、新しい<継承>が始るという希望がある。そうした活動の循環自体が、”現実に働きかける”映画の力能を信頼した、極めて映画的な試みであるといえる。『二重のまち/交代地のうたを編む』は、この作品を見た者に、ここで見たもの、聞いたものを、他者に語り伝えたいという欲望を強烈に喚起せずにはいない作品である。

1. 芸大のスクールカーストでは、“下っぱとして一生懸命働く”
 みたいなポジションでした(瀬尾)

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Photo: Morita Tomomi
OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):最初に、随分遡りますけど、お二人が芸大でどのように知り合ったのかを簡単に教えていただけますか?
小森はるか:大学の学部が同じ学科で、私達の学科って30人ぐらいの人数しかいないので普通にクラスメートみたいな感じで4年間一緒だったんですけど、遊びに行く友達っていうよりは自主企画的に展覧会をやったり、卒展の実行委員をやったり、そういう時によく一緒にいて、仲が良かったっていう感じです。実行委員とか運営側の仕事をやることが多かったです。
OIT:30人ぐらいしかいないから、皆さんそういう感じで親しい感じになるんでしょうかね。
小森はるか:そんなに親しくない人もいましたけど(笑)。
瀬尾夏美:4年もクラスが一緒だと、何となく役割ができるじゃないですか。それで、私達はリーダータイプではなくて、どちらかというと“下っぱとして一生懸命働く”みたいなタイプでしたね。それを進んでやりたいという(笑)。私は、最初は写真をやっていて、その後、絵画に移ったんですけど、小森はずっと映像だったので、お互いに作品を討論し合うという仲でもないですし、行事とか何かやろうっていう時に一生懸命やる人達みたいな、1年生の時からそういうポジションが似ていましたね。
OIT:なるほど、スクールカーストでいうと割と下の方だった。
瀬尾夏美:そうそう(笑)。下っていうかボスの手先のような。
小森はるか:芸大のスクールカーストって微妙なんですけど、運営の仕事は何にもやらないタイプの人もいるんです。
瀬尾夏美:言ってしまえば中二病のようなね(笑)。まあそれは私たち含めてほぼ全員そうだったけど。
小森はるか:“リーダー格”じゃないけど、ある意味強い人達もいるし。
OIT:お二人は結構、実動部隊として働くタイプだったと。
瀬尾夏美:そういうことですね。

『二重のまち/交代地のうたを編む』
英題:Double layered town/Making a song to replace our positions

2月27日(土)より、ポレポレ東中野、東京都写真美術館ホールほか全国順次公開

監督:小森はるか+瀬尾夏美
作中テキスト:瀬尾夏美
ワークショップ企画・進行:瀬尾夏美、小森はるか
制作進行:清水翼
撮影・編集:小森はるか、福原悠介
録音・整音:福原悠介
録音・撮影助手:佐藤風子、森田具海
スチール:森田具海
カラーグレーディング:長崎隼人
出演:古田春花、米川幸リオン、坂井遥香、三浦碧至

© KOMORI Haruka + SEO Natsumi

2019/79分/日本
配給:東風

『二重のまち/交代地のうたを編む』
オフィシャルサイト
https://www.kotaichi.com



書籍『二重のまち/交代地のうた』
絵・文 瀬尾夏美
書肆侃侃房より2月下旬刊行
四六判、並製、256ページ
定価:本体1,800円+税
ISBN978-4-86385-449-9 C0095
http://www.kankanbou.com/
books/essay/0449


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