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KOMORI HARUKA & SEO NATSUMI INTERVIEW

小森はるか+瀬尾夏美『二重のまち/交代地のうたを編む』インタヴュー

7. これを観た人達がこの物語を血肉化していくっていうことへの
 期待が大きい(瀬尾)

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OIT:もちろん最初に、“語り”の継承の場を作りたいっていう意思があったんだと思いますけど。
瀬尾夏美:そうですね、小森+瀬尾の作品って、ずっと“声”のことをやっていて、『波のした、土のうえ』もそうだし、一番最初の『砂粒をひろう—Kさんの話していたことと、さみしさについて』(2013)も語りをどうやって残すかっていうことを、記録した映像あるいは色々なメディア、主に言葉と絵になるんですが、それらを組み合わせて、どうやるかみたいなことだったと思うので。そこはずっと変わらず、そのやり方が色々出来るようになってきたっていう感じなんです。交代地のプロジェクトをやって、そこで声として現れた『二重のまち』が一番凄いっていう感覚は特になくて、一つのプロジェクトのなかで『二重のまち』っていう物語が機能したっていう意味では凄く良かったなと思うし、旅人4人の声が聞けたことも良かった、4人を介して高田の人が新たに語ることがあったっていうことも凄く良かったなって思います。でも、それが特別というよりは、陸前高田にいると日々色々なことが起きるんです。例えばこの前、阿部さんと一緒に嵩上げ地を散歩してたら、阿部さんは色々アンテナを張ってる人だから、「ここからこう見ると前の街の跡があるんだよ」とか、色々教えてくれるんですよね。その中で、ここの嵩上げの際に立つと線路跡が見える、この線路跡の行く先に『二重のまち」があるって思うんだよね、みたいな話をしてくれたりすると、そういう風に阿部さんの体の中に『二重のまち』が身体化されてるという実感があったり、あるいは、広島とか神戸の阪神(阪神淡路大震災)の支援してる人が『二重のまち』を凄く丁寧に考えてくれて、時々お手紙くれたり、色々な反応があって、そういう中の一つとして、とても良い現場だったっていう感覚ですね。映画としても凄くいい作品が出来たと思うけど、これを観た人達がこの物語の断片でも血肉化していくっていうことへの期待の方が全然大きいので、その入り口として、いい作品が出来たから良かったなっていう感覚です。
OIT:このプロジェクトは一旦映画と言う形になりましたけれども、継続的に何か別のことをやったりしてるんですか?
瀬尾夏美:高田でやっていることの続きとしては、それこそ『二重のまち/交代地のうたを編む』で旅人達が話を聞いてきた人達、高田の人達が自ら手記を書いてもらって、彼ら自身がそれを読む、その姿と今の街を撮影して、短い映像作品『10年目の手記』を今まさに展覧会向けに作ってるんです。今まで高田の人達、いわゆる被災地域の人達は、話を聞かれて書かれるっていう体験をずっとしていて、少なからず描かれる自分というものを意識して色々調整して語ったりすることの多い10年だったと思うんですね、それを私達もある意味で強化しているところもあるし、私達の切り取り方で描いてきたということがある。でも、そうではなくて、じゃあいま自分達が本当に今書き残したいことは一体なんだったかっていうのを話し合いながら手記にしてもらっていて、その手記を自分で声にしてるところを撮っています。短くて小さな作品にはなると思うんですけど。でも一緒にやれた人達とは、よりしっかりやりとりができるように なれたから、それも良かったなって思ってます。
OIT:いいですね、作品のために何かをやるっていうスタンスではなくて、旅人の一人も言ってましたけど、その人の存在を全く傷つけることなく伝えたいと、映画の中ではなかなか難しいことだと思いますけど、それをやり続けているっていうのが素晴らしいです。
瀬尾夏美:ありがとうございます。
小森はるか:カメラも一緒に居させてもらえる時間っていうのは本当に代え難いものっていうか、こちらが想定したことがそれ以上の転がり方をしていくということが起きるんですね。ただ、それを映像作品にしたり、展覧会でもいいんですけど、表現に落とし込むっていうのもまた全然違う難しさがあるなって、実際の現場が良すぎても形が見えてこなかったり、『二重のまち/交代地のうたを編む』もそこが一番悩ましかったんですけど、それをどこで誰に届けるのかっていうのは、なかなか一筋縄にはいかないっていうのを感じて。また自分にかえって作業して、これからも向き合っていくことかなと思っています。
OIT:それぞれの活動はやりながら、このユニットは基本的には続いていくんですか?
瀬尾夏美:そうですね、高田のプロジェクトは基本的には一緒にやっていますし、今は東京のプロジェクトも一緒にやっていて、最近は二人宛にいただく仕事もあったりするから。
OIT:『二重のまち』は新たに書籍で出るようですね。
瀬尾夏美:出ますね。
OIT:オリジナル版の『二重のまち』よりもボリュームがあると。
瀬尾夏美:ちゃんとした厚みの本になります、絵がいっぱい入ります。
OIT:『二重のまち』のバージョン違いということですか?
瀬尾夏美:前半分の『二重のまち』の物語は基本的に変わってないんですけど、絵画がたくさん挟まっています。あと、交代地のプロジェクトの中で旅人達が聞いてきた話を更に聞いた話を物語化した短い小説のようなものが8本入っています。さらにその前後で書いていたツイートを再編集したものが合わさって一冊になるという。絶賛作業中です。
OIT:2月に出るという告知を見かけましたが。
瀬尾夏美:かなり急ピッチですが、必ずいいものにしますのでよろしくお願いします!(笑)。

書籍『二重のまち/交代地のうた』
絵・文 瀬尾夏美
書肆侃侃房より2月下旬刊行
四六判、並製、256ページ
定価:本体1,800円+税
ISBN978-4-86385-449-9 C0095
http://www.kankanbou.com/books/essay/0449

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