ダンテの「神曲」や「アーサー王伝説」、ギリシア神話など、古典文学における＜詩神／ミューズ＞を論じることで、現代における＜ミューズ＞の復権を唱え、授業に参加する女性たちに、世の男性たちを啓発する＜ミューズ＞たれとレクチャーをするピント教授の教育的体験＜ミューズ・アカデミー＞は、女性たちからは、「それは単なる性欲の話では？」「女性に責任を押しつける気？」「私に、あなた（男）を変えろと言うの？」と辛辣な反撃に合い、妻からは「恋愛は文学が捏造したもの。女性は、その捏造によって現在も苦しめられている」と真っ向からアイディアを否定される。撮影はホセ・ルイス・ゲリン監督自らが務め、録音は女性スタッフ一名が担うという、ミニマムな体制で創られた本作は、その”持たざる”故の軽やかさと出演した女性たちの想像以上の“ミューズ”ぶりで、映画は、監督の想定を超えて思いもよらぬ方向へと運ばれていく。混迷の色を深める現代においても、一歩一歩力強く歩を進めたい2017年、新年の門出を飾るに相応しい、驚きに満ちた映画が『ミューズ・アカデミー』だ。


併せて同時開催されるゲリン監督の特集上映「ミューズとゲリン」では、前回の「ホセ・ルイス・ゲリン映画祭」で上映されなかった近年の短編作品も上映される。スクリーンに映し出される映像を見つめ、解き放たれる音に耳を傾ける、その関係性の中から“映画”としか呼びようのない像が立ち上がり、見るものを刺激する。ホセ・ルイス・ゲリンの映画は、私たちにとっての“ミューズ“、そのものだ。約５年振りの再会を果たしたゲリン監督のインタヴューは、スペイン大使館の午前の強い陽射しが差し込む、白い壁と一面の蔵書が印象的な一室で行われた。

1. 撮影と編集の中で脚本が出来上がっていく	1  |  2  |  3

OUTSIDE IN TOKYO（以降OIT）：この映画は、ドキュメンタリーの様相を呈しながら、どんどんフィクションの世界に入っていきますね。脚本は存在したのですか？ ホセ・ルイス・ゲリン：もともと脚本はなかったです。でもそれは脚本がないということではなくて、撮影と編集の中で脚本が出来上がっていく。ずっと撮影をしていたわけではなくて、何ヶ月もかけて撮影をしては編集をして、撮影をしては編集をした。撮影する日と編集する日を交互にもうけたんです。シーンを編集する時に、みんなで撮ったものを観ながら、ここからどういう方向にいくかっていうことを意識的に考えて次の撮影に向かったのです。その中でこのテイクはここから発展していくはずだとか、こういくはずだっていうような予測をしながら、撮影に臨んでいく感じでした。 OIT：構成は考えていたんですか？ ホセ・ルイス・ゲリン：ですから、その撮ったものを編集しながら構成も考えていったという感じですね。それは構成の力というよりは、どういう風に組み合わせるかっていうこと自体が、映画だと思うんです。例えばサルデーニャ島に行く時ですけれども、一人の女性がサルデーニャに行きたいと熱狂的に語ったので、行くことにしたんです。その後、また別の女性が一人でナポリに行くわけですが、必然的に彼女にも旅をさせなければならないだろうと思ったわけです。一つ目のサルデーニャは楽園を探しに行くわけですね、羊飼いの歌という詩と共に。ナポリの旅は地獄探しなんです。洞窟もそうですし、要するに地下へ向かう、地獄へ向かう、その対比を出すために二つの旅に行ったわけです。 ↑

『ミューズ・アカデミー』 原題：La Academia de las Musas 2017年1月7日より29日まで、東京都写真美術館ホールにて公開後、全国順次公開 監督・脚本・撮影・編集：ホセ・ルイス・ゲリン 音響：アマンダ・ヴィヤヴィエーハ 音響デザイン：マリソル・ニエヴァス 出演：ラファエレ・ピント、エマヌエラ・フォルゲッタ、ロサ・デロール・ムンス、ミレイア・イニエスタ、パトリシア・ヒル、カロリーナ・ヤチェル 2015年／スペイン／96分／カラー／デジタル／スペイン語・イタリア語・カタルーニャ語 配給：コピアポ・フィルム 提供：マーメイドフィルム 『ミューズ・アカデミー』 同時開催「ミューズとゲリン」 オフィシャルサイト http://mermaidfilms.co.jp/muse/ 『シルヴィアのいる街で』インタヴュー（2007年） http://www.outsideintokyo.jp/j/inte rview/joseluisguerin/index.html 「ホセ・ルイス・ゲリン祭」インタヴュー（2012年） http://www.outsideintokyo.jp/j/inte rview/joseluisguerin/index2.html

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