OUTSIDE IN TOKYO
JOSE LUIS GUERIN INTERVIEW

以前につきあっていた女性の影を追う男の視点で語られる『シルビアのいる街で』(07)がきっかけで知ったホセ・ルイス・ゲリンというバルセロナ出身の監督は、女性を映し出す映像的な美しさを入口に、ストラスブールの街を映す長回しの映像、つきあった(はずの)女の顔を求めてスケッチして回る男の、ゆっくりと立ち上がる狂気や奇妙なブレ、ヒッチコックの『めまい』(58)やブレッソン的な音響への拘りといったふんだんな映画的レファレンスなど、知れば知るほど監督の世界に引き込まれていくタイプの人だ。一見シンプルで飾り気のない映像の奥に深い世界が存在していることは、そのあとに見た他の作品で知ることになり、映画好きであればあるほどのめり込んでいく。そんな監督の過去の作品がまとめて上映される「ホセ・ルイス・ゲリン映画祭」が現在渋谷のシアターイメージ・フォーラムで開催されている。ロメール女優のアリエル・ドンバールが登場するなど映画心をくすぐる、幻の処女作『ベルタのモチーフ』(83)は、人里離れたスペインの田舎に暮らす無口な少女ベルタと近所の子供、うねるような丘陵に残る廃車や秘密基地と、療養のために移り済んできた三角帽のミステリアスな男、異質な映画撮影隊など、映画的な文脈が詰まった物語だ。そして、ジョン・フォードの『静かなる男』(52)の舞台となったアイルランドの地を訪ね、その場所に映画を幻視する『イニスフリー』(90)、アマチュアカメラマンの劣化した家族フィルムから、フィルムに残存する記憶を辿った『影の列車』(97)など、滅多に観る機会のなかった作品群が並ぶ。また自ら教鞭をとるドキュメンタリー映画学校の学生と娼婦やその日暮らしの人たちが暮らしていたバルセロナの歴史地区の再開発の様子を1年に亘って撮影した『工事中』(01)、人気を博した『シルビアのいる街で』の習作ノートのように写真で構成され、クリス・マルケルの『ラ・ジュテ』(62)を想わせる『シルビアのいる街の写真』(07)、そして『シルビアのいる街で』で各国の映画祭を回った際に撮った手持ちのビデオ映像を再構成した魔術的なドキュメンタリー『ゲスト』(10)、前衛映画の先駆者、ジョナス・メカスとの映像書簡であり、映像詩を送り合うような『メカス×ゲリン 往復書簡』(11)など、寡作な映画作家の足跡を辿る最高の機会となっている。その上、あまり語りたがらない作家が自らの映画について解説するトークショーも実現し、連日多くの観客が劇場に詰めかけたことも記憶に新しい。そんな中、ゲリン監督本人に話を聞く時間を得て、前回の来日で語った『シルビアのいる街で』は横におき、彼が大事にしているという映画における音響と映像の関係性などについて聞いてみた。
(江口研一、上原輝樹)

1. 『影の列車』は、ぜひスクリーンで観てほしい映画です

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):自分の作品がDVDで観られることについてはどう思いますか?
ホセ・ルイス・ゲリン(以降JLG):作品によって、DVDで観てもらっていいものと、そうでないものがあると思います。『シルビアのいる街の写真』はほとんど本を読むのと変わらない形だと思うので、個人的にDVDで観てもよく分かってもらえると思います。ですが、『影の列車』などは音に色々と手を加えていたりするので、DVDだとちょっとむずかしいかなとは思います。

OIT:比較的こういう上映機会が少なく、DVD以外で観ることがむずかしい映画も多くなっていますね。
JLG:それは分かります。どんどん増えていますし、私は今でもシネマテークに行きますが、それでもやはりそこで観るよりもDVDで観ることが多くなっています。溝口(健二)監督の映画も(今ではほとんど)DVDでしか観られないのですから。

OIT:(そうは言っても)『影の列車』が(あなたの口から)挙がった流れで聞きますが、音響的な意味でも『影の列車』は一番重要な映画だったりするのでしょうか。
JLG:そうですね。『影の列車』の場合、(1930年のある朝、姿を消した)アマチュア映画のカメラマンが撮った家族のフィルムを発掘していく話ですが、あそこで聴こえるのはほとんど人の言葉ではなく、ピアノの音、あとは映写機が回る音だけなのです。そこはモノ(ラル)で録音しています。でも最後に、3Dというか、3方向から聴こえるステレオとリレーで、聴こえてくる音をあとからどんどんつけているのです。だからモノ(ラル)から変わるところを認識するのはDVDではちょっと無理かなと思いますね。それにその中で使われる古いフィルムは、本当にフィルムというか、セルロイド・フィルムです。だからそれを写し出している以上、物理的にもあれをDVDで観て同じような感覚を得るのはなかなかむずかしいと思うので、ぜひスクリーンで観てほしい映画だと思います。


ホセ・ルイス・ゲリン映画祭

『シルビアのいる街で』
 インタヴュー
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