OUTSIDE IN TOKYO
Ildiko Enyedi INTERVIEW

イルディコー・エニェディ『心と体と』インタヴュー

5. ウォン・カーウァイは、駅のマジックアワーのシーンを
 どのように撮影したのか知りたがりました

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OIT:足元の演出ということで言えば、映画冒頭のシーンで、マーリアが勤め先の屋外に立っていて、そこは日向と日陰の境目があるところなのですが、足先が日向に出ていることに気付いたマーリアは足を日陰に引っ込めます。あるいはまた、室内では彼女はサンダルを履いていて、それを脱ぐ時に、とてもキチンと並べて脱ぐのですね。彼女の性格を表すとても的確な演出だと思いました。
イルディコー・エニェディ:そうですね。その日向と日陰のシーンに関してはお話したいエピソードがひとつあります。私たちはとても小さな一角で撮影していたのですが、あのシーンを撮るには、まず晴れてくれなければ、そもそも日陰が出来ないので撮れないわけですが、その上で、11時20分から11時40分の間にしかあの日向と日陰が作られないことが分っていました。ですから、私たちは、まず晴れる日を待って、その上で10時30分にはあの場所で全ての準備を整えて撮影に臨まなくてはなりませんでした。あのシーンは、とりわけ、エンドレが初めてマーリアを見つけるという場面でしたから、そうしたジェスチャーを通じて、マーリアがどういう人間であるかをエンドレが感じ取り、好奇心を抱かせる必要がありましたので、とりわけ重要でした。この映画では、そのようにしてマーリアの人物像を一歩一歩創り上げていきました。
ところで、先程の二人が市電を待っている駅のマジックアワーのシーンの話に戻りたいのですが、その場面について言及して頂いたのはとても興味深いことです。なぜなら、ベネチア国際映画祭でウォン・カーウァイと話す機会があったのですが、彼は、この映画のことをとても気に入ってくれていて、中でもこのシーンを一体どうやって撮影したのかと聞いてきたからです。私たちは、このシーンを2つの方向から撮影したのですが、15分しかないマジックアワーの時間内で撮影をしなければなりませんでした。そこで、彼は、それを2日間に分けて撮影をしたのか、あるいは、CGで作ったのかを知りたがりました(笑)。実際、私たちは15分の間に大急ぎで駆けずり回って撮影をしたのです(笑)。面白かったのは、私は、ウォン・カーウァイの作品が大・大・大好きなのですが、私が今回の作品を撮るにあたって、唯一、撮影監督のヘルバイに、映像の参考としてではなく、私たちの映画が達成しなければならない“感覚”の参考として見てほしいと言って、彼に見せたのが『花様年華』(00)だったのです。映像の表面では何も起きていないのですが、その中では様々な感情が渦巻いている、それが私の求めているものでした。



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