OUTSIDE IN TOKYO
RYUSUKE HAMAGUCHI INTERVIEW

濱口竜介『寝ても覚めても』インタヴュー

6. この映画固有の構造、その精度を上げるために、
 複数人の意見は非常に重要だったという気はしています

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OIT:こうしてお話伺っていると、割と周囲の意見を柔軟に取り入れるタイプですか?
濱口竜介:ええ。特に今回は、現場に深く関わったプロデューサーの方たちがそれぞれキャラクターが分かれていて。山本(晃久)さんっていう人は僕と同年代で本当に「濱口さん行きましょう!やりましょう!」みたいな感じの人です。今回の企画は、山本さんが僕の映画、過去作を好きでいてくれたのでそもそも始まったっていうのがありました。久保田(修)さんっていう人は、商業映画一線で『NANA』(05)とか『のぼうの城』(12)とかを手掛けたり、爆発的なヒット作を幾つも出してるような人で、ビターズ・エンドの定井(勇二)さんは、それをさらに外から「おやりなさい」みたいな感じで見てるっていう感じだったんですけど、そのバランスがとても良かったですね。特に「商業映画」という側面から見たとき久保田さんのジャッジは非常にクリアに感じられたので、久保田さんからそれはちょっと商業映画としてはいかんと、伝わらないという意見をいただいて腑に落ちたら取り入れる、ということをしてました。
OIT:それは観客目線ということですか?
濱口竜介:まあ、そうですね。共感できるかできないかっていうことはもちろん一つのラインとしてあります。でも作品全体で共感をさせなきゃいけないということではなかったです。最終的に共感を逸脱していくような話であることは企画が始まった時点でわかりきっていることなので、それを最後までお客さんに観てもらうためにはどうするかっていうことだったと思います。
OIT:濱口さんは、今まではあんまりそういうことは考えなかった?
濱口竜介:いや、僕は観客との関係はむしろ考えてきたつもりだったので、そんなに違和感はなくて、それをもうちょっと今まで自分の考えにはなかったようなことも含めてやってみるっていう感じでしたかね。
OIT:じゃあ今回のプロジェクトというか、チーム編成というのは、今までにない形ですごく刺激にもなったという感じですか?
濱口竜介:そうですね、本当にたくさんの人が顔突き合わせて脚本作るっていうのはいいものだなと思いましたね。脚本に二年ぐらいかかってるんですけど、それはやっぱり一番この映画では大きい部分かなと。それはいわゆるよく出来ている脚本ということともちょっと違って。映画が様変わりしていくあるポイントまでに何人離さずにおけるのかという。そこまでにきちんと理解してついてきてくれてる人がいれば、更にその半分くらいは最後まで感情的にもついてきてくれるはずという考えで、それはこの映画固有の構造だったと思うんですけど、その構造の精度を上げることを目指したという感じでしょうか。その精度を上げるために、複数人の意見は非常に重要だったという気はしています。
OIT:僕は観ていて、朝子が流されていくというか、自主的に走っていくのか、もはやどちらなのか分からないんですけど、これはカサヴェテスの『ラブ・ストリームス』(84)のような“流れ”であって、それは本人の意思なのかもしれないけど、意思じゃないのかもしれないぐらいの勢いでずっと走り抜けてく感じがこの映画の印象としてあって、それがヒロインだというのがとても良かったと思うんですね。もちろん、今までの濱口さんの作品からみれば驚くことではなくて、自然とこの映画に発展してきたのかなという風にも思うのですが。この作品であるとか、小森はるかさんの『息の跡』(15)であるとか、去年の黒沢清監督の『散歩する侵略者』(17)であるとか、この辺の映画を観ていると、必ずしも日本映画って限定する必要ないんですけど、日本映画の新しい時代のようなものが、これは3.11以降っていうことだと思うんですが、フィクション、ドキュメンタリーの分け隔てなく、想像力の中に新しい力が生まれてきてるような感覚を覚えるんですけど、濱口さん的にはそういうことを考えたりしますか?
濱口竜介:それは本当に、申し訳ないですけど周りの方がおっしゃることであって、震災を経て自分の作り方が変わったというよりは、あくまでドキュメンタリーを経て変わったっていうのが自分の実感です。ドキュメンタリーを通じてカメラの前に立ってくれる人の魅力みたいなのを発見したっていうところがすごく大きかったので。確かにそれは震災ドキュメンタリーではあるのですけど、「震災」と自分の方法の変化とをそこまで紐づけて自分としては考えません。とはいえ、震災体験は何か、大きなきっかけにはなっているのかもしれないですよね。

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