OUTSIDE IN TOKYO
RYUSUKE HAMAGUCHI INTERVIEW

濱口竜介『寝ても覚めても』インタヴュー

3. スローモーションで撮ってはみたものの、
 恥ずかしいな、やっぱりって思って(笑)

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OIT:具体的に今回の『寝ても覚めても』について聞いていきたいんですが、冒頭の爆竹のシーンでtofubeatsの音楽が流れます、あの場面を最初観た時、瀬田なつきさんの『あとのまつり』(08)をちょっと思い出したんです。後で調べたら、『あとのまつり』もカメラマンが、本作と同じ、佐々木靖之さんなんですね。たまたまでしょうか?
濱口竜介:たまたまっていうか、瀬田さんも僕も佐々木さんも東京藝大の映像研究科というところで同じ学年なので、まあ、たまたまと言えばたまたまですけど、可能性は高いたまたまです。
OIT:それが頭に過ぎるようなことはなかったですか?
濱口竜介:今、言われるまで忘れてましたね。『あとのまつり』では僕、一日くらい現場に行ったりしているし、『あとのまつり』はとても好きな映画なんですけど、そこはあまり思い出さなかったと思います。ただ、瀬田さんって、結構シネフィルというか――シネフィルって呼ばれること自体、彼女が喜ぶか分かりませんが――まあ非常に映画を観てる人だと思うんですけど、自覚的にすごくポップなことをやろうとしていたっていうのが東京藝大の修了制作ぐらいからの印象で、その感覚には近いのかもしれません。商業映画っていうことで普段やらないこともやってみようかなって感覚は、その時の瀬田さんの“開いていこう”っていう感じとすごく近いのかもしれません。
OIT:あそこであの音楽を入れようっていうのは編集の段階で決めたんですか?
濱口竜介:そうですね、スローモーションで撮ってはみたものの、恥ずかしいな、やっぱりって思って(笑)。むしろ一瞬で済んだ方がずっとすっきりして、恥ずかしくもないし、いいかなって思ってたんですけど。でも、tofubeatsさんの劇伴楽曲を最初にいただいた段階では、もともと思っていたようなところになかなかはめられなかった。それはtofubeatsさんとのやり取りの中でやがて解消されていくんですけど、最初に上がってきた時、このままだと意味が固定されてしまうというか、感情的なニュアンスが固定されてしまうなっていう楽曲が多かったんです。もう結構時間がないっていう状況もあって、このいただいた楽曲の中でどういう組み合わせだったら使えるかっていうはめかえ作業をけっこうやって、その時、結果的に劇伴のテーマ曲的になった四つ打ちのやつをスローモーションで入れたらはまるのではないか、楽曲も立ってくるんじゃないだろうかと思ったんです。その楽曲が一個立ってくると、その後tofubeatsさんと楽曲を作る作業の一つの柱になるなということもあったので、冒頭の場面で使ってみたところ、編集の山崎(梓)さんとか、その時一緒に観ていたアシスタントプロデューサーの子とかに非常に評判が良かったので、これいいんじゃない?っていう話になって、じゃあやるかっていう話でやることになったというのが音楽を入れた経緯なんです。
OIT:tofubeatsさんのインタヴューを読んだら、最初ダメ出しが多くて途中からアンビエントな感じでっていうアドバイスがあり、そこから固まっていったみたいな話でしたが、濱口さんご自身も音楽を昔やられてたんですよね?
濱口竜介:やってたというのは恥ずかしいぐらいの感じです。音楽に関しては、これも映画と同じで、世の中にはこんな色々な種類の音楽があるのかっていうのを友人たちとの付き合いの中で知っていくっていう感じだったと思います。
OIT:自分でマニアックに掘っていくっていうタイプではなくて?
濱口竜介:大学時代はある程度見栄もあって色々と聞きましたけど、映画以上に音楽っていうのは人と張り合うと本当に大変だっていうのがあったので、どこかで撤退しないといけないっていう感じでしたね。大学を出てからは、音楽はもう新しいものを漁るっていうことはあんまりしてないです。
OIT:『寝ても覚めても』の具体的なシーンについてお話をきかせてください。作品は、2回拝見させて頂いたんですが、最初観た時に、例のチェーホフのシーンにものすごく違和感というか、異物感を感じて、最後まであのシーンが複雑な味わいとして残ったんです。ところが、2回目に拝見した時、あの場面に非常に感動してしまい、2回観て、この映画の本当の素晴らしさをやっと感じ取ることが出来たという感じでした。それで、後で気になって、『月刊シナリオ』に掲載されているシナリオを読んでみたのですが、このシーンはほとんど脚本通りなんですね。実際そうなのでしょうか?
濱口竜介:実際そうですね。田中幸子さんと僕の共同脚本ですけれども、その場面は、僕の方でそれなりに手を加えています。田中さんが基本的にこのシナリオの構造をほぼ作っていて、このような流れになるっていうことを作っています。僕の中で一番直したいなと思っていたのは台詞で、これは自分が演出をする上でもうちょっと自分がツールとして使いやすい台詞に直したいっていう感じがあったので、そこは田中幸子さんに了解をとって、台詞とあと自分がどうしても気になっている“流れ”を直させてもらってます。

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