<キノトライブ2014>
『映画はどこにある―インディペンデント映画の新しい波』刊行記念企画



日本のインディペンデント映画の現在を取材した『映画はどこにある―インディペンデント映画の新しい波』(フィルムアート社)の刊行記念企画として、インディペンデント映画祭<キノトライブ2014>が開催される。日本インディペンデント映画の金字塔、空族の『サウダーヂ』と三宅唱の『Playback』、そして濱口竜介と柴田剛のほぼ新作、さらには加藤直輝と真利子哲也のピカピカの新作が、一同に会して上映される。個々の名は、既にその界隈では知られているが、彼らの作品が同時に上映される機会は未だかつてなかったのではないか。そもそも、ここに会している顔ぶれは全く一様ではない。商業映画へ進む前段階として"インディペンド映画"を捉えているものもいるだろうし、"インディペンド"で撮り続けること自体に自由を見出しているものもいるだろう。大島渚はかつて、「高いところへ行こうとする者もいるが、自分は最前線でやり続けた」、その"最前線"とは「弾がバンバン飛んでくる」ところのことだと語った。しかし、21世紀の日本に、もはやそのように明白な"最前線"は存在しない。大島渚の逝去とともにそうした"最前線"も消え去り、今ここには、それぞれの"最前線"があるだけだ。ある者は自らの"最前線"を求めてアジアの奥深く潜行し、ある者は津波の被害に遭った東北へ足を運ぶ、またある者は「喧嘩の神髄」を求めた地でアイドル志望の女子たちの姿に自らの"最前線"を発見する。そうしたそれぞれの"最前線"が、スクリーン越しに繋がることで見えてくる、新しい風景があるのかもしれない。
(上原輝樹)
2014.1.23 update
2014年1月25日(土)~31日(金)
会場:オーディトリウム渋谷 
料金:当日一般1,200円 大学高校専門1,100円
当日・前売り3回券3,000円 

1月25日(土)オールナイト料金
前売り2000円 当日2500円
各回自由席入替制 

イベントの詳細はこちら 

上映スケジュールはこちら 

公式サイト:http://kino-tribe2014.jimdo.com
上映プログラム

『サウダーヂ』
2011年/35㎜/167分/日本
監督:富田克也/脚本:相澤虎之助、富田克也/撮影:高野貴子/録音・音響効果:山﨑厳/助監督:河上健太郎/編集:富田克也、高野貴子/制作:空族
出演:鷹野毅、伊藤仁、田我流(from stillichimiya)、ディーチャイ・パウイーナ、尾﨑愛、工藤千枝、デニス・オリヴェイラ・デ・ハマツ、イエダ・デ・アルメイダ・ハマツ、野口雄介、川瀬陽太 

不況と空洞化が叫ばれて久しい地方都市。"中心"街。シャッター通り、ゴーストタウン。それがアジアNO1の経済大国と呼ばれた日本の地方都市の現状である。しかし街から人がいなくなったわけではない。崩壊寸前の土木建築業、日系ブラジル人、タイ人をはじめとするアジア人、移民労働者たち。そこには過酷な状況のもとで懸命に生きている剥き出しの"生"の姿があった。
2011年秋の公開より現在までロングランを続ける、日本映画の常識を凌駕し、日本におけるインディペンデント映画の集大成でありエポックメイキング!
『Playback』
2012年/35㎜/1.85/B&W/Dolby SR/日本/113分
脚本・編集・監督:三宅唱/企画・プロデュース:佐伯真吾、松井宏、三宅唱/ラインプロデューサー:城内政芳/撮影:四宮秀俊/照明:秋山恵二郎、玉川直人/録音:川井崇満/助監督/整音:新垣一平/制作主任:伊達真人/メイク:南梨絵子/衣裳:影山祐子
制作・配給:PIGDOM/製作:DECADE inc.
出演:村上淳、渋川清彦、三浦誠己、河井青葉、山本浩司、テイ龍進、汐見ゆかり、小林ユウキチ、渡辺真起子、菅田俊、柴田貴哉、片方一予 

仕事の行き詰まりや妻との別居など、40歳を手前に人生の分岐点に立たされた映画俳優ハジ。だがすべてが彼にとっては、まるで他人事のようだ。彼をよく知る映画プロデューサーは再起のチャンスを与えようとするが、まともに取り合おうともしない。そんなハジが旧友に誘われ、久しぶりに故郷を訪れる道中、ある出来事が起こる。居眠りをして目覚めると、なんと大人の姿のまま制服を着て、高校時代に戻っているのだった......。現在と過去が交錯し、反復されるその世界で、果たしてハジは再び自分の人生を取り戻せるのだろうか。2012年ロカルノ国際映画祭のコンペに正式出品され、同年全国各地で劇場公開され大きな反響を呼んだ。
『ひかりのおと』
2011年/カラー/16:9/HDV/ステレオ/89分/日本
脚本・監督:山崎樹一郎/プロデューサー:桑原広考、加納一穂、岡本隆/撮影:俵謙太/照明:大和久健/録音:近藤崇生(丹下音響)、大森博之/音楽:増岡彩子/監督補:木村文洋/演出助手:兼沢晋、進巧一/照明助手:吉川慎太郎、蟻正恭子/製作協力:シネマニワ/製作・配給:陽光プロジェクト
出演:藤久善友、森衣里、真砂豪、佐藤豊行、中本良子、佐藤順子、辻 総一郎、坂本光一、大倉朝恵、浅雄涼、大塚雅史 

岡山県北、山深きところ。代々酪農を営む狩谷家の長男・雄介は音楽を志し東京で暮らしていたが、父の怪我をきっかけに家業を手伝うため故郷に戻った。しかし消えぬ音楽への思いや酪農の現状、恋人との行き違いから、この土地を引き継ぎ、酪農家として生きていくのか迷いを抱えていた。恋人・陽子には若くして逝った夏生との間に幼い息子がいた。夏生の「家」にとってはその子が唯一の跡継ぎであるため、陽子が息子とともに暮らすには今の生活を続けるしかなかった。初日の出を見る事が慣わしである狩谷家。妹も帰省し、いつもと変らぬ年明けを迎えようとしていたある日、雄介がかつて酪農の手解きを受けた叔父・義行の牛舎で火災がおこる。雄介の中で何かが静かに変わり始める......。 土地独特の人間模様、将来見えぬ不安、見つめ直される家族のあり方。都市から遠く離れ、岡山県真庭市の深い山なかで農業をつづける映画作家・山崎樹一郎が酪農家青年の葛藤と未来へのささやかな希望を「土地からの視点」で描いた長編初監督作品。
『不気味なものの肌に触れる』
2013年/HD/カラー/54分/日本
監督:濱口竜介/プロデューサー:北原豪、岡本英之、濱口竜介/脚本:高橋知由/撮影:佐々木靖之/音響:黄永昌/音楽:長嶌寛幸/助監督:野原位/制作:城内政芳/振付:砂連尾理/製作:LOAD SHOW, fictive
出演:染谷将太、渋川清彦、石田法嗣、瀬戸夏実、村上淳、河井青葉、水越朝弓 

構想段階にある長編『FLOODS』に向けての壮大なる予告編、というにはあまりにも才気と魅力に満ちた傑作中編。千尋(染谷将太)は父を亡くして、腹違いの兄・斗吾(渋川清彦)が彼を引き取る。斗吾と彼の恋人・里美(瀬戸夏実)は千尋を暖かく迎えるが、千尋の孤独は消せない。千尋が夢中になるのは、同い年の直也(石田法嗣)とのダンスだ。しかし、無心に踊る彼らの街ではやがて不穏なできごとが起こり始める...。
『トーキョービッチ,アイラブユー』
2013年/HD/カラー/70分/日本
監督:吉田光希/撮影:志田貴之/照明:中西克之/録音・整音:上條慎太郎/メイク・スチール:Masayo/助監督:福嶋 賢治/制作担当:清水裕/音楽:モグモス/製作:ARC vision、吉田光希
出演:八椛裕、武本健嗣、小嶋喜生、影山祐子、伊藤公一 

風俗嬢の初江は、客として知り合った義徳と不倫の関係を続けている。妻との生活に息苦しさを感じていた義徳は、初江との密会に安らぎを感じていた。一方、他者と深く関わろうとしない初江も、義徳と過ごす時間だけは女性らしくいられるのだった。ある日、義徳は会社の同僚に頼まれて、借金の連帯保証を引き受けるが、それが発端となり、初江との関係は妻の知るところとなる......。
近松門左衛門の「曽根崎心中」を現代の東京に翻案した同名舞台(「オーストラ・マコンドー」によって上演)の映画化。これまでの監督作とは異なる新たな領域に挑戦した吉田光希は、この大都市の片隅で展開される刹那的なメロドラマにおいて、その着実な演出力を証明した。2013年の東京フィルメックスにおいて、アジア映画の将来において活躍が期待される監督に贈られる「スペシャル・メンション」を受賞。
『ふかくこの性を愛すべし』
2012年/HD/カラー/44分/日本
監督・脚本:吉田光希/脚本:斎藤香織/撮影:志田貴之/照明:中西克之/録音:根本飛鳥/整音:加藤大和/装飾:大和昌樹/キャスティングプロデューサー:戸田幸延
出演:正木佐和、栁俊太郎、内田慈、間宮祥太朗、岸田タツヤ、よしのまり、美輪玲華、鈴木絵未里、勝呂宙香、平山悟士、武井哲郎、村上ユキヒコ、大橋美香、菊池奈緒、大西信満 

薬剤師として働く和代(正木佐和)は、35年間、堅実に静かに暮らしてきた。何かに感情や肉体を突き動かされることは決して無く、繰り返される毎日を淡々と過ごしていた。そんな和代の前にある日、高校生の少年・遼(栁俊太郎)が暴力的に現われる。それは和代にとって忘我の瞬間であった。出会わなければよかった、なんて決して思わない。狂おしく、誰かのことを想って止まない日々があるなんて知らなかった......。オムニバス企画『ヴァージン』の1本として制作され、最も高い評価を得た本作をスピンオフ特別上映!
『Dressing UP』
2012年/HD/カラー/70分/日本
監督・脚本・編集:安川有果/撮影:四宮秀俊/照明:大嶋龍輔/録音・整音・音楽:松野泉/美術:塩川節子/衣装:金井塚悠香/メイク:北川恵里/特殊メイク:仲谷進(KID'S COMPANY)/制作統括:濱本敏治/制作:横田蕗子、草野なつか/助監督:福田良夫、清水艶
出演:祷キララ、鈴木卓爾、佐藤歌恋、渡辺朋弥、平原夕馨、デカルコ・マリィ 

桜井育美は父親と二人暮らしの中学一年生。授業で「将来の夢」について考えるという課題が出るが、自分の未来を想像することが出来ない。「母親のような立派な人になりたい」というクラスメイトの発言を聞いた育美は、死んだ母親がどういう人だったのか興味を持ち始めるが、ある日、隠されていた母親の過去を知ってしまう。
CO2(シネアストオーガニゼーション大阪)の1本として制作、2013年劇場公開され、同年第14回TAMA NEW WAVEで見事グランプリを受賞した。
『アナタの白子に戻り鰹』
2013年/HD/カラー/50分/日本
監督・脚本・編集:今井真/撮影:岩永洋/録音:茂木祐介/美術:金子陽介/助監督:細川充由、佐藤亮/撮影助手:米山舞/制作:内田沙季、倉田雄一朗/スチール:天津優貴/劇中歌・主題歌:漁港/音楽:福田裕彦
出演:森田釣竿、柳英里紗、川瀬陽太、深海光一、阿久沢麗加 

密漁者に重傷を負わせた罪で服役していた勝男(森田釣竿)が、浦安魚市場に帰ってきた。勝男の帰郷に、魚市場からは悲喜こもごもの野次、祝福が飛び交う。そんな中、勝男の帰郷を心待ちにしていた怪しい男が泉銀に現れ...。さらには妹のあさり(柳英里紗)が魚屋をやめたいと言い出し、事態は思わぬ方向へと転じていく。
MOOSIC LAB2013にて上映され、圧倒的観客支持を集める。日本映画界に突如として現れた本格派〈漁港〉人情喜劇!
『アンソニーの安息』
2011年/DV/カラー/50分/日本
監督・脚本・撮影・編集:今井真/録音:浦原真一
出演:矢野深雪、佐藤亮、阿久沢麗加 

父を亡くし孤独の深淵にいた女、花子。花子から金を巻き上げる自称映画監督の彼氏、浩二。浩二を翻弄する初恋の女、エリカ。あの誘惑の先に見えるモノ、見えないコト。
『アナタの白子に戻り鰹』で注目を浴びた今井真の映画学校時代の作品を、多数のリクエストに応え1回限りの特別上映を決行!
『ギ・あいうえおス ―ずばぬけたかえうた―』
2010年/HD/56分/日本
監督:柴田剛/原案:柴田剛、野口雄介、松永後彦/撮影:高木風太/録音・整音:森野順/美術:西村立志/編集:高倉雅昭/ラインプロデューサー:酒井力/企画プロデューサー:田中誠一/共同プロデューサー:志摩敏樹/エグゼクティブ・プロデューサー:越後谷卓司/企画:愛知芸術文化センター/制作:愛知県文化情報センター
出演:柴田剛、西村立志、森野順、野口雄介、酒井力、高木風太、田中誠一、西山朋宇

ギ・あいうえおスはバンドである。ギターやドラムなどの楽器は持たず、映画制作のツールを用いて音楽のように映画をつくる。それがギ・あいうえおスの活動である。いま、ギ・あいうえおスは最初の旅に出た。ロケ車でありバンドワゴンである「くじら号」に乗って、音を録り、画を撮り、行く先々の空間や人々と交わる。これは、エピソード0である。ギ・あいうえおスは、旅に出たばかりだ。世界を奏でるために......。
フランス パリのポンピドゥーセンターが主催する国際中編映画祭「Hors Pistes 2013」での上映をはじめ、世界での評価が高い本作。現代インディペンデントシーンを語るうえでも絶対に見逃せない1本。日本映画はいまだ真の奇才・柴田剛を発見できていない。
プレミア上映

『2045 carnival Folklore』
2013-14年/HD/パートカラー/ステレオ/16:9/93分/日本
監督・脚本:加藤直輝/原作・脚本・音楽:増田圭祐/撮影:定者如文/録音:黄永昌/編集:鈴木宏/制作:原尚子/製作:ENBUゼミナール、はらほろ/助成:ACY先駆的芸術活動支援事業
出演:石井順也、岡美咲、奥瀬繁、林亮佑、海老原恒和、大西冬馬、大村昌也、岡奈穂子、河添由夏子、小崎愛美理、土屋陽平、成瀬大樹、濱仲太、平岡祐介、矢野杏子、岡本英之、増田圭祐、Ryo HAMAMOTO、長嶌寛幸、T.MIKAWA 

『Sonic Road Movie YOKOHAMA!』としていくつものVer.を生みながら未だ完成してないあの映画が再編集を経てまたまた今回限りの特別上映。2045年のファーイースト。かつて日本と呼ばれた国は天災によってすべての原発がメルトダウンし、崩壊した。数年後、とあるシティが奇跡的な復興を遂げる。絶望した人々の集合的無意識が理想郷を実現したのだ。完璧に調和された社会。そこに外から密命を帯びた異邦人がやってくる。この映画は彼が提出した報告書である。リストには人工麻薬、ミュータント、スカムパンクス、ノイズアニミスム、ソイレントフード、そしてマンドラゴラなどの項目がある。本企画での上映がワールドプレミアとなる。
『あすなろ参上!』
2013年/HD/カラー/82分(全6話)/日本
監督:真利子哲也/撮影:青木穣、清水絵里加/照明:太刀掛進/音響:黄永昌/助監督:森下佳/監督補:渡辺裕子/ヘアメイク:高岡笑子/制作:岩井秀世、入江初美、市川潤一/編集:田中直毅/エグゼクティブ・プロデューサー:伊賀千晃・白石博一/プロデューサー:朱永菁、田中雄之/音楽:井上卓也・山下智輝/制作プロダクション:ドリームキッド/製作:マッドマガジンレコード、徳間ジャパンコミュニケーションズ
出演:ひめキュンフルーツ缶、山田裕二(UZ YARMAN)、玉井英棋、nanoCUNE、山本剛史/愛媛のご当地キャラ:タルト人、しまぼう、バリィさん 

ひめキュンフルーツ缶主演!〈アイドル〉と〈ゆるキャラ〉の愛媛は松山で繰り広げる、ちょっぴりゆるくて純情本気の青春爆発ストーリー!愛媛のアイドルグループ「アスナロA」は、プロデューサーの芳賀とともに精力的な活動をしている。地元のゆるキャラを助けようとしてライブに遅刻するなど、ゆるくて純情な彼女たち。一方、芳賀は東京からやってきた大手レコード会社の黒岩に、ゆるキャラとアイドルを組み合わせた新ユニット「ゆるキュン」の結成を提案される。無理難題を強いられ解散の危機が迫るアスナロAだったが......。
『NINIFUNI』でのももいろクローバーとのコラボも記憶に新しい真利子哲也が、今度は愛媛のご当地アイドル・ひめキュンフルーツ缶と完全タッグを組んで真正面からアイドル成長物語を監督!乞うご期待!
『歓待1.1』
2010-2013年/カラー/96分/日本
監督・脚本・編集:深田晃司/プロデューサー:杉野希妃、深田晃司/芸術監督:平田オリザ/撮影・照明:根岸憲一/美術:鈴木健介/音楽:やぶくみこ
出演:山内健司、杉野希妃、古舘寛治、Bryerly Long、オノエリコ、兵藤公美 

監督深田晃司、プロデューサーも兼ねる女優杉野希妃、平田オリザ率いる青年団の演技派俳優たちによるコラボレーションによって紡ぎだされたオルタナティブな喜劇映画の可能性。第23回東京国際映画祭日本映画・ある視点部門での作品賞を受賞をはじめ、世界各国の映画祭からのオファーが殺到した話題作。次第に崩壊していく、つぎはぎだらけの家族模様を、洗練されたユーモアで包みながら、時にシリアスに問題提起をし、時に爆笑を誘う。共同体と排除の問題を抱える現代日本を鋭く風刺しながら、家族とは何かを見事に問いかける。本企画では「ディレクターズカット版」『歓待1.1』を日本初上映。
キノトライブ・クラッシクス!

『サンライズ』
1927年/16㎜/モノクロ/無声/95分/アメリカ
監督:F・W・ムルナウ/脚本:カール・マイヤー/製作:ウィリアム・フォックス/原作:ヘアマン・ズーダーマン/撮影:チャールズ・ロシャー、カール・ストルス
出演:ジョージ・オブライエン、ジャネット・ゲイナー、マーガレット・リヴィングストン、ボディル・ローシング、J・ファレル・マクドナルド、ラルフ・シッパーリー 

都会から来た女に誘惑され、妻を殺しかけた田舎暮らしの男が、都会に逃げた妻を負って夫婦の絆を取り戻すという、今もって普遍的な、ともすれば通俗的ともいえる物語を、圧倒的な演出により神話的領域にまで表現。まごうことなきサイレント映画の金字塔である。
F・W・ムルナウは1888年12月28日はドイツ・ビーレフェルトにて出生。ハイデルベルク大学で美術史を学び、第一次世界大戦中はパイロットとして従軍。映画黄金時代のドイツで活動をはじめ、『最後の人』『ファウスト』等で名声を確立。芸術映画の製作という野心を抱いたプロデューサー、ウィリアム・フォックスの招きに応じて渡米し、破格の大作である『サンライズ』を監督した。ドキュメンタリー映画作家ロバート・フラハティと共同で『タブウ』を完成させた直後の1931年3月11日交通事故により42歳で死去。『サンライズ』製作当時、ムルナウはまだ30代後半であった。
※無声、日本語字幕無しでの上映
『カメラを持った男』
1929年/16㎜/モノクロ/無声/75分/ソビエト
監督:ジガ・ヴェルトフ/撮影:ミハイル・カウフマン 

当時33歳の若き映画作家ジガ・ヴェルトフによる、ロシア革命の熱気冷めやらぬソ連社会の発展を、ありとあらゆる角度・方法で捉えた実験的ドキュメンタリーの傑作。プロパガンダ映画を装いつつ、ヴェルトフが提唱したカメラが記録する映画的真実〈キノ・プラウダ〉によって、その「発展」は労働とシステムによって下支えされていることも浮き彫りにされる。ヴェルトフは『カメラを持った男』により世界的名声を得ることとなったが、その後、ソ連政府からは形式主義的との批判を受け映画製作の機会を奪われた。1970年代商業映画から離れたジャン=リュック・ゴダールがジャン=ピエール・ゴランらと結成した映画製作グループ「ジガ・ヴェルトフ集団」の名称の由来となったことは有名である。映像がますます氾濫する現代こそ、人間の視覚を拡張する映画眼〈キノ・キ〉による映画的真実〈キノ・プラウダ〉の重要性を説き、映画の可能性を広げることを追求したジガ・ヴェルトフに連帯を示す時なのかもしれない。
※無声、日本語字幕無しでの上映
『御誂次郎吉格子』
1931年/16㎜/モノクロ/無声/79分(現存版)/日本
監督・脚本:伊藤大輔/原作:吉川英治/撮影・編集:唐澤弘光
出演:大河内傳次郎、伏見直江、伏見信子 

富める者から奪い、貧しい者に与える義賊が一匹!鼠小僧次郎吉が江戸を騒がせる。無数の御用提灯が闇に浮び、彼を追い詰める!伊藤大輔......金融恐慌の頃、現代劇では検閲必至のテロリズムとニヒリズムを時代劇に込め、わずか29歳で「日本映画に最初の人間的息吹を与えた」と評される『忠次旅日記』三部作を撮ってしまった反逆児!しかし当時のフィルムは消耗品。彼のこの時期の作品はどれも完全な形を遺していない......だが1976年、奇跡的に本作の全篇に近い個人蔵フィルムが発見された。『忠次』のトリオが再結集!唐沢弘光が撮影技巧生かし、主演の大河内傳次郎が跳び、33歳になった伊藤大輔が情念込め描く!劇場で「映画が若かった頃」の若き熱情に触れずにいられるか!?
※無声での上映
『春秋一刀流』
1939年/16㎜/モノクロ/74分/日本
監督・脚本・原作:丸根賛太郎/助監督:安田公義/撮影:谷本精史/録音:佐々木稔郎
出演:片岡千恵蔵、沢村国太郎、原健作、志村喬、轟夕起子 

マレーネ・ディートリッヒをモジった監督ネームともいわれる、当時、25歳の丸根賛太郎鮮烈のデビュー作。本作の公開からほどなくして時代は太平洋戦争に突入するが、山中貞雄や伊丹万作らが生み出したユーモア溢れる「マゲをつけた現代劇」テイストが見事に継承されている。天気のいい日に血の雨が降る激しい戦を、加勢してお互いを斬り合うはずの用心棒二人(片岡千恵蔵と原健作)が丘の上でサボタージュ、笑い合う冒頭から作品世界に引き込まれること間違いなし!
『三里塚 辺田部落』
1973年/16㎜/モノクロ/146分/日本
監督:小川紳介/撮影:田村正毅、川上晧市/録音:久保田幸雄 

一連の成田闘争を通過したのちに制作されたいわゆる「三里塚シリーズ」の到達点で最高傑作との呼び声も高い記録映画。『日本解放戦線・三里塚の夏』に見られたような、機動隊との激しいスペクタクル溢れる闘争は描かれないが、三里塚の農民の生活や日常を通して、いわば「見えない闘争」を描き、見事に成功している。もともと三里塚闘争の現地レポ型映画(運動の映画)であった小川プロの作品が真に「映画」になった転換点であり、日本ドキュメンタリー映画史の中でも飛び抜けた破壊力を持つ必見作。小川プロ=小川紳介が実践し続けた、土地に根付いた集団制作体制、自主制作・自主上映を基本スタイルとして、日本の「農民の魂」を伝えようとする試みは、今は形を変え、山崎樹一郎らの劇映画において引き継がれようとしている。これは現代のインディペンデント映画における活動の一つの指針となるだろう。
【特別協賛企画】
独立映画鍋 meets KinoTribe !
独立映画鍋とは? 映画の多様性の創出を目的に2012年に立ち上げられた映画人のための互助組織。特定非営利活動法人。
1月27日(月)、28日(火)、30(木)、いずれも18:30スタート
http://eiganabe.net/
書籍情報
映画はどこにある----インディペンデント映画の新しい波

編者:寺岡裕治
発行元:フィルムアート社
四六版/448頁
定価:2600円(本体価格)予定
2014年2月1日、全国書店で発売!!
1月25日(土)〜、オーディトリウム渋谷にて特別先行販売!! 

書籍についての詳細情報はフィルムアート社ウェブサイトhttp://filmart.co.jp/にて公開中



【本書の内容】
◎12人の監督インタビュー〈インディペンデント映画に関する12の旅程〉
富田克也(空族)/相澤虎之助(空族)/深田晃司/山崎樹一郎/真利子哲也/濱口竜介/三宅唱/山戸結希/木村文洋/松林要樹/リム・カーワイ/柴田剛 

◎インディペンデント映画の現場から
桑原広考(プロデューサー)/大澤一生(プロデューサー)/高木風太(撮影)/岩永洋(撮影)/黄永昌(録音)/島津未来介(録音)/根本飛鳥(録音)/今村左悶(音楽)/直井卓俊(宣伝)/加瀬修一(宣伝)/岩井秀世(宣伝)/Load Show 岡本英之(WEB配信)/KINEATIC 橋本侑生(WEB配信)/菅原睦子(仙台短篇映画祭)/塩田時敏(ゆうばり国際ファンタスティック映画祭)/高野貴子(監督・撮影)/吉川正文(カプリコンフィルム)/北條誠人(ユーロスペース)千浦僚(オーディトリウム渋谷)/オーディトリウム渋谷/ユーロスペース[渋谷]/ポレポレ東中野/K's cinema[新宿]/名古屋シネマテーク/シネマスコーレ[名古屋]/第七藝術劇場[大阪] /シネ・ヌーヴォ[大阪]/横川シネマ[広島]/シネマルナティック[松山]/森宗厚子


<キノトライブ2014>
『映画はどこにある―インディペンデント映画の新しい波』刊行記念企画について、皆様のご意見・ご感想をお待ちしております。
なお、ご投稿頂いたものを掲載するか否かの判断については、
OUTSIDE IN TOKYO 編集部の判断に一任頂きますので、ご了承ください。





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