フランス映画祭2013



今年のフランス映画祭は、団長を務めるナタリー・バイを筆頭に、フランソワ・オゾン(『In the House』)、ジャック&ルーのドワイヨン親子(『アナタの子供』 )、リュディヴィーヌ・サニエ(『恋のときめき乱気流』 )と、派手めの来日ゲストが揃い、会場を華やいだ空気が包んでくれそうな気配が漂っている。とはいえ、ロメールやロジエを引き合いに出され高い評価を得ている新人ギヨーム・ブラック監督の『遭難者』と『女っ気なし』、カトリーヌ・コルシニ監督のクライム・サスペンスの秀作『黒いスーツを着た男』 、ヴェルディ「椿姫」のバックステージを描いた素晴らしいドキュメンタリー『椿姫ができるまで』といったあまり知られていない作品にも注目して、フランス映画の現在を実感しておきたいところ。もちろん、同時期にアンスティチュ・フランセ東京でスタートする「ナタリー・バイ特集」も見逃せない!
(上原輝樹)
2013.6.10 update
6月21日(金)~24日(月)
フランス映画祭2013団長:ナタリー・バイ
*各作品の上映後には、来日ゲストによるトークショーを予定 

会場:有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日劇
料金:【当日券】一般1,500円/学生1,200円
【前売券】チケットぴあにて発売中 詳細はこちら 

お問い合わせ:ハローダイヤル 050-5541-8600 (8:00~22:00) 

公式サイト:http://unifrance.jp/festival/2013/
上映スケジュール

<有楽町朝日ホール>
6月21日(金)
17:40
<オープニング作品>
In the House(英題)
(105分)
※セレモニー(約40分)後、作品上映開始
トークショー:
フランソワ・オゾン、
エルンスト・ウンハウワー














6月22日(土)
11:00
短編作品集
(135分)
トークショー:
マチュー・イポー



14:00
わたしはロランス
(168分) 

トークショー:
ナタリー・バイ


18:30
ローラ
(85分) 
トークショー:
秦 早穂子



6月23日(日)
11:00
森に生きる少年
~カラスの日~

(90分)
トークショー:
ジャン=クリストフ・デッサン
14:00
ウェリントン将軍
~ナポレオンを倒した男~
(仮)

(152分)
トークショー:
バレリア・サルミエント
17:50
アナタの子供
(136分)
トークショー:
ジャック・ドワイヨン
ルー・ドワイヨン
6月24日(月)
11:00
椿姫ができるまで
(112分)
トークショー:
フィリップ・ベジア
ジャン=フランソワ・シヴァディエ

14:30
母の身終い
(108分)
トークショー:
ステファヌ・ブリゼ
エレーヌ・ヴァンサン


17:30
Populaire(原題)
(111分)
トークショー:
レジズ・ロワンサル
デボラ・フランソワ

<TOHOシネマズ 日劇>レイトショー
6月21日(金)
21:15
遭難者(仮)
女っ気なし(仮)

(83分)
トークショー:
ギヨーム・ブラック
6月22日(土)
21:15
テレーズ・デスケルウ
(110分)




6月23日(日)
21:15
黒いスーツを着た男
(101分)
トークショー:
カトリーヌ・コルシニ
ラファエル・ペルソナーズ

6月24日(月)
21:15
恋のときめき乱気流
(96分)
トークショー:
リュディヴィーヌ・サニエ



※開場は各回20分前。オープニングのみ30分前。
※上映後、来日アーティストによるトークショーを予定しております。
なお、スケジュールやトークショー、サイドイベントは事情により予告なく変更となる場合があります。予めご了承ください。
※18歳未満の方は終映が23時を過ぎる上映回には、保護者同伴でもご入場いただけません。
作品ラインナップ
長篇

©2012 Mandarin Cinéma - Mars Films - France 2 Cinéma - Foz
『In the House』(英題)
監督:フランソワ・オゾン
出演:ファブリス・ルキーニ、クリスティン・スコット・トーマス、エマニュエル・セニエ、ドゥニ・メノーシェ、エルンスト・ウンハウワー、バスティアン・ウゲット
2012年/フランス/105分/ビスタ/5.1ch
配給:キノフィルムズ 

かつて作家を志していたジェルマンは、今は高校で国語の教師をしていた。凡庸な生徒たちの作文の採点に辟易していたとき、才気あふれるクロードの文章に心をつかまれる。それは、あるクラスメイトとその家族を皮肉な視点で綴ったものだが、羨望とも嫉妬ともつかない感情に満ちた文章に、ジェルマンは危険を感じ取りながらも文章の才能に魅せられ、クロードに小説の書き方を手ほどきしていく。やがて才能を開花させたクロードの書く文章は、次第にエスカレートして行き・・・。若き作家と教師の個人授業は、いつしか息詰まる心理戦に変わっていく。
第60回サン・セバスチャン国際映画祭で最優秀作品賞と最優秀脚本賞をダブル受賞、第37回トロント国際映画祭では国際映画批評家連盟賞を受賞するなど、ますます国際的に評価が高まっているフランソワ・オゾンのスリリングな最新作。フランスを代表する名優ファブリス・ルキーニと、これが本格的なデビューながら一歩も引かないエルンスト・ウンハウワーとの手に汗握る駆け引きに、一瞬たりとも目が離せない。 

<受賞歴>
2012年 サン・セバスチャン国際映画祭 最優秀作品賞&最優秀脚本賞
2012年 トロント国際映画祭 国際映画批評家連盟賞 

※2013年秋、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamura ル・シネマ他 全国順次公開
『わたしはロランス』
監督:グザヴィエ・ドラン
出演:メルヴィル・プポー、スザンヌ・クレマン、ナタリー・バイ
2012年/カナダ=フランス/168分/スタンダード/5.1ch
配給:アップリンク 

モントリオール在住の国語教師ロランスは、恋人のフレッドに「女になりたい」と打ち明ける。それを聞いたフレッドは、ロランスを激しく非難するも、彼の最大の理解者であろうと決意する。あらゆる反対を押し切り、自分たちの迷いさえもふり切って、周囲の偏見や社会の拒否反応に果敢に挑む長い年月。その先に待ち受けるのは...? 弱冠23歳にしてカンヌ国際映画祭に3作品を出品し話題となったグザヴィエ・ドラン監督による、10年に渡る美しく切ない愛を描いたラブ・ストーリー。ロランス役をメルヴィル・プポー、ロランスの母をナタリー・バイが演じる。フレッド役のスザンヌ・クレマンは、2012年カンヌ国際映画祭ある視点部門で最優秀女優賞を受賞した。 

<受賞歴>
2012年 カンヌ国際映画祭 ある視点部門正式出品作品 最優秀女優賞受賞
2012年 トロント国際映画祭 最優秀カナダ映画賞受賞 

※2013年秋、新宿シネマカリテ他 全国順次公開
©2012 - copyright : Les Productions du Trésor - France 3 Cinéma - France 2 Cinéma - Mars Films - Wild Bunch - Panache Productions - La Cie Cinématographique - RTBF (Télévision belge)© Photos - Jaïr Sfez
『Populaire』(原題)
監督:レジス・ロワンサル
出演:ロマン・デュリス、デボラ・フランソワ、ベレニス・ベジョ
2012年/フランス/111分/シネマスコープ/5.1ch
配給:ギャガ 

世界がドラマティックに変化した、1950年代末。女性たちは自由を求めて社会へ飛び出し、夢に向かって羽ばたいた。スターになれる道は色々あったが、今では想像もつかないのが、〈タイプライター早打ち大会〉。オリンピックさながらの各国代表による激戦を勝ち抜いた女王は、国民のアイドルだった。そんな時代のフランスを舞台に、早打ち以外は何ひとつ取り柄のない女の子が、世界大会を目指す姿を描くサクセス・ストーリーが完成した。敏腕コーチが伝授する、メンタルを鍛え、駆け引きに強くなるコツは、ハードな今を生き抜く私たちにも役立つアイディアでいっぱい。
さらに『アパートの鍵貸します』『シェルブールの雨傘』など、当時の傑作へのオマージュに溢れ、フランスのマスコミも大絶賛、本年度セザール賞5部門にノミネートされた。ロマンティックな女の子の夢と、興奮と感動のスポ根が不思議にマリアージュ、50年代カルチャー満載のポップなエンターテインメントが誕生した! 

<受賞歴>
2013年 セザール賞 5部門ノミネート 

※2013年8月、ヒューマントラストシネマ有楽町他 全国順次公開
『ウェリントン将軍~ナポレオンを倒した男~』(仮)
監督:バレリア・サルミエント
出演:ジョン・マルコヴィッチ、マチュー・アマルリック、カトリーヌ・ドヌーヴ、ミシェル・ピコリ、イザベル・ユペール、キアラ・マストロヤンニ、メルヴィル・プポー
2012年/フランス=ポルトガル/152分/16:9/ステレオ
配給:アルシネテラン 

1810年、ナポレオン皇帝はマッセナ元帥にポルトガル征服を命じる。フランス軍は難なくポルトガルへの進攻に成功したが、それはウェリントン将軍の罠だった...。本作はウェリントン将軍率いる、イギリス・ポルトガル連合軍が、ナポレオンを破るまでの戦いの中で巻き起こる、数々のドラマを詩情豊かに描く壮大なる大河ロマンである。
本作は一昨年この世を去った、名匠ラウル・ルイスの最後のプロジェクト。シューティング前に亡くなったため、生涯のパートナー、バレリア・サルミエントがメガフォンをとり、ジョン・マルコヴィッチ、マチュー・アマルリックほか、特別出演としてカトリーヌ・ドヌーヴ、ミシェル・ピコリ、イザベル・ユペール、キアラ・マストロヤンニ、メルヴィル・プポー等、豪華キャストの出演が話題を呼んだ。新たなる出会い、切ない別れ、大切な人との死別、そして育まれる愛― さまざまな人間ドラマが、混乱の時代の中で繰り広げられる、美しき"戦争絵巻"。 

<受賞歴>
2012年 ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門 正式出品作品 

※2014年、シネスイッチ銀座他全国順次公開
©TS Productions - Arte France Cinema - F comme Films - 2012
『母の身終い』
監督:ステファヌ・ブリゼ 
出演:ヴァンサン・ランドン、エレーヌ・ヴァンサン、エマニュエル・セニエ 
2012年/フランス/108分/ビスタ/ドルビーデジタル 
配給:ドマ/ミモザフィルムズ 

48歳のアランは、長距離トラックのドライバーだったが、麻薬の密輸に加担したため服役し、出所したばかりだ。彼は母親が一人暮らす実家で人生のやり直しをしようとしている。だが几帳面な母親とは昔から折り合いの悪いアランは、なかなか希望しているような仕事につけない焦燥感もあり、事あるごとに母親とぶつかり合う。ボウリング場で知り合い一夜を過ごした女性ともちゃんとした恋愛関係を深める事ができない。しかし、ある時アランは、母親の脳腫瘍が進行しており、母親がスイスの会社と契約を交わし尊厳死を実行しようとしていることを知る・・・。そしていよいよ母親がスイスに出発する朝が来た。アランは母親の選択にどう対処するのか。息子役に個性派俳優ヴァンサン・ランドン、母親役に『人生は長く静かな河』でセザール賞助演女優賞を受賞したエレーヌ・ヴァンサン。共演に『潜水服は蝶の夢を見る』のエマニュエル・セニエ。監督に『愛されるために、ここにいる』のステファヌ・ブリゼ。お互いにきちんと向き合ったことがない、愛情表現に不器用な母と息子の絆を描いた感動ドラマ。 

<受賞歴>
2013年 セザール賞 4部門(主演男優賞・主演女優賞・監督賞・脚本賞)ノミネート

※2013年晩秋、シネスイッチ銀座他 全国順次公開
©2012 - Pyramide Productions - France 3 Cinéma
『黒いスーツを着た男』
監督:カトリーヌ・コルシニ 
出演:ラファエル・ペルソナーズ、クロチルド・エスム、アルタ・ドブロシ、レダ・カデブ 
2012年/フランス=モルドヴァ/101分/スコープ/5.1ch 
配給:セテラ・インターナショナル 

本年度のフランスの最優秀男優に与えられるパトリック・ドベール賞に輝き、アラン・ドロンの再来と話題の演技派俳優ラファエル・ペルソナーズ主演作。『彼女たちの時間』の実力派カトリーヌ・コルシニ監督が描く、犯すつもりのなかった罪を背負った美しき犯罪者を巡り、目撃者の女と被害者の妻の運命が交差する本格派クライム・サスペンス。『ミステリーズ 運命のリスボン』のクロチルド・エスム、『ロルナの祈り』のアルタ・ドブロシが主人公を取り巻く2人の女性を熱演。
アランは自動車ディーラーの社長令嬢との結婚を10日後に控え人生の成功を手にする直前だったが、友人たちと騒いだ帰り道、深夜のパリの街角で男を轢いてしまう。友人たちに促され、茫然自失のまま男を置き去りにして逃走したアラン。その一部始終を、向かいのアパルトマンからジュリエットは偶然目撃する。翌日、被害者の容態が気になり病院を訪れたジュリエットは、そこで男の妻ヴェラに会う。ヴェラと夫はフランスの滞在許可証を持たないモルドヴァ人だった。そして、ジュリエットは病院の廊下で若い男の後ろ姿に目を留める。その男こそ、罪の意識に駆られて様子を確かめに来たアランだった。ジュリエットはアランを追いかけるが...。 

<受賞歴>
2012年 カンヌ国際映画祭 ある視点部門正式出品作品
2013年 パトリック・ドベール賞(将来有望な若手に贈られる賞) 受賞 

※2013年8月31日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷他 全国順次公開
©LFP - Les films Pelléas, Jouror Développement, Acte II visa d'exploitation n°129 426 - dépôt légal 2012
『椿姫ができるまで』
監督:フィリップ・ベジア 
出演:ナタリー・デセイ、ジャン=フランソワ・シヴァディエ、ルイ・ラングレ 
2012年/フランス/112分/ビスタ/ドルビーデジタル 
配給:熱帯美術館 

2011年春、フランスのオペラ歌手ナタリー・デセイは、演出家のジャン=フランソワ・シヴァディエとともに、エクサン・プロヴァンス音楽祭で上演されるヴェルディの傑作オペラ「椿姫」の製作に臨んだ。演奏はルイ・ラングレ指揮によるロンドン交響楽団。才能豊かな2人の芸術家の感性のせめぎ合いが、時に繊細に時に流麗に、名作を新たに蘇らせる。
練習の合間に茶目っ気を見せるデセイ、シヴァディエの演出の下、一つ一つのシーンを積み上げてゆく舞台の製作風景は観る者を魅了する。ステージの幕が上がる前に始まっているオペラの豊饒さを、ヴェルディ生誕200年記念の年に味わえる貴重な機会。デセイの伸びのあるソプラノで聞かせる『椿姫』の名場面も堪能できるオペラ・ファンのみならず、すべてのクラシック・ファンに贈られた貴重なドキュメンタリーである。 

<受賞歴>
2012年 ニューヨーク映画祭 公式招待作品 

※2013年秋、シアターイメージフォーラム他 全国順次公開
©Année Zéro - Kazak Productions
©Année Zéro - Nonon Films - Emmanuelle Michaka
『遭難者』(仮)/『女っ気なし』(仮)
監督:ギヨーム・ブラック
フランス/83分/ビスタ/5.1ch 
配給:エタンチェ

『遭難者』(仮)
出演:ジュリアン・リュカ、アデライード・ルルー、ヴァンサン・マケーニュ/2009年
フランス北部の小さな町で、自転車がパンクしたリュック。それを見て近づいてきた地元の青年シルヴァン。シルヴァンはリュックを助けようとするが......。

『女っ気なし』(仮)
出演:ヴァンサン・マケーニュ、ロール・カラミー、コンスタンス・ルソー/2011年
短篇『遭難者』(仮)と対をなす作品。夏の終わり。バカンスに来た若い母親と娘に、アパートを貸すシルヴァン。3人は海水浴や買い物をして仲良く過ごしていたが、そこに友人ジルが現れ......。
フランスでロングランとなり、エリック・ロメールやジャック・ロジエを引き合いに出され高い評価を得た、新人ギヨーム・ブラック監督初の劇場公開作。 

<受賞歴>
『女っ気なし』(仮)
2011年 フランス批評家組合 最優秀短篇賞 受賞
2012年 AlloCiné スタッフ部門 年間ランキング第1位 

※2013年秋、ユーロスペース他にて公開予定
©Soazig Petit-les films Pelléas
『アナタの子供』
監督:ジャック・ドワイヨン 
出演:ルー・ドワイヨン、サミュエル・ベンシェトリ、マリック・ジディ、オルガ・ミシュタン 
2012年/フランス/136分/ビスタ/ドルビーDTS 

7歳の娘リナと暮らすアヤは、歯科医の恋人ヴィクトールがいるにも関わらず、3年前に別れた前夫でリナの父親のルイと時々会っている。今は若い恋人ガエルとつきあっているルイは、アヤがヴィクトールとの子供を作りたがっていると聞き、嫉妬を隠せない。一方、アヤがルイと会っていることを知ったヴィクトールも心中穏やかでない。そんな時、ルイの発案で4人は一緒に夕食をとるが、食事会は微妙な雰囲気となり、事態は一層錯綜する......。恋愛のもつれを描かせれば右に出る者のいないドワイヨンだが、従来の作品に比べると軽いタッチで撮られた本作においてもその手腕は際立っている。アヤが誰を選ぶのか、登場人物たちとともに観客も最後の瞬間まで振り回されるだろう。奔放なヒロイン、アヤを演じたのはドワイヨンとジェーン・バーキンの娘ルー・ドワイヨン。ルイを演じたサミュエル・ベンシェトリは『歌え!ジャニス★ジョプリンのように』を監督し、舞台演出や小説も手がける才人。大人の諍いの目撃者となり、物語上でも重要な役割を担うリナを演じたオルガ・ミシュタンの素晴らしい演技も見逃せない。撮影は名手レナート・ベルタと『皇帝ペンギン』のロラン・シャレ。 

<受賞歴>
2012年 ローマ国際映画祭コンペティション部門 正式出品作品
『恋のときめき乱気流』
監督:アレクサンドル・カスタネッティ 
出演:リュディヴィーヌ・サニエ、ニコラ・ブドス、ジョナタン・コーエン、アルノー・デュクレ 
2012年/フランス/96分/スコープ/ドルビーデジタル 

アーティストのジュリーはニューヨークで彫刻の個展を終え、パリに帰国するために空港に向かう。ビジネスクラスにアップグレードされて喜んだのも束の間、隣の席に駆け込んできたのは3年前にひどい別れ方をした元恋人のアントワーヌだった。席を移ろうにも、あいにく機内は満席。気まずい雰囲気の中、言葉を交わし始める二人。だが、まだヨリを戻したがっているアントワーヌに対し、結婚を控えているジュリーは、できれば口も聞きたくない。アントワーヌの窮状を見かねて必死に助言する周囲の乗客たち。到着まで7時間、乱気流に巻き込まれながらも飛行機はパリへと向かう......。
今年4月にフランスで公開されたばかりのロマンチックなラブ・コメディ。機内での会話の合間に出会いから別れまでのエピソードがフラッシュバックされ、二人の間に何が起こったかを徐々に観客にわからせる構成が面白い。脚本はアメリカのテレビドラマで俳優として活躍するヴィンセント・アンゲルのオリジナル。女性関係にだらしないアントワーヌを演じたニコラ・ブドスは脚色・台詞にも参加した。巧みな会話のみならず、エッフェル塔やオルセー美術館などを美しくとらえたロケ撮影も見どころだ。
Eddy Brière © Les Films du 24 - UGC Distribution - 2011
『テレーズ・デスケルウ』
監督:クロード・ミレール 
出演:オドレイ・トトゥ、ジル・ルルーシュ、アナイス・ドゥムスティエ 
2011年/フランス/110分/シネマスコープ/ドルビーステレオ 

ノーベル賞作家フランソワ・モーリアックの代表作にして、フランスのカトリック文学史上の不朽の名作と言われる同名小説の映画化。舞台は1920年代、フランス南西部のランド県。テレーズは家同士が決めた結婚により、広大な松林を所有するデスケルウ家の当主ベルナールの妻となる。このような政略結婚が当たり前だったこの時代、何の疑問も持たずに結婚したテレーズだったが、愛のない結婚生活と旧態依然とした家族制度に次第に息苦しさを感じ始める。ベルナールの妹で、幼馴染みの親友でもあるアンヌが家族の反対にも関わらず若い青年ジャンと恋に落ちたことは、テレーズの心の中に今置かれている状態から逃れたいという思いを芽生えさせる......。本作が惜しくも遺作となった名匠クロード・ミレールは、思いもかけぬ方法で自らを取り巻く世界を打破しようとするヒロインの姿を一切の感傷を排して描く。当時の雰囲気を徹底的に再現した美術、あるいは牢獄のように冷たい室内空間と開放的な屋外のコントラストを効果的に表現した撮影は、台詞で説明する以上の説得力をもってヒロインの行動の意味を見る者に伝えるだろう。この難役に挑戦したオドレイ・トトゥの演技も素晴らしい。 

<出品歴>
2012年 カンヌ国際映画祭 クロージング作品
©finalement 2012
『森に生きる少年 ~カラスの日~』
監督:ジャン=クリストフ・デッサン 
原作:ジャン=フランソワ・ボーシュマン 
声の出演:ジャン・レノ、ローラン・ドゥーチェ、イザベル・カレ、クロード・シャブロル、シャンタル・ヌーヴィルト 
2012年/フランス/90分/シネマスコープ 

アヌシー国際アニメーション映画祭でワールド・プレミア上映され、絶賛を受けた作品。人間界との交わりを絶って森の奥深くで暮らす父親に育てられた少年は、足を怪我した父親を病院に運ぶため、山の麓の村を訪れる。少年が初めて経験する文明社会の中での戸惑い、同世代の少女との出会い、そして次第に明らかになる両親の秘められた過去......。
少年の成長が印象派絵画を思わせる美しい色彩の中で展開され、見る者に爽やかな感動を残す。2010年に惜しくも亡くなったヌーヴェルヴァーグの巨匠クロード・シャブロルが村の医師の声を担当している。
©2012 CinéTamaris-Fondation Groupama Gan-Fondation Technicolor
『ローラ』
監督:ジャック・ドゥミ 
撮影:ラウール・クタール 
音楽:ミシェル・ルグラン 
歌詞:アニエス・ヴァルダ 
美術・衣装:ベルナール・エヴァン 
出演:アヌーク・エーメ、マルク・ミシェル、ジャック・アルダン、アラン・スコット、エリナ・ラブールデット、アニー・デュペルー 
1961年/フランス/85分/DCP/白黒/シネマスコープ/モノラル *協力:シネタマリス 

港町ナントでの生活に退屈していた青年ローランは、幼なじみのローラに10年ぶりに再会する。ローランは彼女への愛に気づいて生きる希望を抱くが、キャバレーの踊り子をしているローラは7年前に街を去った恋人のミシェルを忘れられない...。 さまざまな登場人物がすれ違いながらも再び出会う巧みな構成の物語を、クラシックやミシェル・ルグランの音楽にのせて、みずみずしく軽やかな演出で描いたドゥミの長編処女作。脚本も手がけたドゥミは、アヌーク・エーメの個性と魅力の新たな一面を引き出すべく、彼女を思い浮かべながら踊り子ローラを作り出した。時に陽気で時にメランコリックなこのヒロインを、アヌーク・エーメは魅力たっぷりに演じ、見るものを虜にする。 故郷ナントを舞台にした本作でデビューしたドゥミは、2年後に『シェルブールの雨傘』でローランを再び登場させ、7年のちにローラのその後の生活を『モデル・ショップ』で描くなど、作品を超えて登場人物が行き交う世界を作り出してゆく。こうしたジャック・ドゥミの作品群の原点ともいえる『ローラ』。今回は、ジョルジュ・メリエスの『月世界旅行』の修復プロジェクトなどを手がけた仏・米の団体による2012年のデジタル修復完全版での上映となり、撮影のラウール・クタールが美しく捉えたナントの光が、再び、スクリーンによみがえる。 

※この映画はグルーパマ・ガン映画財団と映画文化遺産のためのテクニカラー財団により修復されました。
短編

『全てを失う前に』
監督:グザヴィエ・ルグラン
出演:レア・ドリュケール、アンヌ・ブノワ、ミリヤン・シャトラン
2012年/フランス/30分 

学校をさぼって橋の下に隠れている少年。恋人との別れを惜しみ、バス停で涙にくれている少年の姉。彼らを順番に車に乗せていく母親。3人はスーパーマーケットの駐車場に到着し、急いで店内に入っていく。夫の暴力から逃げるため、子供をつれて他の土地へ逃げることを決めた彼女は、勤務先に給料の精算を頼みに来たのだ。ようやく未払い分の一部を手にしたものの、店内や周辺で彼女を待ち伏せる夫を避けて店から出ていかなくてはならないが・・・。 グザヴィエ・ルグランはこの家庭内暴力についての作品を通し、時間との闘い、社会的スリラーを描く。クレルモンフェラン国際短編映画祭で4部門を受賞した話題作。 

<受賞歴>
2013年 クレルモンフェラン国際短編映画祭 国内コンペティション部門 最優秀作品賞ほか 4部門受賞
『妻の手紙』
監督:オーギュスト・ザノヴェッロ
声の出演:コンスタンタン・パッパス、アデリーヌ・モロー、ジェローム・ポヴエルズ
2013年/フランス/15分11秒 

大戦の前線で、看護士のシモンは負傷兵の壊れた体を彼らの恋人や妻、故郷で待つ女性たちの手紙を使って「修理」していく。女性からの手紙には治療の力があるのだ。しかし、予期せぬ死に襲われても紙に書かれた言葉はまだ人を救えるのだろうか。
© Jean-Claude Moireau
『からっぽの家』
監督:マチュー・イポー
出演:フランク・ファリーズ、ミレイユ・ペリエ、フィリップ・フォコニエ
2012年/フランス/19分 

17歳のヴァンサンは、1人で夏休みを過ごしている。お金を稼ぐ為に、錠前屋の父親を手伝っている。ある日ヴァンサンは誰もいない家に空き巣に入るが...
『日本への旅:捕縄術』
監督:バスティアン・デュボワ
声の出演:サヤカ・ヒサダ
2013年/フランス/3分 

捕縄術は人を紐で縛る日本の伝統武術。緊縛はいわゆるボンデージで、セクシーな大人の遊び。作者が日本を旅して知った、幅広い捕縄術の使用法がイラストとともに紹介される。
『オマール海老の叫び』
監督:ニコラ・ギオ
出演:クレール・トゥムルー、アントン・クズマン、タチアナ・ゴンチャロヴァ、ミグレン・ミルチェフ
2012年/フランス、ベルギー/30分 

ロシア出身の6歳のナタリアは両親とともにフランスに移住したばかり。チェチェンに闘いにいった兄ボリスの帰りを心待ちにしている。そして遂にその日がやってくるが、ナタリアは戸惑い、いぶかしがる。これが本当に兄のボリスなのか...? 

<受賞歴>
2013年 セザール賞 短編映画賞 受賞 
2012年 ブレストヨーロッパ短編映画祭 最優秀賞 俳優賞(クレール・トゥムルー)受賞
『移民収容』
監督:トマ・クルイトフ
出演:アンヌ・アズレー、ミグレン・ミルチェフ、フアッド・アウニ
2012年/フランス/14分32秒 

フランスの移民収容所。マチルドは、そこに閉じ込められた外国人たちの権利を守るために奮闘している。ある日、ウクライナからユリがやってくる。彼の強制退去を防ぐため、マチルドの時間との闘いが始まる...。
『次で最後(63年秋)』
監督:マチュー・アマルリック
ナレーション:フレデリック・ワイズマン、デヤ・ケント
2012年/フランス/5分36秒 

アメリカテキサス州のアーリントンにあるプライベートコレクションを訪れたマチュー・アマルリックが、エドワード・ホッパーの最後から2番目の作品、開かれた窓から田舎の風景が広がる「Sun in an empty room」(1963年制作)を映し出す。 フレデリック・ワイズマンによって演じられるホッパーの声と妻のジョセフィーヌの声が流れる中、アマルリックのカメラが絵の隅々を追い、そこに隠された謎を追って行く。8人の監督、俳優、アーティストたちが、"ホッパー"をテーマにそれぞれの作品を制作するプロジェクトの内の1作。このプロジェクトには、他にヴァレリー・ムレジャンやドミニク・ブランなどが参加している。
『春』
監督:ジェローム・ブルベス
2012年/フランス/15分13秒 

森の奥深くの神殿。マスクをかぶった人形たちが春の祭を待ちわび、準備をしている。音楽が鳴りだす。生け贄がつながれた檻が一つ運ばれてくる。そして春を祝う祭りが始まる...。


フランス映画祭2013について、皆様のご意見・ご感想をお待ちしております。
なお、ご投稿頂いたものを掲載するか否かの判断については、
OUTSIDE IN TOKYO 編集部の判断に一任頂きますので、ご了承ください。





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