OUTSIDE IN TOKYO
Yoshida Daihachi Interview

吉田大八『桐島、部活やめるってよ』インタヴュー

5. 学校に40人子供がいたら40人分のパラレルな物語があるはず

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OIT:宏樹を演じた東出昌大さんがとても良かったんですけど、キャラクターとしては不思議な人物造形ですよね。これも一種の不在の描き方なんですけど、彼が相当いいアスリートじゃないかっていうのは見てると何となく分かるんだけど、実際にそういうシーンはないわけです。
YD:バスケットを結構上手にやってますけど、野球はないですね。

OIT:野球部にまだ籍は置いてるんですよね?
YD:はい、籍をおいて辞めてはいない。辞めてはいないし、なぜか野球部の時に使ってた鞄を持って学校には来てるっていう。

OIT:映画部の前田と宏樹が二人で向き合う場面が可能なのは、宏樹が持ち合わせてる繊細さのためですよね。
YD:アメリカ映画に出てくる単純なジョックスとは違うんですよね。当然宏樹にしても、宏樹の彼女、沙奈(松岡茉優)のちょっと意地悪な感じとか、トップにいる女の子、梨紗(山本美月)にしても、それぞれにやっぱり葛藤だったり、上手くいかないことに対する苛立ちだったりを抱えている。一方的に誰かを応援するような映画にはしたくなかった。化粧と男の子のことしか考えてないと思われがちな女の子たちにどれくらい寄り添えるか、が勝負でした。だから宏樹の場合も、学校において万能であることで、前田の側からは、何も葛藤がないので物語を持ちようがない、というような人間に見えているし、自分も無意識にそのことを受入れてしまっている状態です。だからその宏樹が自分自身の物語に目覚める様子を描くのは凄くやり甲斐のある作業でした。

OIT:結構チャレンジングなことですよね。
YD:そうですね、学校に40人子供がいたら40人分のパラレルな物語があるはずだっていう。それぞれの視線や思いが交わる場所で起こる小さい反応や大きな爆発を丁寧に拾っていけば、物語の世界が強くなるはずだと信じてやってました。屋上のシーンにしても、彼らの中で高校時代の屋上の一日っていうのは、あんなことがあったなっていう、少し特別な一日になってるはずだっていう思いでは作りましたね。

OIT:脚本は喜安浩平さん(劇団ナイロン100℃)との共同ですけど、どういう風に進めましたか?
YD:今回は原作があるので何回か打ち合わせをした後、喜安さんに書けるところまで書いてもらって、そこから交互にやりとりしながら詰めていった感じです。

OIT:脚本を一通り最初に作って、それからロケハンしたんですか?
YD:最終的には21稿が決定稿になりましたが、そこまで行く前に先行してロケハンは始めていました。屋上からの風景や、科学棟の裏の雰囲気はイメージとして固まりつつあったので、逆になかなか「これ!」という物件が見つからなかった。


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