OUTSIDE IN TOKYO
TALK SHOW

佐藤優『マルクス・エンゲルス』トークショー

7. エンゲルスのモラルはマルクスをサポートし、
 周辺の人々をサポートし、共産主義運動を作ろうとした

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ところが大学の先生じゃなかったから、いい弟子達が集まらない。その結果、高畠の思想っていうのは公の世界からは消えたんだけれども、例えば今、官製春闘みたいな形で政府が間に入って企業の内部留保を賃上げにしろって言って実際実現してるよね。それから日本の国っていうのも、それをもっと強化して、消費税なんかの使い方を変えることで平等を実現していこうとしている。あるいは国家によってブラック企業を取り締まろうっていう考え方は、実は高畠素之が見た夢と似てるわけ。だから気をつけないと我々にとって格差が激しい資本主義って決して魅力的じゃないけれども、マルクスのこの未練のような形での共産主義っていうのは、実際に行われたのがソ連型のスターリン主義、あるいは今生き残ってるのが、社会主義国は北朝鮮とキューバ、それから社会主義っていう名前だけはつけてるんだけれども、ベトナムと中国っていうことだとあまり魅力ないよな。

その中においてファシズムっていう言葉は使わないけれども、国家介入によって資本主義の欠陥を是正していこうっていう考え方が出てくる。それが高畠素之、日本では高畠素之よりもこの問題を深く考えた人はいないから、私は、約10年前に新潮社の新潮っていう文芸誌に「高畠素之の亡霊」っていう連載を書いた。それを暫く寝かしおいた。どうしてかっていうと5〜6年前に発表しても、時代的なインパクトをあまりもたないと思ったから。それが今月末に新潮選書っていうシリーズから出ますので、どこかで見かけたらこれを見てもらうと、今回の『マルクス・エンゲルス』と併せて、国家機能っていうことを考える上でいいと思う。

私は、この『マルクス・エンゲルス』の原点っていうのは非常に重要だったと思うんだけれども、それは、やっぱりエンゲルスの中に隠れてある宗教性なんだよね。マルクスはユダヤ人でキリスト教に関しては拒否反応が強かった。この映画の中でも、堅信礼にもちろんお前は出てこないだろうなってお父さんが言うシーンがあるでしょ。エンゲルスはカルヴァン派のクリスチャンだった。それで教会を離れてもカルヴァン派的な“選び”の発想だったと思う。彼が成功してるのは神様によって選ばれているんだけれども、その選ばれている自分の持っている富は神様から貰ったものだから、それは神様にお返しする。しかし神様に直接お返しすることは出来ないから隣人に返す、隣人愛を説いてる。

神様っていうのはなくなって、キリスト教っていうのはなくなったんだけれども、エンゲルスのモラルはマルクスをサポートし、周辺の人々をサポートし、共産主義運動を作ろうとした、その考え方は非常にカルヴァン主義的であると思う。これは第一次世界大戦に直面して今までのキリスト教界を徹底的に批判する中で、危機の神学とか弁証法神学というものを作ってきたカール・バルトっていうスイスの神学者がいるけれども、その人なんかとも親和性がある。この問題に最近強い関心を持っているのは柄谷行人さんだよね、柄谷行人さんの思想を理解する時にもこの『マルクス・エンゲルス』は役に立つ。ちなみに光文社新書から私はエンゲルスについて一冊本を出しています、『キリスト教神学で読みとく共産主義』という本です。先程言った廣松渉が若い頃に書いたエンゲルス論を批判する、まさに“批判的批判についての批判”の本を作ったわけです。


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