OUTSIDE IN TOKYO
TALK SHOW

佐藤優『マルクス・エンゲルス』トークショー

5. (マルクスは)搾取制度の批判をしたけれども、
 個人的な付き合いにおいては他者から徹底的に搾取した

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ちょっとゴシップ的な話をします。エンゲルスは生涯子供を作らないと言ったんだけれども、一人だけ子供を認知してる。マルクスと奥さんのシーンで、最初のメイドが盗みばっかりする、色んなことを詮索してるってことで、故郷からレイチェルっていうメイドさんを連れてくるでしょ、そのメイドとの間にエンゲルスが産ませた子供っていうことになってた。ところが本当は違う。マルクスの奥さんが天然痘にかかるのね、それで寝込んじゃってSEXが出来ない時にマルクスがレイチェルと寝て作った子供なの、唯一のマルクスの男の子。ところがマルクスは認知したくないって暴れた、それでお前は結婚していないから認知しろと言って、認知させた息子だった。それがエンゲルスの息子と称してる男の子だったわけ。

マルクスは彼を家にも寄せ付けなかった、というのは有名な話で、新潮社版の『マルクス・エンゲルス選集』のマルクス伝にも書かれている。ところで、この一番下に生まれる二人の女の子の下にさらに一人エレナっていう子が生まれる。それ以外、男の子が二人生まれたんだけど、すぐに死んじゃうんだな、小さい時に。このエレナっていう子が一番マルクスの理論をよく理解してたんだけど、最後は自殺してしまう、長女のお姉さんも自殺しちゃうんだけど。そういう状況の中で、晩年のエンゲルスがエレナにいつまでもお父さんのことを神聖視して道徳的に潔癖な人間と思ってはいけないということで、本当のことを教えた。あれは俺の子じゃないよと、お前の弟だと。こういうようなこともマルクス伝の中に入ってる。

簡単に入手しやすいマルクス伝に関しては、自分の本を紹介するのは照れ臭いんだけれども、新潮文庫に「いま生きる「資本論」」という本があるんです。その本にマルクス伝と初期のマルクスの考え方が後期になってどういう風に変わっていくか、それから経済理論の基礎、労働力っていうものが商品化されてくっていうことを発見するのがマルクスの考えのポイントだっていうことを書いた。ただこの労働力の商品化っていうものを変えれば、人間は“本来の人間”に戻っていくことが出来るんだっていう考え方で、初期のマルクスの考え方は少し形を変えるけれども、晩年まで生きてる。

さらに、エンゲルスとマルクスの関係で面白いのは、あのバーンズっていう女性が死んじゃうわけ、病気を患って。エンゲルスはすごい悲しんでるわけね。その時マルクスからお見舞いの手紙が届くんだけど、ところでと、俺は金が無い、だからお前の方で少し金を融通してくれと、そうじゃないと家賃も払えなくなる。こういうのが来て、エンゲルスは激怒して、君とはもう絶交だと、俺がどういう気持ちかわかってるのかっていう絶交状を書いた。そうしたらマルクスは、あの時はつい貧困のことで自分はカーッとしていて、君の気持ちにまで思いが至らないで本当にすまないと言って和解した、こういう経緯がある。

だからマルクスっていう人は、ある意味では、今で言うとサイコパスとまでは言わないけれども、境界線人格障害みたいな人だったことは多分間違いない。搾取制度の批判をしたんだけれども、個人的な付き合いにおいては他者から徹底的に搾取して、自分の妻からも搾取して、自分が作った子供も認知しない、そういう人だったことは間違いない。しかし歴史においては往々にしてそういう人が大きな仕事をやるんだよね。


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