OUTSIDE IN TOKYO
TALK SHOW

佐藤優『マルクス・エンゲルス』トークショー

3. マルクスが考えた共産主義革命っていうのは、
 疎外された人間を真っ当にしていこうっていう視点を持っている

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マルクスは、お金が無くなるとエンゲルスに時々手紙を書くわけ、その理由が娘にピアノを勉強させたいとか、夏休みはコートダジュールで休暇をとりたいとか、こういう理由なんだな。ところがそれを断ると、俺にプロレタリアートのような生活をしろと言うのか、というような手紙を書いて送る、そういう人でもあった。だからそういう意味においては、マルクスもエンゲルスもマルクス主義の考え方でいうと、その人が主観的にどう思ってるかじゃなくて、その人が経済的にどういう構造にあるかっていうことが重要だから、となると資本家なんです。

そうしたら今の企業、皆さんが働いてるところを見渡して、マルクスのような人をサポートする資本家がいるだろうか?あるいはエンゲルスのようなことをする資本家がいるだろうか。ここは、やっぱり大きな疑問なんだよね。死ぬまで働けみたいなことを言う資本家っていうのは、実はそれは人間として非常に疎外されてるわけ。だからマルクスが考えた共産主義革命っていうのは、そういう人を真っ当な人間にしていこうっていう視点を持っている。

さて、今は非常に手に入りにくくなってるレアものなんだけれども、新潮社から1980年代の終わりまで『マルクス・エンゲルス選集』っていう本が出ていた。第一巻がヘーゲル批判で、この中に『ヘーゲル法哲学批判序説』というテキストがあって、この映画の中にそれが出てくる。それから第二巻が『イギリスにおける労働階級の状態』、これは(エンゲルスが)将来のパートナーである(メアリー・)バーンズと知り合ったあの時の状況とか、マンチェスターで労働者がどういう状態にあるかっていうことがこの本に出てる。そして、最後に二人が一生懸命書いていた『哲学の貧困』、それもこの中に入ってる。マルクス・エンゲルスのものが全部で十二巻、資本論解説が十三巻目、十四巻目が剰余価値学説史解説で、十五巻目がマルクス伝、ちなみにマルクス伝っていうのは向坂逸郎(さきさか いつろう)っていう人が書いてるんだけれども、そこには金の無心の話とかね、そういうのがたくさん書いてある。そういう意味においてはあまりマルクスを神格化してない自伝でもある。

それから最後の十六巻目がマルクスに対する批判とそれに対する反批判というのが入っていて、マルクス主義全体を知るにはものすごくいい本なのね。しかもこの中には、共産党員の翻訳者が一人もいない。要するに非共産党系のマルクス主義者、向坂逸郎とか大内兵衛(おおうち ひょうえ)とか宇野弘蔵(うの こうぞう)とか、こういう人達と、例えば東大の学長をやった、むしろ反共産主義的考えの林健太郎なんていう人、そういった人がドイツ語をきちんと訳せて、マルクスの言っている論理がよくわかっているっていう人を基準に翻訳者を決めて、それで共産党の宣伝とかソ連の宣伝にならないような“都合の悪い文章”、例えば末期のエンゲルスが書いた「原始キリスト教の歴史について」なんて、キリスト教を肯定的に評価しているような文章まで入っている。

それが、私が2~3年前からこのシリーズは非常にいいと褒めたからか?今日本の古本屋で買うと高い時は4万円とか5万円するようになってしまった。だから今日帰りがけに余裕のある人は古本屋の前に一冊200円とか300円とかの棚のところあるでしょ、そこに間違えて紛れて出てることがあるので(笑)、そこで買っていくと、そういったものを200~300円で手に入れられるかもしれない。


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