OUTSIDE IN TOKYO
OHATA HAJIME INTERVIEW

大畑創『へんげ』インタヴュー

4. 貞淑な妻として生きてきたけれども、
 本当はこういうことをやりたかった、という疾しい欲望

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OIT:いいですね、爆音向きなのではないでしょうか。ところで、監督は基本的に無茶しないといけないっていうことをおしゃっていて、まあ見てればちょっと分るような気がするんですけど、今振り返って、例えば具体的にどうですか?
大畑:全部、大変っていえば大変なんですけど。例えば、旦那さんがもう気が狂っちゃってギャーギャー言ってるカットを撮ってる時、日常生活でこんな状態にならないですよね、まあ無茶してもらったわけなんですけど、ギャーギャー騒いでる中でやっぱり相澤さんも息切れしちゃって、気絶しそうになっちゃったんですよ。

OIT:あれは観てて結構きつそうだなと思った、結構凄かったですよね(笑)。
大畑:本当、気を失いかけちゃって撮影が止まったりするようなところがありましたね。

OIT:演出はどんな感じなんですか?演技指導とかは?
大畑:あのシーンに関しては、撮影入る前に相澤さんと広い部屋を借りて二人でいかに気持ち悪い動きをするかっていうのを研究しました(笑)。多分、端から見たらばかばかしいことやってたと思うんですけど、ここでこうやって動いたら気持ち悪いよ、とか。

OIT:それは特殊メイクとか無しの状態ですか?
大畑:はい、ジャージ着てやりましたね。

OIT:装着した特殊メイクの中は別の方が?
大畑:いや、全部相澤さんなんですよ。本当は相澤さんである必要はないんですけど(笑)。でも目と口は露出させるデザインでしたし、動きもご本人のものを撮りたかったので出来れば相澤さんにやってもらいたかったんです。

OIT:これどこまで書いていいかっていう話になるんでしょうけど、これが未だかつて映画で観たことないような、クリエイチャーというか、あそこの下半身の真ん中で屹立しているものが凄いですね(笑)。こういうのにしたいと、美術さんとやり取りしたのでしょうか?
大畑:あの着ぐるみ関係を作ってくれたのが東京ビジュアルアーツっていう学校の学生さんで、その中の宇田川祐さんっていう方が率先してやってくれたんですけど。イメージをお伝えして、例えば、何でしょうね、『遊星からの物体X』(82)みたいなやり方で作られたような化け物、そういうお話しをして、それで宇田川さんがデザイン画を書いてくれて、それに従って有志何人かで特殊メイクを作ってもらったっていう感じなんですけど。

OIT:立派なペニスについては。
大畑:デザイン画の段階でもついてたと思うんだけど。

OIT:デザイン画はその方が書いた?
大畑:そうですね。

OIT:じゃあ、つけようよって、そういう提案だったわけですか?
大畑:なんか多分、あ、ついてるなってみんな思ってたんですけど。(iPhoneでデザイン画を見ながら)あ、これついてないかな。

OIT:あ、格好いいですね。
大畑:そうなんですよ、その時はまだ格好いい段階だったんですけど、もうちょっと格好悪くしてって。

OIT:あ、後ろは、こんなことになってたんだ。
大畑:そうですね、色んな生物がっていうイメージだったんでの鼻とかも付いてたんですよ、本当は。あんまり写らなかったですね。

OIT:ちょっと暗い部分もありましたからね。これ凄いですね、こういうのってなんかパブリシティに出したりとか出来るんですか?
大畑:あ、そうですね。

宣伝会社女性スタッフ:いや、その絵の存在を知らなかったです。でも凄くいい絵ですね、パンフレットとかに載せたいですね。

大畑:それは載せたいですね。もう載せられないですか?

宣伝会社女性スタッフ:今日、ラフが上がってきたんですけど、、。

OIT:デザイン画としては完成に近いレベルですよね。ところで、音楽はどの段階で長嶌さんに?
大畑:それはもうイン前からシナリオをお渡ししてっていう感じです。

OIT:もう長嶌さんにこの作品に関しては絶対音楽作ってほしいっていう?
大畑:そうです。さっきも話に出た『狂気の海』で僕も参加してて長嶌さんも音楽作られてるんです、で、こういう音楽なら『へんげ』にも合うかなと、是非お願いしますということで。

OIT:素晴らしかったです。いきなり物語が展開するわけではないわけですよね、でも冒頭から長嶌さんの音楽で、ゴジラじゃないけど、なにか登場感があって凄く良かったですよね。続いて、内容についてお聞きしたいのですが、この奥さん(森田亜紀)が抑圧された何かを抱えているというのは、それは性的なものでしょうか?
大畑:それもありますね、大雑把に言うと疾しい欲望と言いますか、貞淑な妻として生きてきた、だけども本当はこういうことやりたかったみたいな。

OIT:誰しも、100人中100人か分んないですけど、多くの人がそういう状態ではありますよね。それが性的なことだけじゃなくて、ゆくゆくは世界対自分達二人みたいな、対立構造になっていく。
大畑:ならざるをえない状況になっちゃうと言いますか、別にこの人達多分世界を壊したいとか、そういう欲望は多分無いと思うんです。ただ自分の欲望の赴くままに好き勝手やっただけ。そういう状態になっちゃったら世間一般と相容れない状態になっちゃうだろうなとは思いますけど。

OIT:そこは世間に対してどうこうっていうことではないんだけど、そこで闘うというエネルギーが映画の中に生まれた、対立構造によって力が生まれている。
大畑:シナリオのことを考えてる最中、新宿副都心を通りかかった際に、ビル街の中で旦那を見て奥さんが涙してるってゆうラストシーンを思いついたんですけど、これ感動的だなってその時に思ったんですね。なんで感動的なんだろって考えたら、やっぱりあんな状態になっちゃった旦那を助けるって言いますか、奥さんの行動が感動させるんじゃないかと。

OIT:確かに、僕もそうだったんですけど、最後は感動させられてしまうんですよ、意外にもというか。
大畑:なので、あんまり世界と対立ということを、考えたわけではなくて。

OIT:なるほど。今、『へんげ』も中編映画なんですけど、真利子哲也監督の『NINIFUNI』とかもそうだし、横浜聡子監督の『真夜中からとびうつれ』とか、長編だけじゃなくて色んなフォーマットの撮り方の可能性が探られてるのかなという気がします。今度の真利子さんの新作も空族の富田克也さんと冨永昌敬さんとオムニバスで沖縄映画祭でやる、それもだから中編が三つっていうことですけど、そういうことに関しては何か考えることはありますか?
大畑:いや、これは本当にないんですけど(笑)、『大拳銃』も『へんげ』も予算から逆算された尺数だったりするんで、自主映画で僕がやる限界の尺が50分ぐらいだっていうことでしかないですね。

OIT:じゃあもう物理的な制約で。
大畑:物理的、経済的に。


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